第51話 剛剣マウガン
「ミランちゃんはいいこだったね。」
タラサがミランについていうと、マウガンは少し悩ましげな様子だった。
「姉のミランは弟のソーコルとは対照的にとてもいい子に育ってしまいました。しかし、手間がかかりすぎなく、親代わりの私に対して遠慮してしまっているのかもしれません。」
「親子の関係は難しいメェ。」
「みたいだね~」
その後、しばらくの談笑が続いたのち、部屋の扉をコンコンとノックする音が聞こえた。
よいぞ、とマウガンが言うと、ガチャリと扉が開き、執事らしき格好をしたお爺さんがマウガンに伝える。
「旦那様、そろそろ試合のお時間でございます。」
「おお、もうそんな時間か。皆さん、この街最大の娯楽、コロシアムをお楽しみください。わたしが皆さんを楽しませてあげましょう。」
マウガンはそういうと屋敷の外へJ達を案内し、すぐそこのコロシアムに連れて行った。
球場の半分ほどの広さのコロシアムは既に大勢の観戦者であふれんばかりとなっている。そのの最前列という特等席へと案内され、マウガンはJ達に提案する。
「私の試合すぐに開始されます。よろしければ私に有り金を賭けていただければ、必ずや増やしてお返しいたしましょう。ただ、残念ながら私の倍率はそこまで高くないのですがね。」
そういうとマウガンはバックヤードへ消えていった。マウガンの言う通り、コロシアムの壁に掲げられた掲示板には複数人の名前と、一番端にマウガンの名前があり、オッズは1.1倍と表示されている。それを見たシェロは悟ったように口を開く。
「この掲示板から察するに今日のメインイベントはバトルロイヤルのようだね。掛け金は最後に闘技場に立っていたものの総どりらしい。それにしてもこの形式で1.1倍は驚異的な強さだよ。」
タラサは閃いたという風に思いついたことを口にした。
「ねぇ!聞いて!あの一番倍率が高い人に賭けて、他の人をマウガンに倒してもらって、最後にマウガンに負けて貰えば大金持ちになれるよ!」
「タラサ、それは八百長と言ってルール違反なんだ。」
「あ、そうなの。残念。いいこと思いついたと思ったんだけどなー。」
「それしてもこのコロシアムの熱気はすごいわね。私も体が熱くなってきそう。」
J達が会話をしていると、闘技場の門から中に一人の人物がすたすたと歩いていく。
その男は白スーツに黒の赤の蝶ネクタイとサングラスをつけ、声を張り上げて会場中の観衆に声を届けた。男が声を張り上げると、会場中が途端に静まり返り、男の声だけが響き渡る。
「会場にお集まりの紳士淑女の皆様!本日のコロシアムもラストステージとなりました!本日最終戦はバトルロイヤル!血気盛んな猛者たちがたった一人の頂点を決める血沸き肉躍る殴り合いだァ!」
ワーッと歓声が上がる。
「それでは選手たちの入場だァー!選手多すぎて紹介しきれないからゼッケンを見て自分の賭けた選手を見てくれよー!それでは入場!」
闘技場の大扉がばたんと開き、中から木剣や盾、棍棒、刃をつぶした槍や棍、木大剣を持った選手が入場してくる。それと同時に大扉上にいる。楽団がファンファーレを奏で、場内はより盛り上がっていく。
「どんどん入場していくぞー!参加者のきれいな顔が見られるのは今のうちだー!しっかり目に焼き付けておけよぉー!」
参加者たちが次々と手を上げ入場していく。観戦者たちは自分が賭けた選手へ勝ってくれと激を飛ばし、そうでない選手へは罵詈雑言が浴びせられる。
そして最後の選手が入場する。
「皆様お待ちかね!最後に入場するはこの闘技場のチャンピオン!12年間完全連勝!個人戦もバトルロイヤルもその剛剣で薙ぎ払ってきた!あまりに強すぎるためオッズは常に1.1倍!夢追い人は負けてくれと願い!安牌求め皆彼に賭ける!我らがチャンピオン!マウガン・ビッグベアーの入場だァー!」
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」」」
場内が歓声に沸き立つ。その場にいるだけで肌が揺れ、皆が石造りの床を踏みしめマウガンを鼓舞する。マウガンは自分の身の丈を超える木剣を片手で持ち、鬼気迫る表情で一歩一歩闘技場内へ進んでいく。
参加者はみな一様にマウガンの方を見て挑発的な態度をとっている。マウガンは自分に対する目線に対し睨みを聞かせ、一触即発の雰囲気だ。
