第74話 逃走戦
廃工場は、ところどころ朽ち錆びており、天井は剥がれ落ち空が見えている。天井付近には人型ケッツァーが天井を這うコンベアに吊り下げられた状態で放置され、辺りには原型が分からないケッツァーの球体と三角錐が散乱している。Jたちは工場のスロープを登っていく。その最中、突如工場全体がゴゴゴゴゴッという揺れを起こす。
そしてJたちの背後の地面が盛り上がり、地面の下から大量のケッツァーのパーツが噴き出した。そしてそのケッツァーのパーツたちは1か所に集まりだし、巨大な人の上半身を形作った。地面から頭頂まで30メートルはあろうかと言うその巨人の両目部分には赤く光り輝くケッツァーコアが2つくっついている。
その巨人は、「ヴボボボボボボボボボボッ!」っと自然界に存在しない跫音を響かせJたちを追ってくる。Jたちは馬に鞭を打ち全速力でその場を後にする。巨人は自身の体を地面に削り取られながらJたちを追う。その移動速度は馬とほぼ同じかやや速いくらいだ。巨人はその右巨腕を大きく振りかぶり、Jに向かって叩きつける。Jはそれを馬の速度を上げギリギリ躱した。巨人の腕が地面にぶつかりパーツがバラバラに砕け散る。巨人はダメージを喰らったように後ろにのけぞり、巨人の体からパーツが右腕に流れ込み、右腕が復元し始めた。巨人は次いで左腕を後ろに大きく振りかぶる。Jは馬を減速させ馬車の後方を時計回りに左側に回り込み、左手に向かってハンマーの頭を構えガード体制をとる。巨人は左巨腕をJに向かって横薙ぎ攻撃を仕掛け、Jはそれをハンマーの頭で防ぐ。ハンマーの頭によって攻撃を阻まれた巨人の左手はバラバラに吹き飛び、そのパーツを周囲に飛び散らせる。その飛び散ったパーツが馬車に当たり、馬車から少し煙が上がる。
――初被弾だ。馬車イベントは馬車が破壊されるか、俺がやられるとゲームオーバーになる。馬車にダメージが入ると、けむりが上がっていき、最終的に馬車が崩壊する。巨人の手は破壊してもパーツが飛び散ってしまうから被弾してしまうんだ。
――割と初見殺しね。ワイバーンとか犬に攻撃を喰らっていたらそれだけでアウトそう。
――俺も初見はここで馬車が壊れた。
――初見プレイを見て見たいわね。
巨人は左腕に自身の体のパーツを集合させ崩壊した腕を再生させる。腕を再生させるたび、移動するたびに巨人の体は小さくなっていく様だ。
――小さくなるまで逃げ切れば俺たちの勝ちだ。
Jは馬車の後方に馬を減速させ移動する。巨人はその両目のコアから赤い線のビームを放つ。Jはそのビームに照射され、体が赤く光る。
――ターゲットされた、この後ビームの本線が来る。ハズレ行動だ。
Jの言う通り、巨人はその両目から極太のビームをJに向かって照射する。Jは馬を馬車の後方でを少しだけ左から右に少しずつ移動して追尾するビームをぎりぎりで躱していく。
地面に斜めにビームの照射痕が付きビームが終わる。
Jは馬車後方で左右に移動しながら巨人の行動を誘発、コントロールしようとする。巨人は両手の指を絡めて上段に振りかぶり、Jに向かって振り下ろす。Jはそれもハンマーの頭を盾にして防ぐ。Jの馬の周囲に巨人のパーツがばらばらと散らばり、巨人の腹部に飲み込まれていく。
巨人は腕を伸ばしJとロージナを掴みに来る。
『ロージナ!通電させろ!』
ロージナはJの指示に従い、自らを掴んでくる巨人の右腕にドラゴンクロウを投げつけ、魔法によるウィップロープを通した放電で右腕を爆散させる。
一方、Jはハンマーを迫りくる腕の反対側の右手に持ち、自分の上方で半月の弧を描くように振り上げる。巨人の左腕がJを掴む直前、Jはタイミングを合わせ掌にハンマーを振り下ろす。巨人の左腕が爆散しあたり一面にパーツが飛散する。
「ボォオオオオオオオオオオッ!」
巨人が人ならざる咆哮を上げ、両手を再生させじたばたと這い追ってくる。巨人はJ
にそのパーツが蠢く頭部をグパァと開き大きな口を形作り、Jに向かって頭部を叩きつけに来た。Jは馬車の上に飛び乗りそれを躱す。だが、馬にその攻撃が直撃してしまう。が、馬はダメージを受けずにそのまま走り続ける。巨人の顔面は馬をすり抜け地面に叩きつけられ、辺りに顔面のパーツが飛び散る。
――馬はこのイベント中は非破壊オブジェクト扱いで無敵だから。
――馬強いわね。
Jとロージナは巨人の攻撃を躱し、いなし、防ぎながら馬車に攻撃が当たらないように巨人を誘導する。そうしていくうちに、巨人のはどんどんパーツをこぼしていき、はじめは30メートルほどあった巨体ももはや5メートルを切っている。
巨人は最後のあがきとばかりに両腕を暴れさせJ達にどんどん叩きつけるが、J達はそれを難なく躱す。そして最後に両腕を叩きつけるが、Jはそれをハンマーで撃ち落とし、巨人は力尽きる。巨人は徐々に速度を落としていきサイズを縮小させていく。Jたちに手を伸ばして逃がさないというそぶりを見せるが、Jたちにその手が届くことはなかった。
「何とか逃げ切りましたな。」
御者の商人はほっと胸をなでおろし、馬車のスピードを緩める。Jは振り返ると、そこには大量のケッツァーのパーツが道となり、木々にはパーツが引っかかってぶら下がっている。そして森を抜けしばらく直進すると、丘陵の向こう側に王城が見えてくる。下層世界で見たレーヴェリオンの王都よりも縦に長くビルのようなオベリスクが周囲にJたち一行は王城を目指し、丘陵地帯をジグザグに下っていく。道中、ワイバーンの襲撃を回避し、Jたち一行は無事王城へとたどり着いた。
Jたち一行は城門を抜け王城の裏庭へと回り込む。御者の商人は馬車を降り、Jたちに礼を言う。
「どうもありがとうございました。おかげさまで無事王城へ荷物を納品出来ます。それでは、私はこれで。」
商人はぺこりとお辞儀をすると裏口へと入っていく。




