第89話 タラサの試練
ロージナがスイッチの上に立ったままウィレナ(J)に話しかける。
「ウィレナちゃんが部屋に入ってしばらくしたらね。あの階段が出てきたんだ。ウィレナちゃん。中で何かあった?」
「中では試練と言ってモンスターと戦わされたわ。自分の影ともね。その後、レーヴェリオンが「試練を突破した」とか言っていたけど、おそらくそれかしら。」
「きっとウィレナだけが登れる階段なのかな?タラサ、試しに登ってみてくれるかい?」
「いいよー!それっ」
タラサがスイッチから降りるとウィレナの背後で扉に鉄格子がかかる音が聞こえる。そしてタラサが出現した階段にぴょんとジャンプして乗ろうとするが、するっとすり抜けてしまった。
「あれ?乗れない。」
「きっと試練とやらを突破しないと登れないのでしょうな。ウィレナ様。お一人でも進むことが出来るかと思いますが、いかがなされますかな?」
「マウガン、意地悪を言わないで。当然。みんなと一緒に行くわ。」
「じゃあ次!次あたし行きたい!」
タラサが手をあげてぴょんぴょんと飛ぶ。いつの間にか元居たスイッチの場所に戻っていた。
「全員で試練とやらを突破しよう。」
ウィレナ(J)は直近の空いているスイッチの上に乗る。そしてJはタラサに憑依してスイッチから降りると、直近の鉄格子がズシンと開いた。
「じゃあ行ってくるねー!」
タラサは皆に手を振りながら部屋に入っていく。扉の横の石板にはこう書かれている。
『此の先、一人のみ進入を許す。其の者、投擲を用いて苦難を退ける者也。其の力試さしてもらわん。』
タラサが部屋に入ると部屋の左手には幅20メートルはあるベルトコンベアーがタラサ側に向かって回転している。そして向かって正面には奥に続く扉が鉄格子によって閉ざされている。部屋の中央には椅子があり、いかにも座ってくださいと言わんばかりだ。タラサはその椅子にちょこんと座る。すると、タラサの両足が鉄の拘束具によってガチャリと固定される。
「え!?何!?何事!?」
タラサは慌てて立ち上がり拘束具を外そうとするが、拘束具はしっかりと地面で固定されてしまっていて外れそうにない。そしてタラサが立ち上がると同時に、椅子がひゅんと下に下がり床に格納された。そしてタラサの左右の床から箱がせりあがってきて、パカッと箱が開かれる。中には、グレネードに込められるなんの変哲もない鉄の球が大量に入っていた。
すると、タラサの正面のベルトコンベアー上部から騎士甲冑を身に纏ったゴブリン、ゴブリンナイトがベルトコンベアーに落下してきて、タラサに向かって歩いてくる。
「ここに来る前に殲滅しろってことか……!」
タラサ(J)はグレネードランチャーを構え、爆砕弾を装填する。
――横にある球は使わないの?
――これは詰み防止用のアイテムで威力も弱い。前もって大量に作っておいた爆砕弾はこの為に作っておいたのさ。
タラサは接近するゴブリンナイトの腹部に照準を合わせ、爆砕弾を撃ち込む。爆砕弾が命中したゴブリンナイトは爆風により鎧が吹き飛び、通常のゴブリンと同じような見た目になってしまった。タラサはグレネードを連射して鎧の剥がれたゴブリンに弾を打ち込む。ゴブリンは爆散して肉片が飛び散り、肉片は霧となって霧散した。続いて豚の怪人、オークが2体落下してくる。オークはのしのしとタラサに向かって巨大なハンマーを両手に持ち近づいてくる。タラサはその2体のオークの中間地点の床面に爆砕玉を打ち込み、起爆した。オークは爆風によって後方に吹き飛び、タラサとの距離が開く。タラサは離れたオークの頭部めがけてグレネードを連射する。右手のオークに2発爆砕玉が命中したのち、タラサは素早い手つきでグレネードランチャーに爆砕弾4発、氷冷玉を2発を装填してすかさず追撃の1発、左のオークに3連射してオークを爆散、霧散させる。
続いて降って来たのはスライムが3匹だ。タラサは右側の2体のスライムの間に氷冷玉を打ち込む。するとスライムが凍結し動かなくなった。左のスライムの手前の床面にも氷冷玉を打ち込み弾が爆ぜて凍結する。
――スライムはその体に弾を打ち込んでも、弾を飲み込んで消化してしまう。だから、手前の床面に打つ必要があるんだ。
――知らないと厄介な相手ね。
右側の凍結したスライムに対し、タラサは爆砕弾をその凍結した体に打ち込む。爆砕玉が命中したスライムの体は氷の結晶が飛び散るように爆散し、その体も霧となって霧散した。1体目と同様に、中央、左のスライムも爆散させる。
続いて降って来たのは、魔王城のいたるところに石像として擬態していた翼の生えた悪魔のような見た目の石の魔物、ガーゴイルだ。ガーゴイルは2体落下してきて、その翼を広げ体をホバリングし始めた。タラサはその間にグレネードランチャーに爆砕玉を6発装填し、ガーゴイルめがけて球を全弾を連射する。ガーゴイルは1発目のグレネードの弾を素手で掴み投げ返そうとするが、残りの弾を体に受けその体を爆散させる。
――ガーゴイルは飛び道具をカウンターしてくるから、間髪入れずに連射するのが攻略法だ。
――こいつも知らないと厄介ね。
タラサは、残りのガーゴイルにも、弾を連射して爆散させる。
続けて降って来たのは、オルトロスが1体だ。
――これでラスト。RTA走者は総じてゲーム内の犬が嫌いだ。
――なぜ?
