第45話 王、レーヴェリオン
Jはフラグメントがあった牢屋から外へ出て左手へ進み、城内部へと続く階段を登る。階段を登った先には右手に通路があり、兵士が巡回していた。Jはこれを無視し階段を登り、こちら側から掛けてある鍵を外し王城西通路へ出る。王城の床は大理石のような見た目で格子状に模様が入っている。壁には銅像や壺や刀剣、鎧が飾られている台が等間隔で並んでおり、天井には荘厳な宗教画のような絵が描かれている。今は夕暮れ時で、西日が通路をまぶしく照らしている。そこを槍を持って腰からも剣を下げ軽めの鉄の鎧を着こんだ兵士が巡回している。
――本当はさっきの右手の通路から牢屋に行ってショートカットでこの扉を内側から開けるのが正着ルートなんだが、シェロがいると大体のギミックを無視できる。
――RTAでは必須キャラなのね。
Jは王城に西通路を巡回している警備兵に向かってダッシュで近づいていき、警備兵から30メートルほどの距離で見つかる寸前にしゃがみ、横の壺が飾ってある台座に隠れる。
――よく見つからないわね。
王城の警備兵の視界は大体40メートルで視野角は120度ほどだ。その範囲内に入った上でより近づかないと発見されたことにならない。そのギリギリの範囲で台座があるから、通り過ぎるのを待つ。
――今まで見たいに締め落とさないのね。
――気絶した兵士はすぐに他の巡回兵に見つかってしまうからな。そうすると警備が強化されてより厄介になる。誰も気絶させずに行った方がいい。
Jの隠れている台座を警備兵が横切った瞬間、Jはすぐさま警備兵がやってきた方へダッシュし、再び見つかる直前で中腰になり台座に隠れる。そして再び警備兵が通り過ぎたら奥の扉へダッシュし、速やかに扉を開け先に進んだ。そこは王城の玄関メインホールの場所で、中央に階段、左手の階段裏に大食堂に繋がる扉、右手にはJが入るのをスルーした城門の入り口に繋がる大扉があり、1階部分に階段前を往復している警備兵が一人。階段上に左右の通路にとそこから伸びる上へと続く階段にそれぞれ一人ずつ警備兵が巡回している。
Jは向かって正面を巡回している兵士が背を向けた瞬間、階段の影へ走る。そして階段上部へ視線を移動し、階段上にいる警備兵が壁の向こうに言ったのを確認すると、一目散に階段を駆け上がった。そして階段の踊り場ですぐに中腰になり、正面にいる警備兵が左回転して振り向くのに合わせて、兵士の右側をすり抜けて兵士の視界に入らないように警備兵をスルーした。
そのまま、通路を進み階段を登る。階段は踊り場でいったん左右に分かれるが、Jは右手に進む。するとすぐ目の前に警備兵が現れた。見つかるかと思いきや、すぐにしゃがみ込みシェロのスキル、隠密を利用し警備兵の視界の外へ移動し警備兵の背後を中腰のまま移動していく。警備兵は何かあったのだろうかとあたりをきょろきょろと見回すが、既にJはそこにはいない。
右手の階段を登りさらに左に行った先、突き当りを左に曲がり右手に見えるは大扉。その大扉を開けた先に目的地であるティーア皇国の王がいる玉座の間がある。まるで迷路のような王城の構造はJの頭の中にすべて入っている。シェロを仲間にしていない状態での城内の鍵のある場所や、からくり屋敷のような謎仕掛けのギミックも全てだ。それらの知識を全て無視できるこのシェロ登城チャートはRTAにおける必須要素だった。
大扉前の兵士を抜け、学校の体育館程の広さがある玉座の間へと入っていく。Jは憑依を解除し、ウィレナたちはドールハウスから外に出て王に謁見を挑む。
「城内にて鼠が騒いでいると思うたら、貴様か、ウィレナ。それに……ほう……貴様は……!」
玉座の間の奥、階段を数段上に登った玉座から見下ろすはこの国の王レーヴェリオン・ティーア。その横で瀟洒に佇みこちらを見るは、ティーア皇国の真なる姫君。そして階段下にはジラフィムが剣を床にたて付けこちらを睨んでいる。
レーヴェリオンは金髪の腰ほどまでに延ばしたオールバックと、鎖骨あたりまで伸びた金ひげを蓄え、深い彫の目からは見ただけで目を逸らしたくなるほどの重圧を感じさせる顔をしていた。椅子に座っているがその姿は巨体であり、身長は2メートル半ば程だ。髭がなければ初老の印象を持つ。
ウィレナはジラフィムに一瞥し、2人から十数メートル離れた場所まで近づき、自分の父親に向かって話しかける。
「お父様、お聞かせ願えないでしょうか……私は……ウィレナはこの国の姫ではないのですか?」
「ああ、そうだ。貴様はこの国の姫ではない。」
「!!」
「あなたは私の影武者として育てられたのよ。ウィレナ。」
王の横にいる姫はウィレナに話しかける。豪華なドレスを見に纏い、化粧や髪型も変わっているが、どこかで見た顔立ちだった。
「フェレス……まさかあなたが……!」
