第62話 ロージナ・シュヴァル
「きゃあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
Jが上を見上げると、Jに向かって人影が落下してくる。Jはそれをキャッチしようと両手を広げ腰を落とす。ボスンッ!と、Jが下敷きになるようにその女はJの上に落下する。キャッチしようとしたJはタイミングをミスり柔らかなクッションとなっているトランポリン上のキノコに埋め込まれた。女の服装は身軽な軽装をしており、体のあちこちにバックパックを仕込み、腰からは鍵づめ付のロープが2本左右のにぶら下がっている。頭には目深に被ったニット猫耳のようなニットハットを目深に被っており、耳まで隠れてしまっている。
「あれ?私生きてる?はぁ~死ぬかと思った。」
女は胸をなでおろす。
「ってきゃあ!?ナニ君!なんで私の下敷きになってるの!?」
女は慌てて立ち上がりJに向かって問いかける。そんな女に対してタラサが物申す。
「Jはあんたを助けてくれたんだよ!お礼の一つでも言ったらどうなの!」
ウィレナ、マウガン、シェロがドールハウスから出てきて、シェロは埋まっているJに手を差し伸べる。
「どうだい?J、立てるかい?」
『ああ』
突然増えた人とJに対してのお礼を考える女は混乱した。
「あれれ!?ごめんなさいね!あとありがとう!急に床板が抜けてここまで上層から落ちてきちゃって……ここは下層かしら?」
ウィレナがJたちを代表して答える。
「ここは下層よ。怪我がなくて何よりだわ。あなたは登頂者なの?」
ウィレナの丁寧な物腰に気を許したのか、女は少し落ち着き始め返答する。
「ええ、私はロージナ・シュヴァル。登頂者よ。上層まで行ったんだけど、埋まってる落果遺物を足場にしたらにその足場が消えちゃって、ハネリダケ……君が埋まったそのキノコね。それでぽよんぽよん跳ねてモンスターの巣を滑り台みたいに滑っていたらここまで落ちてきちゃったってワケ。我ながらツイてないよねー!」
「私はウィレナよ。ただのウィレナ。こちらはあなたを助けたJ。こっちの大きなのがマウガンで、この人がシェロ、で、この子がタラサ。」
「よろしく!ここで出会ったのも何かの縁!あなた達も登頂者なら私と一緒に世界樹を登らない?私、長年この世界樹に挑み続けて庭みたいなものだから、知りたいことがあったら何でも聞いて。」
「庭なのにここまで落ちるんだ。」
「んー?おチビちゃん、世界樹は広い!私のまだ知らないところがいっぱいあるからね」
「誰がおチビちゃんよ!ねぇJアタシこいつ嫌い!こんなの放っておいて先に進もうよ!
」
「やはは!ごめんごめん。タラサちゃん。そうだ!携行食だけどお菓子をあげよう。甘いよー!」
「え、くれるの?わーい!……って私はそんな子供じゃない!」
「僕は一緒に行くのは賛成だね。世界樹はまだ未踏の地が多い。少しでも先駆者の知見を得られるならあるに越したことはないと思うよ。」
「私はどっちでも構わないわ。J、あなたが決めなさい。」
『連れていく』
『連れて行かない』
Jは1番目の選択肢を選んだ。
『連れていく』
「やった!ラッキー!そう来なくちゃ!道中のモンスター一人で対処するの結構骨が折れるんだよねー。仲間が出てきて、お姉さん心強いよ!」
「むー……Jが連れてくって言うならいいけど……」
マウガンはむくれるタラサの頭をなでながら説得する。
「なあに、旅は道連れ世は情けという。だんだん仲良くなっていくものさ。」
「そうかなぁ……」
「じゃあよろしく!世界樹について何か分からないこととかあったり、行き止まりがあるならお姉さんに聞いてみて!」
ロージナが仲間になった!
