第84話 下層世界へ
Jはオベリスクのある中庭を抜け裏口へと回る。そこには馬型ケッツァーの格納施設があり、Jたちはそこでケッツァーに乗り込み城の裏手の森へと進む。
森は魔力水晶があたりから生え、そこに木々の幹が絡みつき、地面も隆起し複雑な地形となっている。が、Jはその森の複雑な構造を熟知している。ケッツァーを走らせるときに、どのルートを通れば最も最短かつ疲労が蓄積しないように走れるか、木の幹や魔力水晶、隆起した地面に足を取られないように軽快にジャンプやステップで凹凸を回避し進んでいく。それはまるでフィギュアスケートのステップを踏んでいるようだった。
タラサ、シェロ、ウィレナもJの動きをトレースし、Jの通った道を同じように進んでいく。そうして本来であれば移動するだけでも苦労するアクションの箇所をすいすいと進み、一行は大きく螺旋を描きながらくぼんでいく盆地にたどり着いた。
その盆地の深さは40メートルほどで中心にはロケットを逆さにひっくり返したようなオブジェクトが地面に突き刺さっている。Jは螺旋状になっている盆地を一直線に下り段差を無視して盆地の中央に進む。盆地の中央に到達したところで、Jたちはケッツァーから降り、
落果遺物となる予定の岩盤貫通式直下型削岩魔法装置の前に来た。マウガンとロージナがドールハウスから出てくる。
タラサはその魔法装置を見て目を輝かせている。
「J!これ凄いよ!お父さんとお母さんが作ろうとしたロケットにそっくり!やっぱり間違ってなかったんだ!」
「この魔法装置で下層世界に戻れるらしいけど……」
ウィレナは独り言を呟く。シスネにはここに来れば下層世界に行けると聞いたが、使い方が分からない。ウィレナがそう思っていると、頭の中にシスネの声が聞こえてきた。
「お姉さま。ご無事ですか?」
どうやら耳たぶに付けた魔法装置のから声が聞こえているようだ。ウィレナは耳たぶをつまみ通信する。
「ええ、何も問題ないわ。それよりも聞きたいことがあるんだけど。」
「魔法装置の使い方ですわね。」
「いいわね。察しのいい子は好きよ。」
「おおおおおお姉さまが私を好きとぉ!?ねえハウンド!聞いた!?聞いたわよね?これ録音してる?後で何度も聞きたいですわ!」
「しつこい子は嫌いよ。」
「がーん。」
「ねぇシスネちゃん。これはどうやって使えばいいの?」
「……はっはい。ロージナ様。魔法装置の側面にボタンがあります。それを押してみてくださいまし。」
「これだね。ぽちっと。」
シェロが魔法装置の側面のボタンを押すと、ウィィイインと扉が開いた。スライド式のドアのようだ。中に見える装置は、コクピットのように見える。
「中に入ればいいのだろうか?」
「はい、中に入ってください。ちょうど6つ座席があるはずですわ。」
「ああ、あるわね。」
Jたちは各々座席に座り、カルトゥムはタラサに抱きかかえられる。
「下層突入時にちょっとだけ衝撃がありますわ。念のため左右のベルトを腰に巻いてくださいな。」
Jたちは指示に従いベルトを巻いた。さながらシートベルトのようになった後、開いていた扉がガコンと閉じる。そして船体がゴリゴリと振動する。下に向かうエレベーターに乗っているような浮遊感を感じながら、マウガンは腕を組み宙を見ている。タラサはカルトゥムを抱きしめ前かがみになりじっと耐えている。ロージナは周りの装置を見ながら物思いにふけっていて、シェロは両手を合わせ指をくるくる回している。ウィレナは手を耳たぶに合わせ何やら会話していて、Jはこのゲームをクリアしたら時間指定したピザが届くのを楽しみに待ちわびていた。
ズゥウウンという衝撃音と尻が椅子にめり込むような感覚を覚えながら一行は落果遺物となった船体のハッチを開いた。するとそこは、見慣れた天井がある下層世界だった。
~エクヴォリ渓谷~
そこはかつてウィレナとJの二人がともに旅をしたジマリ村近くの渓谷だ。
Jたちは渓谷の中央を流れる川岸に落果したらしい。
「懐かしいわね。ここから私たちの旅が始まったのね。」
一行が落果遺物から降りると、シスネから通信が来た。
「お姉さま、そこの近くに地下世界につながっているゴブリンの巣がございます。他にも似たようなすから繋がっているようです。どこからお入りになるかはお任せ致しますわ。」
――当然直近から入る。
――一度はいったところかしら?
――『巨人の小鎚』手に入れたところ。
Jは全員をドールハウスに入れ、カルトゥムとともにゴブリンの巣になっている洞窟を目指す。50メートルほど上流へ走り、ゴブリンの巣の入り口まで到達した。入り口は直径20メートルほどの横穴で、その中には木や骨を無造作に積み上げて出来た小屋のようなものや、中央にはゴブリンが焚火を囲んでいる。そして奥にはさらに地下に続く直径4メートルほど洞窟が続いている。の周囲の見張り台にはゴブリンが弓矢を持って周囲を警戒している。Jはゴブリンの見張りに堂々と見つかりに行き、あえて注意を自分に向ける。ゴブリンたちが休憩を解除し、武器を持ってJに襲い掛かる。Jはそれをゴブリンたちの攻撃に合わせ前転ローリングや横ステップの無敵時間で回避し、洞窟へすいすいと進んでいく。
そして洞窟に到達する。洞窟は縦に数十メートルの深さ、直径は30メートルほどの円柱状の空間になっており、Jの足元から反対側へつり橋がかかっており、その縦穴の空間には様々な横穴がありそこから蟻の巣状にモンスターの巣が広がっている。横穴どうしはつり橋や土の通路で道が繋がっている。
Jは後ろからのゴブリンの足音を聞きながら、橋の右手を奈落に向かって足を踏み出した。
――ここの洞窟は世界樹の側根が腐って出来た空洞にモンスターが蟻の巣状に巣を作ったダンジョンになってる。
――根腐りしてるのに世界樹は倒れないの?というか双子葉類なんだ。世界樹。
――主根は大丈夫らしい。根も全て腐ってるわけじゃないだろうしな。




