第49話 スリのソーコル
村長の屋敷に向かうと、村長が出迎えた。
「皆さんと過ごしたここ数日、ワシの人生の潤いとなりました。感謝いたしますぞ。」
『こちらこそ感謝する。』
「して、皆様は次にどこに行かれるので?」
「そういえば何も決まってなかったね。」
「最終目標は樹上に行くことね。そこにJと私のルーツがあるもの。」
「ほほう。樹上ですか、確かティーア皇国側では世界樹に登るのは禁忌とされておりましたな?」
「ええ、そうよ。近づいただけでも死罪になるわ。」
「バルバロ共和国ではそのような規則は御座いません。すべては自己責任で登りたいものが世界樹を登る。そのような者たちを、この国では『登頂者』と呼んでおります。」
「『登頂者』……」
「世界樹へはどこからでも登れますが、せっかくバルバロ共和国に来たのでしたら、南側から登樹するのが良いかと。そちらにはセッティモの都があり、闘技場がございます。今なら『剛剣マウガン』の戦いが見られるかもしれませんぞ。」
「マウガン……!」
ウィレナが驚き声を上げる。
「マウガンって名前確か王城で誰か言ってたよね。」
「ジラフィムが「私はマウガンとは違う」と王女に言っていた気がするけど。」
「マウガンは私の元近衛兵長よ。ジラフィムとの御前試合に敗れて私の下から去ったの。まさかバルバロ共和国にいるなんて……」
「ねぇ!ならせっかくだしマウガンに会いに行こうよ!ウィレナと知り合いなんでしょ。仲間になったらきっと心強いよ!だって『剛剣マウガン』だよ!強いに決まってるって!」
「マウガンの噂はこのような辺境の村にも響くほどでございます。さぞお強いかと。」
「そうね。マウガンは頼もしい存在だわ。いい?J次の目的地はセッティモの都で。」
『ああ、構わない。』
「それじゃあ村長さん。お世話になりました。」
「いえいえ、こちらこそ楽しいお話でした。近くに来たらまたお寄りください。歓迎致しますぞ。」
Jたちは村長の家を後にし、ウィレナがいた高台の下に移動する。3人を壁に沿って凹の字に配置し、その場で待機させた。
『3人ともここで待機してくれ。』
Jはそのまま高台へと登り、3人の間に落下しキャラクターのコリジョンによって落下が持続している間に壁に向かってローリングし少しずつ地面に落ちていく。そして落下が終わると同時に3人の待機を解除させ、Jは崖を背に反対に向くと勢いよく壁から発射され、その時にJは3人をカルトゥムのドールハウスに入れ、村の入り口に向かって高速で移動し始めた。
村の入り口には扉の無い門がつけられており、そこから先は砂漠地帯となっている。Jが砂漠地帯にスライド移動しながら足を踏み入れると、地面からしっぽが3本あるサソリ状のモンスターがJに向かってカサカサと近づいてくる。が、Jはそれをスライドしながらローリングで回避し戦闘は行われない。その後も砂漠の砂山の稜線に沿って移動し、空からコンドルタイプのモンスター、地面から双頭の蛇や体の半分が口で出来ているような口の中に無数の歯の列があるワーム状のモンスターが襲ってくるが、Jはそれを全て回避していく。
そして日が暮れる直前、砂の壁と水が流れる堀に囲まれた街が砂塵の中から姿を現した。街の中央にはコロセウムのような円形の闘技場があり、そこから二階建てや三階建ての、石と水で土を固めた壁の建物が放射状に広がっており、それぞれの通りには露店が軒を連ねている。
Jはウィレナ、タラサ、シェロをドールハウスから出し、街の中へ入っていく。3人は散開し露店に目を奪われる。
ウィレナは山のように積まれた果実を手に取り、Jに話しかける。
「これを頂くにはどうしたらよいのかしら?」
今まで王族として外出以外何不自由なく生活していたウィレナにとって、物を得るという当たり前のことへの対価をどうやって支払えばいいのか、それが分からなかった。
「なんだ嬢ちゃん。金持ってねぇのか。」
「お金……?」
