第72話 街中での戦闘
Jとロージナはさされた男の方に向かい話しかける。
『白衣の集団に仲間が攫われた。人さらいの場所を知りたい。』
「お、この酒はあんたらの奢りか。いいねぇ。人におごってもらった酒がこの世で一番うまい。」
あごひげを生やした堀の深い男はにやりと笑いながら酒を口に運ぶ。
「人さらいの情報はないが、樹上世界で白衣の装束は珍しくない。俺たちは争いごとを嫌う。争うなど下層世界の魔法も使えない蛮族どもくらいだ。我らは平穏を求め進化した上位種だ。ただ……そうだな……争いごとはないが、武力は必要だ。人さらいが出来るほどの武力を持っているのはこの世でただ一つしかない。この国の王。ヴォルクルプス様の配下の兵たちだ。彼らは暴走したケッツァーを討伐したりモンスターを討伐するために活動している。」
「ありがとう。ところで、王様に会うにはどうすればいいかしら?」
「国王に会う?はっ!出来るわけないだろう。まず一般人は王城にすら近づけない。王城はいつも閉ざされており、国王直属の軍団が常に警備をしている。城内に入れるのはせいぜい王城に食料等を届ける卸問屋くらいなものだ。」
「そうなのね。」
「ところでお前さん、ここらじゃ見ない格好をしているんだがどこから来たんだ?」
――今更?
「あなたたちの言う下層世界から、どう?蛮族に見えるかしら?」
ロージナは頭の帽子を取り角と大きなたれ耳を見せる。ロージナ姿を見て情報屋はガタンと椅子から転げ落ちる。
「ばばばばばば馬鹿な!下層世界の人間がこんなところにいるはずない!ダメだ!食われちまう!おい!マスター!早く衛兵を呼んでくれ!」
――戦闘になりそうね。
――正解。
周囲がざわつき、他の客たちは慌てて酒場から出ていく。マスターは酒棚の横に取り付けられた金管型の電話機のようなものに叫びながら話している。
ロージナはJに向かって不器用な笑顔を向け謝罪の言葉を口にする。
「ごめんねJ君。なんか蛮族って言われて私の友達を馬鹿にされたのが腹立っちゃって。でもここまで大事になるなんて思いもしなかったよ。」
『ロージナは悪くないさ。』
「そうだメェ!ボクもちょっとかちんときてたメェ!」
『ひとまずここを出よう。』
「そうだね。」
Jとロージナが酒場の外に出ようとした時、外から声が聞こえてきた。
「聞こえるか!蛮族ども!我らはアニマリア公国国王ヴォルクルプス様直属の護衛軍である!貴殿らの身柄を拘束し王城まで連行いたす!抵抗は無駄だ!おとなしく投降せよ!」
――これ投降すれば王城まで行けるんじゃないかしら?
――でもそれだと抜け出すときのイベントとか面倒なんだよね。だからここは戦闘に入る。
『断る!』
『分かった投降しよう』
Jは1番目の選択肢を選んだ。
『断る!』
Jとロージナは酒場から勢いよく飛び出す。するとロージナとJを取り囲むように、周囲には10数人の甲冑騎士が杖を携えてJとロージナを見ている。甲冑騎士は、白銀の鎧を身に纏いフルフェイスの兜をかぶっている。ほとんどの兵士は1.5メートルほどの杖を構えている。
「ぬぅ!抵抗するか!よし!者ども!この蛮族どもをひっとらえよ!」
「J君!気を付けて!樹上世界の人間は魔法を使えるよ!」
ロージナが忠告するもつかの間、甲冑騎士は何やら呪文の詠唱を始める。
「さざ波よ、我が足元より現れ世界を浸せ!プレサリップル!」
すると唱えた甲冑騎士の足元から水が湧きだし、Jたちの足元を濡らす。
――何このしょぼい攻撃魔法。
――本命はこの後、凍結魔法で動きを封じられる。
「さざ波よ!凍結せよ!凍てつく狭間で冷気を吐き出せ!ゲロウグランツ!」
甲冑兵士が杖を濡れた地面にトンッと突くとそこからパキパキパキッと水が凍結していく。
『ロージナ、ジャンプして躱せ!』
Jはジャンプして凍結の波を躱すが、ロージナもJから少し遅れてジャンプし凍結を躱す。
Jはつるつる滑る足元の慣性を計算に入れ動き、ハンマーを横薙ぎで振り回す。ハンマーの平坦を兵士たちにぶつけ、ふきとばすが、Jもその反動でスイーッと氷の上をすべる。
兵士たちは氷の上をボーリングのピンのようにお互いにぶつかり合いろくに立っていられないようだ。
――この兵士たちは馬鹿なのかしら?
