第66話 ケッツァー
ロージナは一度タラサを屯所の壁に背中を預けるように下ろし、屯所内に潜入する。そしてすぐに中から出てきてJ達に中に入るように促した。
「大丈夫そう。兵士は中に居なかったよ。ベットもちょうど3つある。マウガンには少し小さいかもしれないけどね。ひとまず3人を寝かせよう。話はその後で。」
Jとウィレナはそれぞれマウガンとシェロを抱きかかえ、屯所の中へ入る。
中は白い壁と天井に事務用のデスクと椅子が一組と簡素なベッドが3台並んでおり、奥にはロッカーらしき箱が並んでいる。
マウガン、タラサ、シェロをベッドに寝かせる。3人は気絶したように眠ってしまった。
ロージナは壁にもたれかかり腕を組んで話始める。
「さて……なにから聞きたい?」
『お前は一体何者だ?』
『ここはどこだ?』
『どうして3人は気絶してしまった?』
『俺もロージナに介抱されたい』
Jは1番目の選択肢を選んだ。
『お前は一体なにものだ?』
「私?私はこういうものさ。」
そういうとロージナは頭に目深に被った帽子をはずす。すると頭部に小さな角と大きな垂れた耳が姿を現した。
「私は魔人族の末裔さ。魔人族には会ったことあるかい?」
『ああ』
「なら話は早い。私は魔人族として下層世界……君たちや私たちが生まれ育った世界のことさ。そこで樹上世界の兵士たちに妹と一緒に秘密裏に拉致され樹上世界に来たんだ。拉致された理由は知らないけどね。」
『ここはどこだ?』
『どうやって下層世界に?』
『どうして3人は気絶してしまった?』
『妹もさぞ美人なんだろうな』
Jは3番目の選択肢を選んだ。
『どうして3人は気絶してしまった?』
「おそらくここ、樹上世界の魔力濃度が高すぎるんだと思う。下層世界の人間にとって魔力が充満したこの世界は毒の霧に覆われたものも同じなんだろうね。魔人族や樹上世界の住民みたいに、魔法が使えればそういうこともないんだけどね。というかなんでウィレナちゃんとJ君は平気なのかお姉さんは不思議だなー。」
「私は魔法が使えるから、この世界の空気を吸っても平気みたい。」
「そっか。そういえばウィレナちゃんはどうして魔法が使えるの?」
「私はもしかしたら樹上世界の人間かもしれないの……」
ウィレナはこれまでの経緯をロージナに話した。
「そっか……そんなことがあったんだね……それでウィレナちゃんとJ君は樹上世界を目指してたんだね。状況証拠だけだけど、J君は魔法は使えないけど皆みたいに倒れてない。きっと君も樹上世界の人間なのかもしれないね。」
『どうやって下層世界に?』
Jは残りの選択肢を選んだ。
「私と妹は樹上世界の白づくめの男たちに拉致されて気づいたら樹上世界にいたんだ。多分場所はどこかの独房だったみたい。妹は研究対象とかいう理由でどこかに連れていかれてしまったの。食事の時間に警備員を誘惑して隙をついて脱獄してどこかの研究所みたいなところに潜入したの。」
「研究所……?」
「そこでは私の他にも下層から連れてこられた人間や魔人族、モンスターが何かの落果遺物のようなものに拘束されてたんだ。そこに私は下層世界へ行くポッドみたいなのがあったからそれに忍び込んで下層世界に逃げてきたの。でも樹上世界に残してきた妹がずっと気がかりで、今度は自分の力で樹上世界に行って妹を助け出したかったんだ。」
「妹さん見つかるといいわね……私に協力できることがあったら何でも言って。協力するわ。」
「ありがとねウィレナちゃん。でも今はタラサちゃんたちを何とかするのが先決。多分3人は魔力を過剰に吸いすぎちゃったのが原因だから、それを安定させる落果遺物……もう『落果遺物』じゃないわね。そういう機械とか装置があるようなところを探してみましょう。さっき言った研究所の職員らしき人がそういうのがあるって喋ってるのを聞いた記憶があるわ。この小屋にこのあたりの地図があったから見て見ましょう。」
ロージナは事務机に地図を広げてマップ上を指さす。
「ここが世界樹で、すぐ近くのここが私たちがいる小屋みたいね。周囲の魔力水晶まで記載されてるっぽくて、地図と地形が一致するわ。研究所が近いみたい。お姉さんが案内するね。」
『分かった。ウィレナはここで皆を見ていてくれるか?』
「了解よ。みんなのことは任せて。」
ウィレナ、マウガン、タラサ、シェロがパーティーから離脱した。
Jはロージナとともに屯所を出る。
ロージナが先行して走っていき、Jはその後を付いていく。雪のようにふかふかな地面を走るが、巨大な葉の上はボヨンと弾む。巨大な魔力水晶は迷路のように行く手を遮り迷路のように入り組んだ通路を構築している。ロージナは地図を片手に走って移動しているが、Jはその前を先行して先に進む。
――後ついてかないの?
――ルートは覚えてるし、先行して移動するとロージナの移動速度が若干早くなる。少しでも早くなるなら俺はそういう選択を取る。
――それがRTA走者ってやつね
――そういうこと、というかロージナは方向音痴で後を付いていくと迷った挙句主人公に地図を渡して行き先を教えてもらうイベントが発生するからな。先行しないと面倒くさい。
地図を持ったロージナに先行してJは進んでいくが、道を間違えることなく魔力水晶で左右を囲まれた迷路のような道を進んでいく。坂道を登り、しばらく進むと、魔力水晶の向こう側に小さな長方形の小屋のような建物が見えてきた。半分ほど雪雲で埋まっている。
その小屋に近づきロージナは首を傾げる。
「あれれ~……おかしいなー。私の地図によればここには大きなケッツァーの研究所があるらしいんだけど……」
『ケッツァー?』
「あれ?そうだよね知らないよね。『ケッツァー』っていうのは球体と三角柱を組み合わせたモンスターみたいなやつ。」
『それなら前に戦った。』
『倒したことがある。』
Jは1番目の選択肢を選んだ。
『それなら前に戦った。』
「え?戦った?下層にもいるの?マジかー……お姉さんちょっとトラウマなんだよねー。拉致られた独房の周りをウロウロしてて気味悪くてさー」
『ケッツァーは何のためにいる?』
『下層世界の遺跡にいたぞ』
Jは1つ目の選択肢を選んだ。
『ケッツァーは何のためにいる?』
「どうやら樹上世界の人間の召使いのように働かせてるっぽいのよねぇ。戦闘用にカスタマイズされてるのもあるっぽいけど、それがいたのかな?ひとまず中に入ってみようか。」
ロージナは半分地面に埋まっている扉を取っ手を引き開く。
開いた先には下り階段が続いている。
「入り口からすぐに下り階段……登ってきた坂道を考えると、建物が地面の下に埋まっているって考えた方がよさそうだね。」
屋上からの入室になる。研究所内は暗いが、魔力が通った導線が天井を這うように直線に走っており、その部分が青白く発光して通路を明るく照らしている。
「私が閉じ込められてた独房に雰囲気が似てる……ごめん、ちょっとトラウマ……」
ロージナはその場でうずくまる。そしてすぐに立ち上がり、大きく息を吸い込み、吐き出した。