『これだ。店主、それを一つくれ』
「毎度!」
Jは小銭袋をどこからともなくだし、銅貨1枚を店主に手渡した。
「なるほど……こうやって手に入れるのね。よかった……勝手にとって食べなくて……」
『そんなことしたら捕まって牢屋行きだ』
「私本当に何もしらないのね……」
『これから覚えていけばいい。俺も何も知らないところからスタートしたからな。』
「ありがとう……J……」
Jとウィレナが会話していると、ドンッとJにマントを着たてフードを被った少年がぶつかった。
「おっとごめんよ。」
少年はそのまま走り去っていく。
タラサとシェロがJに寄ってくる。
「ねぇJ、買いたいものあるから財布貸してよ。」
Jは先ほど取り出して手に乗っているはずの財布に目を向ける。
「J、財布はどこ行ったの?」
『スられた』
先ほどのフードを被った少年を探す、すると人混みに紛れてJから離れるその姿を遠目で確認した。Jはすぐに走り出し、少年を追いかける。J以外の3人はJに追従して走り出す。
少年は自分を追ってきているJ達に気づき、路地裏へと走り出す。Jは露天商の天幕に手をかけ一足飛びで天幕へと駆け上り、土と石造りの家のベランダ部分に飛び乗った。そして少年の方へベランダや天幕伝いにパルクールのごとく近づいていく。
少年も地上を走っていては追い付かれると思ったのか、馬車の座席から屋根上に飛び乗り、そのまま民家の屋根へと駆け上る。Jは少年は弧を描きながらコロセウムの方へ逃げる。Jは先回りをしながら民家のベランダや屋根、天幕の上を走り抜け、少年に対して直線に詰め寄り、屋根の上で少年にタックルし捕まえた。Jと少年はそのまま屋根の上を滑り、屋根の端から地面へ滑り落ちた。
「げふっ」
Jは少年を起き上がらせ、財布を奪い取る。
「はぁ……はぁ……J……速いよ……!」
「すまない、J、僕がもっと早く気付くべきだった。」
いつの間にか背後に追い付いている3人。タラサとウィレナは行きも絶え絶えだが、シェロだけはケロッとしている。
Jは少年に問う。
『なぜ盗みなんか働いたんだ。』
少年は不貞腐れたようにフードを外す。幼いながらも芯を帯びた顔立ちで目つきは鋭く、野良猫を彷彿とさせる。頭には耳も隠れるほどの帽子を巻いていた。
「ふん……!隙だらけだったからな。」
「元盗賊の僕が言うのもなんだが、君は盗賊には向いていない。君の逃げ方こそ隙だらけだったよ」
「ちっ……!捕まっちまったら仕方ねぇ……煮るなり焼くなり好きにしやがれ……!」
開き直った少年にウィレナはそっと頭をなで、Jの財布から銅貨を1枚取り出し少年に手渡した。
「きっとお腹が空いていたのね。これで何か買うといいわ。でも、もう2度とこんなことしちゃだめよ。」
「腹が空いていたわけじゃねぇ!」
少年は銅貨を地面に叩きつけた。
「はぁ!?ナニこいつ!ちょームカツク!」
タラサは憤慨する。
次第に周囲に何事かと人だかりができ、Jたちは群衆に囲まれた。そこへ騒ぎを聞きつけた大柄の男がやって来た。大柄の男は髪を逆立て、少年に思い切り拳骨を喰らわせる。
「ぐぉらァ!ソーコル!貴様また盗賊まがいのことをしやがって!」
「痛ってぇ!」
「ほら!謝れ!盗んだ人に!早く!」
「……っち、ごめんよ」
「声が小さい!もっと反省の意を込めろ!」
「すみませんでした!」
少年とその父親と思わしき大柄の男はともにJ達に土下座をする。ウィレナはその大柄の男に向かって驚愕し、その男の名前を口にした。
「……マウガン?」
『マウガン』の名を出すと周囲にいた群衆から歓声が沸き起こった。
「『剛剣マウガン』だ!闘技場のチャンピオンがここにいるぞ!」
「今日の試合もお前さんに賭けるからな!絶対勝ってくれよな!」
「キャー!マウガンー!今日も素敵よー!謝らないでー!」
周囲の歓声を無視してマウガンはJ達に謝り続ける。
「うちのソーコルが大変ご迷惑を犯して申し訳ない!」