「すごい闘気だね。ここから見てるだけでも肌がピリピリしてくるよ。」
参加者が出そろうと、場内は静まり返る。今にも闘技場内で戦いが始まると固唾をのんで待ちわびている。その静寂を赤蝶ネクタイのレフェリーが打ち砕いた。
「さあ!全選手の入場が終わりました!これから始まる大乱闘!一体だれが生き残るのか!最後までたっていた選手の優勝です!それでは試合ィイ開始ィィィイイイイッ!」
試合開始のドラが鳴り響き場内に歓声が沸き起こる。
まず目に飛び込んでくるのは、一人の選手がマウガンに特攻していく様子だった。その選手は左手で盾を構え右手に木槍を持ってマウガンに突撃する。
「死ねぇええええええ!マウガンー!」
槍と大剣のリーチの差から先に槍の攻撃の方が届く。
「マウガンなら何も問題ないわ。」
ウィレナのいう通り、マウガンは剣を持ってない左手で槍を払い、そのまま左手で盾の上から突撃してきた選手を殴りつけ、盾を粉砕し、選手を地面に叩きつけた。
「ごふっ。」
胸の防具が拳状に陥没しそのままその選手は立ち上がることが出来なかった。
「マウガン選手に突撃しそのまま返り討ちに会い撃沈―!勝負の幕を切って落とすのはやはりこの男だー!」
大扉上にいる実況者が声を張り上げる。
選手たちはお互いに目線を合わせ、皆マウガンの方へ武器を構える。
「控室で打ち合わせた通り、まずあのマウガンを全員で倒す!バトルロイヤルはその後だ!」
その光景を見てタラサは驚く!
「うわ!ひどい!20対1なんて勝負にもならないよ!」
「確かに、でも王者を仕留めない限りは残りの面子で殴り合っても最終的にマウガンが勝つだろう。自分たちが勝つには合理的な判断だよ。」
「ええ、そうね。でもマウガンなら何も問題ないわ。」
選手の一人が地面に敷き詰められた砂をマウガンに投げつける。マウガンはそれを大剣の背で防ぎ、目つぶしを無効にする。が、その瞬間マウガンの視界は大剣の背によって遮られ、その隙に選手が5人突撃してくる。
「卑怯だよ!」
「戦略的だね。」
マウガンの体に槍が接触する直前。マウガンは後ろに飛び、選手の攻撃をかわしつつ、右手で大剣を払った。マウガンの体は宙に浮いていて、足の踏ん張りが効かないにも拘らず、腰をひねり突撃してきた5人の選手を大剣で薙ぎ払う。マウガンが着地すると同時左右からに大剣を上段に構えた兵士が襲い掛かるが、マウガンは払った大剣を地面に投げすて、左右の大剣が自分の頭を打ち抜かんとする瞬間、大剣の腹の部分を左右の肘を曲げた裏拳で弾き飛ばしそのまま突っ込んで頭をマウガン側に下げた頭部めがけて鉄拳をお見舞いする。左右の男2人は大きくのけぞり大剣を離す。マウガンはその大剣を両手で1本ずつ掴み、大剣を2本奪い取った。
そして地面を舐めるかのような前傾姿勢で残りの集団に突っ込んでいく。
「全員で叩きのめずぞ!囲め!囲め!」
突っ込んできたマウガンを選手たちが囲もうとするが、マウガンは双大剣を斜め下から斜め十字に切り上げ選手たちを吹き飛ばす。中には武器や盾でガードしている選手もいたが、まるで防御の意味をなさない。ガードした木製の武器が折れ、盾は砕け人は吹き飛ぶ。
マウガンはそのまま自身を軸に回転させ、まるで残りの選手たちを切り払い吹き飛ばしていく。その姿はまるで重戦車が砲身を回転させているようだった。
そしてほんの数秒の攻防によって選手たちは立ち上がることが出来ない体にされ、最後に小柄な男がマウガンと対峙する。マウガンはその男に向かって剣を突き出し挑発する。
「さあ、好きなタイミングで掛かってくるといい。」
その男は両手で握った剣を地面にすて両手を上げて降参のポーズをする。
その瞬間、ドラが場内に鳴り響きバトルロイヤルは決着となった。
「やはり勝者はこの男だった!最後まで生き残ったその男の名は……マウガン・ビッグベアー!」
場内が歓声と怒声に包まれる。歓声はマウガンに賭けた者たち、怒声は倒れた選手たちに向けられたものだった。
マウガンは倒れた者たちを立ち上がらせ、手を振りながら闘技場を後にする。そして場内からすべての選手が退場しレフェリーが大扉から出てきて、場内にアナウンスをする。
「これにて本日のメインイベントは終了でございます!また明日も同様に大会が開かれておりますゆえ、奮ってご参加ください!それでは皆様!ごきげんよう!」
ファンファーレが鳴り響き観戦者が外へ出ていく。