――すばしっこいから。
オルトロスはタラサに向かって一直線に駆けだしてくる。タラサはグレネードをオルトロスの進行方向に向かって2発斉射する。が、オルトロスはサイドステップでそのグレネードを躱す。Jは躱す方向を読んで、もう一発グレネードを発射する、が、それもオルトロスはバックステップで躱す。
――チッ!やっぱり犬は苦手だ!仕方ない!
――苦戦するなんて、初めてじゃない?
タラサは触手弾をグレネードランチャーに装填し、オルトロスの前方に向かって射出する。オルトロスはこの弾もサイドステップで躱すが、オルトロスの足元で触手が展開され、オルトロスの動きが封じられる。
――最初からこうすればよかったんじゃない?
――グレネードの装填時間が惜しかったからな。安定を取れば最初から装填してたんだが。
タラサは動きが止まったオルトロスにしっかりと照準を合わせ、グレネード弾を直撃させ、爆散させる。
オルトロスの体が霧散したと同時に、タラサの足についている拘束具が外れ、右手にある奥の扉が開く。タラサは、歩きながら弾を装填し、その扉へ向かう。
タラサが奥の部屋に入ると、タラサに向けてスポットライトが当てられる。そしてタラサの背後に投影された影が蠢きだし、足の裏を通って部屋の中央へ移動していく。そして中央のマネキンに影が集まりだし、タラサの姿を形作る。
「これがウィレナの言っていた影の自分ね……!」
タラサはグレネードランチャーを構え、シャドウタラサに照準を合わせる。そして触手玉を発射した。シャドウタラサはサイドステップで触手玉を躱すが、タラサはその動きを読んで一歩分横に発射していた。シャドウタラサは触手葛に絡みつかれ、下半身の動きを封じられる。シャドウタラサは、動く上半身で、タラサにグレネードの照準を合わせ、影の弾、影撃弾を発射する。タラサはそれをサイドローリングで回避し、シャドウタラサを軸に反時計回りに移動する。そして爆砕弾をシャドウタラサの背中に向けて連射する。シャドウタラサは人間でないうめき声をあげながら爆砕玉の破片を体に受け、触手を引きちぎる。そして自由になった体でタラサに向かって影撃弾を連射する。が、タラサは歩きながらリロードを行うと、全て1秒前にタラサがいた場所に弾が飛んで行った。
――シャドウタラサは偏差射撃出来ないから、発射と同時に少しずれてやれば全弾を簡単に躱すことが出来る。弾数も連射も無限だがな。
シャドウタラサは頭上に向かってグレネードランチャーを連射する。その間にタラサは爆砕玉を斉射し続ける。シャドウタラサは弾を発射中はスーパーアーマー、つまりダメージは喰らうがノックバックは行われない状態になるようだ。弾が直撃しているシャドウタラサは動じずにグレネードの影撃弾を頭上に打ち続けるその間体力ゲージは減り続けている。シャドウタラサの体がヴヴヴッとブレ、分身する。
――そんなのあり?
分身したシャドウタラサは影撃弾を弾幕の如く発射する。タラサはそれをサイドステップでギリギリ躱しながらシャドウタラサに向かってグレネードを発射していく。分身したシャドウタラサの中で、最も色が濃く、透明度の低いシャドウタラサを狙って発射していく。タラサの体をシャドウタラサの弾幕がギリギリ掠めていく。そしてタラサの頭上から、先ほどシャドウタラサが頭上に発射した弾が降って来たが、タラサは上を見たまま横からの弾幕も上からの弾幕も両方躱していく。
――そんなに動かなくても当たらないものなのね。
――シューティングタイプのゲームは、自機狙いの弾とランダムにばらまく弾があって、自機狙いは少しだけ動けば躱せる。ランダム弾は来る弾を先読みすれば最小限の動きで躱せる。
タラサは上下左右からくる弾幕を全てギリギリで躱しながらシャドウタラサにカウンターとして爆砕弾を当てていく。そしてものの数十秒の打ち合いの末、タラサは無傷でシャドウタラサに勝利した。
「ふふんっ!どんなもんだっ!」
「汝は試練を突破した。我への謁見を許そう。」
「これ……レーヴェリオンの声だ……!」
タラサの後方でガコンッと鉄格子が開く音が聞こえる。タラサは扉に向かって進み、シャドウタラサと戦った部屋を後にする。ベルトコンベアーを右手に見ながら、J達の待つ大回廊へと帰っていった。
「タラサちゃんお帰りなさい。」