――正ルート最後の仲間だ。ちなみに『連れて行かない』を選択すると、邪ルートに行かない限りはずっとここで待機している。
Jはロージナにドラゴンクロウを装備させ、メニュー画面からロージナの装備をはぎ取り、下着と腰につけているロープの先端にドラゴンクロウが付いている鞭ロープ以外をカルトゥムの壺に入れた。だが、目深に被った帽子だけは外そうとはしなかった。
「君!?なかなか大胆なことするねぇ!?」
Jはロージナに憑依した。ロージナに憑依したJはロージナがいう『ハネリダケ』というトランポリンのようなキノコでボヨンとジャンプし、頭上前方にあるサルノコシカケの上に着地する。下からでは分からなかったが、サルノコシカケ上にもハネリダケがあり、Jが着地した瞬間にボヨンと跳ねた。
ヌルは顔を上げ上を見る。
――他の猿のサルノコシカケにもハネリダケとやらがあるのかしら。
――ああ、あれで飛び跳ねながら一気に下層を突破する。
――中々に楽しそうね。
――実際楽しい。……楽しそう?
Jはヌルの発言に疑問を持ちながら、ゲームを進める。
Jはロージナを操作しながらボヨンと跳ね、上へと進んでいく。だが、一定のところまで来ると、ハネリダケを利用した跳躍では届かない箇所が現れた。Jはそこでロージナの腰に巻いてあるドラゴンクロウ付きのロープを上方に投げ、ドラゴンクロウが上方のサルノコシカケをがっちりと咥える。Jはロープを引っ張り、ドラゴンクロウが外れないのを確認して、ロープを登っていく。そしてある程度のぼり、隣のハネリダケの上部が見えると、自分を振り子の重りにしてブランコのように体を前後に揺さぶり始めた。自分の体を重りに振り子の要領で勢いをつけ前方のハネリダケに飛ぶ。そしてその勢いのままハネリダケでジャンプを繰り返して下層上部へ登っていく。そしてこの縦穴空洞最上段まで行き、天井にドラゴンクロウをかじらせ振り子の要領で横穴にはいりこむと、外から光が漏れている。
――そういえばこのドラゴンクロウ、どうやって口を閉じたり開いたりしてるの?
――ロージナは魔人族の末裔で、魔法を使うほどの魔力はないけど、ロープを通して魔力を流し込むことによりかぎ爪の口を開閉できるらしい。
Jは外から漏れ出した光に誘われ外に出る。そこにはロッジのような小屋が建てられており、Jはその小屋の前でワープホールを展開した。Jはそのまま小屋の中に入ると、ふもとの小屋で見たような老人が出迎えた。
「ふぉふぉふぉ。ようこそ、中層の小屋へ、なんという格好をしとるんじゃお主は。ここは中層の入り口じゃ。その梯子を持っているということは麓のジジイにあったということじゃな。」
J本体がドールハウスの中から出てきて、ロージナがJとの憑依を解除する。ウィレナ、タラサ、マウガン、シェロもドールハウスから出てくる。
「変態パーティじゃな……」
ウィレナがロージナに労いの言葉をかける。
「ロージナ、J、お疲れ様。」
ロージナは老人に話しかける。
「お爺さん。お久しぶり。この人たちは私の新しい仲間よ!フックの落果遺物と落下傘が欲しいのだけれど、まだ在庫あるかしら?」
ロージナと老人は顔見知りのようだ。
「ふぉふぉふぉ。ロージナよ。儂は中層の番人ぞ?当然、用意しておる。」
老人は小屋の奥の引き出しから、かぎ爪状のフックにロープが繋がっているアイテム、それとベルトが付いた布を折りたたんだものをJ達に人数分手渡した。
――実際は1つあれば十分なんだけどな。
――操作するのは1人だけだものね。
Jたちは落下傘のベルトを体に巻き付ける。老人は鍵爪とフックを掲げ説明する。
「中層は下層に比べ蔦や木の洞が少ない。だから上に登るにはモンスターを利用するのじゃ。このフックは落果遺物を加工して作ったもので、モンスターのもつ魔力に反応して口が閉じる仕組みになっておる。飛行モンスターの足にこれを引っかけ、トリガーを引くと閉じた口から微量な魔力がモンスターの体内へ流れる。するとモンスターは驚いて上空へ飛翔する。その際にはあるフックの傾きでモンスターの移動を操れるはずじゃ。そしてこっちのロープトリガーを引くと口が外れ次のモンスターめがけてまたフックをかけるがよい。万が一落ちてしまっても心配するな。この落下傘があれば死ぬことはない。」
「お爺さん、ありがとう。後は私に任せて。さぁJ、皆、外に出てちょっと練習してみましょう。」




