第87話 魔王城、入城
――ウィレナとロージナ。ダメージ喰らったままだけどいいの?
――ああ、放っておく。
――鬼畜。
――ドールハウスに入れておけば自然回復するから平気。平気。
Jは3人をドールハウスに入れ、ケルベロスと戦ったところの空間から元来た道に戻る。ジグザグに薄暗い通路を登っていき、地面にめり込んだドリルタイプの落果遺物を乗り越えて魔王城の前に到達した。
すると、シスネから通信が入る。
「J様、お姉さま。シスネです。魔力源を2つ破壊したのですね。こちらでも確認とれましたわ。魔王城のバリアもなくなっているはずですわ。」
パーティーメンバーがドールハウスから出てくる。
「いよいよ魔王城へ突入ね。」
「はい、ウィレナ様。ですがその前にあやつを倒さねばならぬようですぞ。」
「うわーこっち見てるよーこっわ。」
魔王城を封鎖していたバリアが解け王城の城門前で寝ていたヘルカイトがこちらをじっと見ている。
「ゴルルルルルルォオオオオオオオオオンッ!」
ヘルカイトは巨大な翼を広げ向かって左方向に飛び去って行った。
「いなくなったみたいだね。」
「戻ってくる前に早く移動しなきゃ。」
「ここは一人で移動した方がよさそうだね。J、よろしく頼むよ。」
「我らの命、J殿に預けますぞ。」
パーティメンバーがドールハウスへ入っていく。Jは魔王城に向かって大橋を走り出した。
――ここは橋を渡ろうとすると、向かって左側からヘルカイトが炎を拭いてくるんだ。それをあの連なってるバリスタで迎撃してひるんでる間に先に進むんだ。
Jが大橋を進んでいると、ヘルカイトの方向が左手から聞こえてきた。Jは一番手前のバリスタに駆け寄り、バリスタの照準を覗き込む。ヘルカイトの胴体やや上の空中に照準を合わせ、バリスタのトリガーを傾け石弓を発射する。バリスタは弧を描きながらヘルカイトに向かって飛んでいき、ズブリッという音とともにヘルカイトがひるむ。Jはヘルカイトがひるんでる隙に大橋を走って奥にすすむ。バリスタを一つ飛ばし、ヘルカイトの咆哮が聞こえてきたタイミングで、近くのバリスタに駆け寄り、ヘルカイトが火炎を吐く前にその胴体に弩をお見舞いした。
Jはその先にある大盾を拾い、走り出す。
――盾拾うんだ。
――すぐに使う。
ヘルカイトは咆哮を上げ火を噴きながらながらJに突進してくる。Jは大盾に身を隠し炎を盾で受け、ヘルカイトの突進も何とか防ぎきり焼けこげた大盾をその場に捨て魔王城の城門を目指す。ヘルカイトは右側から炎攻撃を仕掛けようと大きく息を吸い込む。Jはその音を頼りに火炎が来るタイミングを予測し、そこから逆算してバリスタの前に立ち照準を合わせる。ヘルカイトが炎を吐くぎりぎりのタイミングでバリスタを射出し、ヘルカイトに命中、火炎放射を中断させた。
「ギャォオオンッ!」
ヘルカイトは何度も腹を貫かれ激怒してJに向かって突撃してくる。が、Jはそんなヘルカイトに見向きもせずに魔王城に向かってはしりだし、バリスタの近くにある大盾を再び手に取る。
――あと少しで魔王城じゃない。行かないの?
――ことを急ぐと仕損じる。ギリギリ間に合わない。
ヘルカイトは火を噴きながらJに突進する。Jはそれを大盾を構え下半身に重心を置き吹き飛ばされないようにしっかりと踏ん張る。Jの構えた大盾に炎が吹きすさび、前足のタックルをJは大盾でしっかり受け止めてヘルカイトが橋の反対側へ抜けていく。
Jはヘルカイトがしっかり離れたのを横目に見つつ魔王城城門をくぐる。そしてすぐ右手にあるレバーを下ろすと、鎖がドラムからガラガラと搬出されていく。すると城門の鉄格子が下りてくる。その瞬間、ヘルカイトが鉄格子と床の隙間に首を突っ込んでくる!
