第52話 人質
「闘技場凄かったね!あんな戦いが毎日行われてるなんて!」
「マウガンは昔より強くなっていたわ。今ならジラフィムも敵わないそうね。」
「僕はてっきり殺し合いかと思ったんだけど、そうか、それだと連日の興行は出来なそうだね。金を回収するいいシステムだ。」
「うわ、シェロ物騒。」
J達もコロシアムを後にする。コロシアムの外に出ると、マウガン邸で見た執事とミランが出迎えた。
「ウィレナ様、J様、タラサ様、シェロ様、お迎えに上がりました。」
「どうですか?マウガンさん強かったですよね!」
「ああ、とても強かったね。他の参加者たちとは比べ物にならないくらい。」
「ええ、昔より強くなってたわ。」
「やっぱり!マウガンさんは今でも毎日鍛錬してるんですから!私、マウガンさん迎えに行ってきますね!」
「お嬢様、起きお付けくださいませ。」
ミランは闘技場へ駆けていく。
「では、皆さま、今日はもう夜も遅い、マウガン様はコロシアムの主催者様たちと打ち上げがおありです。皆様はお屋敷にて休まれるのがよろしいかと。」
「そうね、ありがたく休ませていただくわ。」
J達はマウガンの屋敷に行き食事をとり、そしてゲストルームへ向かう。
一方、そのころ、マウガンとミランは……
――ここで場面転換
――珍しいわね。Jの視点以外のシーンなんて。
闘技場の主催者席へマウガンは移動する。後ろからミランが駆けてくる。
「マウガンさん!お疲れ様!今日も無事でなによりです!」
「ミラン、ここは危ないから来ちゃいけないと言っただろう。」
「ごめんなさい。でも私マウガンさんに会いたかったんです!」
ミランは上目遣いでマウガンに懇願する。マウガンは仕方ないなといった態度でミランの頭をなでる。
「もう!マウガンさん!私はもう12歳ですよ!子ども扱いはやめてくださいといつも話しているいるでしょ!」
ミランは頭を振り手を払おうとする。
すると、ミランの帽子が外れ、その下から、2本の角と側頭部から大きな垂れた耳が姿を現した。
マウガンは慌てて空中にある帽子をとりミランの頭に巻く。そしてミランにしか聞こえないように話しかけた。
「ミラン、すまなかった。誰にも見られてないね?」
ミランもマウガンにしか聞こえないような小声で話す。
「はい、大丈夫かと思います。」
マウガンは周囲を確認しするが人影はいない。
「大丈夫そうだ。いいかい、ミラン、君とソーコルが魔人族だと言うことは誰にも知られてはいけないよ。」
「はい、マウガンさん。でないと私達奴隷として売られてしまうからでしょう?」
「そうだ。魔人族は貴族の奴隷に大変人気がある。決して外で帽子を取らないようにね。」
「分かりましたわ。マウガンさん。それじゃあ、私お家へ帰ります。」
「ああ、気を付けて帰るんだよ。」
マウガンはミランを送り返すと、コロシアムの主催者の部屋へ赴く。
ミランはコロシアムを出ると一直線にマウガン邸へ帰る。が、突如、ミランの進行方向右手から馬車が急速に近づいてきてミランの目の前で停止する。
――馬車の挙動じゃないわね。
すると馬車の中からマントで身を隠したフードの男たちがミランに近寄り一瞬のうちにさるぐつわをはめ、ずだ袋を頭に被せ馬車に押し込んだ。そして馬車は闘技場の反対方向に走り消え去っていく。
マウガンは主催者の観覧部屋に入ると、正面には大広間にあるような長机とその向こうに闘技場が見える出窓がある。マウガンは名が机の橋に座ると、くるっと巻いた口ひげが目立つスーツを来た小太りの男性の対面に座った。その男の横には、ボロ布を肌に巻き、両手足に落果遺物の枷を嵌められ、頭からは角とたれ耳を生やした魔人族の奴隷たちが男女問わず複数人立っている。Jはその対面のうしろにも同様の奴隷姿の魔人族が並んでいた。
