第81話 再戦の兆し
「はっ!お父様!貴様!お父様をよくも!」
シスネは激昂する。
「お前達!このものを捕らえなさい!お父様の仇ですわ!」
シスネは階段を駆け下り兵士たちの後ろに走り助けを求める。
「ふんっ!雑兵風情がこのシンミャを止められると思わないことだ。」
シンミャは手の平に火球を生み出し、それを上に掲げた。すると火球が巨大化し、数メートるの小型の太陽のような火球を兵士達やJに向かって投げつける。
「皆!私の後ろに!」
ウィレナは火球に立ち向かうように進み、両手を目の前に広げ、詠唱時間を短縮した略式詠唱で咄嗟に氷の盾を生み出す。
「氷の山よ我が前に現れよ!シルトイスベルク!」
ウィレナの前方に巨大な氷山が床面から現れ、火球を防ぐ。現れた氷山が一瞬で蒸発しあたりを霧が包む。シンミャは巨大剣を団扇のように使い一薙ぎで王の間の霧を吹き飛ばし、Jたちに啖呵を切る。
「宣戦布告である!我らが魔王様は戦争をご所望である。レーヴェリオン王は今から7回日が昇った後、樹上世界に総攻撃をかける!それまでの安寧を存分に味わうがいい。貴様ら樹上世界の最後の7日間となるのだからな!」
シンミャはそういうと割れたステンドガラスの向こう側にジャンプして去っていった。
遺された兵たち、ウィレナ達は茫然としている中、シスネが口火を切る。
「皆の者!よく聞きなさい!これより私がこの国の指揮を執ります!ヴォルクルプス王の首を奪還するのです!これは王命と心得なさい!ハウンドをお呼び!ただいまより軍議を開きます!」
どよめく王の間の兵士をかき分け、シスネはウィレナ達に近づく。
「ウィレナお姉さま、J様。お仲間の皆様。父王の数々の非礼をお許しください。つきましては、どうか、お力添えをしていただけないでしょうか?お仲間につきましては重々理解しましたわ。下層の人間も悪いものではないのですね。」
①『構わない』
②『絶対許さん』
Jは1番目の選択肢を選んだ。
『構わない。』
「ええ、私も構わないわ。ねぇ、みんなはどう思う?」
タラサとシェロがドールハウスから出てくる。
「私はウィレナ様のご意志のままに。」
「僕はJについていくよ。」
「アタシも!」
「私はどっちでもいいかな。付いていくよ。」
「皆さま、ありがとうございますわ。では別室にて緊急の軍議を取り計ります。ハウンド!」
「はっ姫様。ハウンドはここに。」
「この方たちは私の客人です。丁重におもてなししなさい。」
「はっ……姫様……後ろの方たちは……!」
「そう、下層の人間ですわ。しかし問題ありません。このわたくしのお客人ですもの、あなた達に害などあるわけありませんわ。この方たちも軍議に参加なされます。」
「はっ承知致しました!」
「お父様の体を血を拭いて軍議へ運んでおきなさい。」
Jたちは姫とハウンドと呼ばれた彫の深いオールバックの男の後に続き王の間を出る。
――父親が死んだっていうのに結構ドライなのね。あんなに泣き叫んでいたのに。
――それも今から分かるよ。
Jたちはシスネの後に続き軍議室へと入る。学校の教室程の大きさの部屋の中央の机にこの世界が立体投影されている。中央に世界樹があり、樹上世界のミニチュアと下層世界が見えるが。
――ハンマー撮ったところの地下世界はないのね。
――そこはここの父王の検知がとどいてないんじゃないかな。落果遺物がそこまで届かないとか。
ハウンドは姫の横に立ち残りの人間を兵士長と呼び配置を指示する。どうやら兵士の中で一番上の立場の男のようだ。担架に乗せてヴォルクルプス王の遺体が運び込まれ、部屋の端の玉座へ座らせられる。それを見てタラサはぎょっとする。
「うぁっ!王様じゃん!シスネ。なんで持ってきたの?」
「お父様がやられた時は狼狽しましたが、お父様がお亡くなりになるのはこれが初めてではありません。」
「どういうこと?」
「お父様は不老不死。首を落とされても、また繋ぎなおせば復活します。首が消滅した場合、残りの胴体から復活します。逆もまた然りですわ。」
――プラナリアみたいね。
「お父様の頭部がどうなったかは分かりませんが、もし何かあった場合はこちらの体の方に反応があります。そのために持ってきたのです。」
「それも魔法ですかな?」
マウガンは興味深そうに聞く。
「ええ、そうだと聞いていますわ。ただ、その魔法は父上以外は存じ上げぬ御留流だと言われております。」
「そうか。それは残念だ。」
「何?マウガン不老不死に興味があるの?」
「はい、好敵手と互いにこの術を掛け合えば素晴らしい戦いを永久に楽しめるかと思いまして。」
「マウガンバトルジャンキー過ぎー!」
ハウンドがシスネに対し状況を報告する。
「姫様、軍団長兵長以下12名、参上いたしました。」
「ご苦労様ですわ。さて、皆の衆。お集まりいただいたのは他でもない。戦争ですわ。」
会議室がざわめく。
「戦争だと……?」
「この1000年ろくに戦争など起こらなかったのに……」
「部下の兵たちになんていえば……」
「静まれ!王国の兵士たるもの戦ごときで狼狽えるでない!」
戦争、という言葉を聞いて慌てふためく兵士長達をハウンドは一括する。だが、その狼狽は仕方のないことだった。ヴォルクルプスの映像であったとおり、ここ1000年はヴォルクルプスの統治で長らく平穏が続いていたからだ。兵士たちの主たる仕事は、時折やってくる魔物や暴走したケッツァーの討伐が主で、命を懸けた戦争等行われてきていないからだ。
「落ち着いてくださいまし。皆の衆。戦争、といってもそれは最後の手段でありますわ。わたくしに一計がありますの。それにはお姉さまたちの協力が必要不可欠ですわ。」
「この方がウィレナ姫……噂にたがわずお美しい……」
――服装に関するツッコミはなしなのね。
――それ含めて美しいんじゃない?
――セクハラね。
「私達に何をしてもらいたいの?」
ウィレナはシスネに問いかける。
「私たちは平穏を求めます。そのためであるなら、いかなる手段をも取る覚悟でございますわ。お姉さまたちの先ほどの戦いを見て確信しましたの。お姉さまたちには、1週間以内に、レーヴェリオンを打ち倒してほしいのですわ。」
「え、無理では……?」
「タラサ!」
「だってぇー。」
「シスネ。実は私達、一度レーヴェリオンと剣を交えたことがあるの。その時は手も足も出なかったわ。」
「なんと……ウィレナ様、よくぞ御無事で……!」
①『あの時より俺たちは強くなってる。』
②『借りを返す。』
③『勝てる気がしない。』
Jは2番目の選択肢を選んだ。