「やばいメェ!食べられちゃうメェ!」
が、次の瞬間、鉄格子が下までズドンと落下し、ヘルカイトの首が切断されてJの前に転がる。
――わぁグロテスク。
Jは下ろしたレバーから手を放し、城門の反対側、魔王城内へと歩を進める。水が滴る湿った階段をぴちゃぴちゃと登り、幅40メートル、高さ20メートルはあるであろう大回廊、その中央にたどり着いた。中央には六角形の頂点の箇所に突起が飛び出ている。どうやらキャラクターが上に乗ると沈み込むスイッチのようだ。その5角形状のスイッチの先には4本の鉄柱で閉ざされた扉があり、中央奥の扉の上にはもう一つ豪華で禍々しい装飾が施された扉が重々しい雰囲気で閉ざされている。その扉は星型を形づくるように鉄柱によって封印されていた。
ウィレナ達パーティメンバーがドールハウスから出てくる。
「多分あの上の扉の先にレーヴェリオンがいると思うわ。」
ウィレナは星形に封印された扉を指さす。それを見たシェロが口を出す。
「あの壁は僕なら登れるだろうけど、封印が施されてるね。何とかして解除しないと……」
「ねぇ!みんな!なんか書いてあるよ!」
タラサが閉ざされた中央の下の扉の前に全員を呼ぶ。そこには何やら文字が書かれた石板が壁に埋め込まれていた。
「……読めないわね。」
ウィレナが首を傾げる。すると横からロージナが割って入り、石板の文字を読み上げ始めた。
『此の先、一人のみ進入を許す。其の者、魔力を用いて遺物を操れる者也。其の力試さしてもらわん。」
「……どういうことかな?皆で行けばよくない?」
「ウィレナ様とロージナ殿は魔力を使える。どちらかが入ればよいのでは?」
「私よりウィレナちゃんの方が適任かな?私の固有属性は雷だし。いろいろ使える方がいいでしょ。」
マウガン達の背後からガシャンという音が聞こえ、マウガン、ウィレナ、ロージナ、タラサ、Jは振り返る。すると、シェロが一番直近の床面の突起を踏んでいる。
その直後、周囲からガチャンガチャンと金属がこすれて激突する音が大回廊内に響く。
「こういうことみたいだよ」
シェロはJたちから向かって一番右の扉を指さす。そこでは、シェロが立っているスイッチの延長線上、Jたちの目の前にあった扉以外の扉の鉄格子が外れている。
「そういうこと……J,指示をお願い。」
――どういうこと?
ウィレナに頼まれJの操作が再開される。
『マウガンはここに立て』マウガンを6角形の右側に、シェロを右斜め下に、ロージナを左に、タラサを左斜め下に配置してスイッチを押した。そしてJは左斜め前に立つ。
すると、ガチャンガチャンとJの正面、残りの押していないスイッチの先にある扉の鉄格子が外れる。
――直近のスイッチと扉以外のスイッチを押すと開くんだ。
――ちょっとややこしいわね。
――AIにもややこしいとかあるんだ。
――訂正、クソめんどくさいわね。
――……辛辣ですね……
Jはウィレナに憑依し、開いた扉の先へ向かう。
そこは正面の壁一面に巨大なピンボールの模型が入っているようだ。ピンボールとは言っても、弾が通るであろう通路には青い光の線が入っている壁が何本も立っている。その通路には落とし穴がいくつも点在しており、球が通るすべがないように思える。そして球が最後に行きつくところの穴の直下には鉄格子で閉ざされた扉がある。部屋の中央には、ピンボールの小型の模型が台の上に載っている。