「コルヴォ殿、この度はお招きいただき誠に光栄でございます。」
コルヴォと呼ばれたその男はふんぞり返ってマウガンを見下しながら答える。
「マウガン殿、本日もよき戦いであった。興行主として鼻が高い。して、八百長の件は了承してくれるかな?」
「いいえ、私は八百長なぞ致しません。私にも戦士としての矜持があります故、この度もお断りさせていただきたく存じます。」
「ふむ……やはり引き受けてはくれぬか。マウガン殿、其方は強い、強すぎる。其方が来てもう12年。闘技場は其方が出るだけで場内が盛り上がる。だが、年々興業の売り上げが減っている。何故かわかるか?」
「賭けが成立していないからでしょう。」
「そうだ。一部の酔狂を除いて皆其方に賭ける。これでは賭けが成立しない。ならばどうする?こうすればいい。」
コルヴォは指をパチンと鳴らす。するとマウガンの後ろにいた魔人族の奴隷たちがマウガンの両手にしがみつく。だがマウガンは動じない。
「これはどういうことですかな?コルヴォ殿。」
「魔人族はご存じかな?マウガン殿。私は無類の魔人族コレクターでね。魔人族はいいぞ。なんたって魔人族は魔法が使える。1人につき1種類だけだがね。」
「ええ、存じております。」
「さて、君の両腕を押さえつけている魔人族は二人とも同じ魔法を使える。何か分かるかね?」
「さぁ?ただ、この魔人族たち、なかなかの剛腕のようですな」
「ククク……」
コルヴォは再びパチンと指を鳴らした。するとマウガンの両手から紫色の電流のような物体が放出される。
「ヌゥウウウウウウウウウッ!」
マウガンの体から力が抜けていく。マウガンは腕を掴まれた時から振りほどこうと力を籠めていた。だが、魔人族たちの魔法により力を抑えられていたのだ。
「人間の体には本来魔力が宿っており、筋力を鍛えると同時に魔力も鍛えておるらしい。その二人は触れたものの魔力を空気中に放出させ力を減衰させる能力を持つ。つまりだ。マウガン殿、貴殿が強すぎるのであれば弱くなってもらえばよい。」
マウガンの筋骨隆々な体が少しずつしぼんでいく。
「ハァ……グゥッ……ハァ……ハァ……」
「もうよいぞ、離れよ。」
マウガンを抑えていた魔人族たちが離れる。
「さすがはマウガン殿だ。これほどの時間耐えたものは今までおらんかったぞ。なぁに、心配するな。一度放出された魔力も鍛錬によって再びもとに戻るらしい。それまで辛いだろうが、ここで戦っていく以上儂の言うことには従ってもらうぞ?」
「ぐッ……ハァ……!コルヴォ、貴様……!オオオオオオオオオオオオオオ!」
マウガンは長机の端を持ち思い切り持ち上げ床へ叩きつけた。
「ふむ、まだそれほどの力を備えておるか。仕方ない。」
コルヴォは再び指をパチンと鳴らす。するとコルヴォ近くの扉から、後ろ手に手首を縄で拘束され、頭にずだ袋をかぶされた子供位の背丈の者が、コルヴォの部下に連れられて部屋に入って来た。マウガンはその服装を見て激怒する。
「コルヴォ!貴様ぁアアアアアアアアアア!」
「おっと、動くなよ。おい、ずだ袋を外せ。」
ずだ袋を外すと涙で両目を赤く腫らしたミランの姿があった。ミランはさるぐつわを咥えさせられ声を発することが出来ない。だが、マウガンには目で「助けて!」と言っているように直感した。
「この娘は人質だマウガン殿。貴殿が明日の大会で優勝出来れば無事にお返ししよう。だが、もし優勝できなければ、貴様は生涯私に仕えよ。貴様で八百長を仕込んで儂はさらなる金持ちになるのだ!」
コルヴォは席を立ちミランを引き連れ部屋を去ろうとする。
「ミラン!」
ミランは呻くことしか出来ない。