――さっき情報屋が言ってたみたいにほとんど戦闘が行われない平和な世界だから、戦闘能力自体は高くないんだ。ただ、魔法が使えるというだけで十分脅威になる。
「くぅ!よくもやってくれたな!炎の熱波よ!焦げ付き燃やせ!ケオフーモ!」
熱波が氷を溶かしながら、Jとロージナに襲い掛かる。
「ロージナ!敵を盾にしろ」
Jとロージナは敵の後ろに隠れて熱波をやり過ごす。
「ぎゃぁあああああああ!熱い熱い熱い!」
「貴様ら!よくも仲間を」
――やっぱりこいつら馬鹿なのかしら?
Jはハンマーを振りかぶり炎魔法を発してきた甲冑騎士に向かって攻撃を仕掛ける。甲冑騎士は後方へ吹き飛びJは振り下ろしたハンマーを支点に回転し残りの甲冑騎士に向かって横なぎ攻撃を仕掛ける。
「ぐわぁあああああ!」
っと兵士たちが吹き飛び、兵士の壁に隙間が生まれる。
「J君!今のうちに逃げよう!」
Jとロージナは隙間から走って脱出する。甲冑騎士は魔法を唱え火球や氷の飛礫を飛ばしてくるがJとロージナは走りながらそれを躱す。下着姿で他には何も来ていないJとロージナの足に、ガチガチに装甲を固めた甲冑騎士が追い付けるはずもなく、数十メートル走ったところで路地に回り兵士たちをやり過ごした。
「ここまでくれば安全だね。でもどうしようか。この街で不自然じゃない格好をどこかで手に入れなきゃ、歩いてるだけで通報されそう……」
『服屋で服を買おう。』
『兵士の甲冑を奪おう。』
Jは2番目の選択肢を選んだ。
『兵士の甲冑を奪おう。』
「そうだね。甲冑姿なら堂々と城に潜り込めるかも。」
『ロージナ、ここで待っていろ』
Jはロージナを路地裏に待機させ、路地横を通り過ぎた兵士2人の後をつける、Jは一人の襟首をつかみ近くの路地裏に回転して引きずり込み、頭部にパイルバンカーを打ち込む。パイルバンカーが撃ち込まれた兵士は、衝撃が頭部を襲い一瞬で目の前が暗転する。仲間が突如いなくなったもう片方の兵士は狼狽し周囲を警戒し始めた。Jはその警戒した兵士の背後にぬっと忍び寄り先ほどの兵士と同様に路地裏に引きずり込む。そしてパイルバンカーを頭部ガキンッ!と打ち込み気絶させ、兵士二人の装備をはぎ取り、カルトゥムの壺へ押し込んだ。――大丈夫?これ邪ゲージ増加しない?
――殺してないからセーフ。犯罪行為だからちょっとだけ増加するけど、まだ正ゲージのが多い。メニュー見れば分かるがな。
Jはロージナの下へ戻ると、カルトゥムの壺から鎧と内服を取り出しロージナと2人で装備した。
――初めてのまともな服が強奪した鎧って……
「この鎧意外と動きやすいかも……でもちょっと匂うね……」
Jとロージナは通りへ出て堂々と歩く。この鎧を着ているだけで道行く通行人が皆会釈をしてくるから気分は悪くない。