ウィレナは驚愕した。幼い頃より、自分の従者として長い月日を共に過ごした自分の半身ともいえるフェレスが、まさか自分を裏切るとは。
――知ってた。
――そうだね。ネタバレしてたね。
「処刑前に全てを教えてやろうとは思っていたが、貴様からここに出向くとは。いいだろう。貴様の疑問を我にぶつけてみるがよい。」
「私はお父様の子ではないのですか?」
「ああ、そうだ。貴様は我の娘ではない。フェレスが真なる我が娘だ。」
「では、私の両親は一体……!」
「貴様の母親は樹上人だ。」
レーヴェリオンの発言にジラフィムが反応する。
「な!国王陛下……!」
「よいのだ、ジラフィム、これは事実である。」
「私の母親が……樹上人……」
「今より16年前、貴様の母親は落果遺物の入れ物に入って天井より城の裏庭へと落ちてきた。記憶を失っていてな。」
「Jと同じ……!」
「その時点で既に身重だった貴様の母親は、我が城にてメイドとして働かせることにしたのだ。そして時が経ち、貴様の母親は貴様を生んだ。それとほぼ同時期にフェレスも誕生したのだ。」
「それで、私のお母様は……?」
「貴様を生んだ時に死んだ」
「そんな!」
「そして貴様の母親は特異なる能力を持っていた。我が王族と同じように、魔法が使えたのだ。魔法とは王族のみに天より授かった奇跡の御業。そして天とは樹上のこと。王族は樹上人の末裔でもあるのだ。」
ジラフィムはうんうんと頷く。
「ならJも魔法使えるってことにならない?」
タラサがJに疑問を投げかける。
「確かに、Jも天井から来た樹上人なら魔法が使えるんじゃないかな?」
「それを確かめるために我は密命としてジラフィムをジマリ村へ派遣したのだ。ウィレナ、貴様の母親、アルデアがそうだったようにな。」
「アルデア……それがお母様の名前……そう……だったのですね。私はお父様の本当の娘ではなかった……」
ウィレナは胸に手を当てうつむく、そして表を上げ、続けて疑問を投げかける。
「お父様……いえ、国王陛下。なぜ私は処刑されなければいけないのですか。」
「ウィレナよ……貴様は魔法は使えるな。」
「はい、幼い頃より鍛錬をし、現在では無詠唱で使役できる魔法もございます。」
「それがすべての原因なの。ウィレナ。」
フェレスが口をはさむ。
「あなたが魔法さえ使えなければあなたは処刑されることもなかった。この世で魔法を使えるのは王族のみ。お父様がこの国を建国した際に魔法によってこの国を統治したの。すなわち、魔法とは王族であることの証。それが王族以外が魔法が使えるとなったらどうなると思う?民の忠誠は揺らいでしまうわ。そこでお父様は一計を案じたの。」
「魔法が使えるウィレナをフェレス姫の影武者として大人になるまで育て、大人になったのちに姫の名をかたる隣国のスパイとして処刑することで民の信頼を得ようとしたわけか。」
シェロは悟ったように口を開く。
「何それひどい!そんなことしなくても街の人は王様を信頼してたよ!」
タラサは憤慨する。
――隣国のスパイ?初耳なんだけど。
――この世界はティーア皇国と世界樹を挟んだ隣国のバルバロ共和国の2つの国があって、
この二つの国は休戦状態にあるんだ。街の住民とかからいろいろ話を聞くと分かるが、全部スルーしてたからな。
フェレス姫はタラサに返答する。
「そう、問題はそこなのよ。民はあくまでお父様個人に忠誠を誓っている。それはお父様個人の力が絶大であるからこそ。後を継ぐ私にはその力がない。民の信頼を得る機会が必要なの。」
「それでウィレナをスパイとして摘発し、隣国のバルバロ共和国の侵略を防いだという実績を持って、正式にこの国の跡取りとして民に名を広めようとしたわけだね。」
タラサがJにしか聞こえない小さい声でつぶやく。
「うわ!面倒臭っ!しかも回りくどいし!」
――他にいい方法あると思うんだけど。
――思いつかなかったんでしょ。
レーヴェリオン王がウィレナに提言する。
「さてウィレナよ。お前には今2つの選択肢がある。今すぐに牢に戻るか、それともここで死ぬかだ。」
ジラフィムが剣を構える。それを見てウィレナはジラフィムに問いかける。
「ジラフィム、あなたが私を斬るの?」
「私がお仕えするはこの国の姫君でありあなた自身ではありません故。マウガンとは違うのです。」
――マウガンって?
――後で出てくるマッスルなおっさん。仲間候補の一人で、ジラフィムの先代で師匠。
「そう……残念だわ。私は父にも信じた部下にも、仲良しだと思っていた女の子にもう裏切られて死んでゆくのね。」
『俺たちがいる。死ぬ必要はない。』
Jはウィレナに答える。
「そうだよ!ウィレナが死ぬ必要なんてない!ウィレナが政争の道具で死んでいくなんて王様が勝手すぎるよ!」
「僕も同感だ。僕は君の前座で処刑されるの予定だった。巻き込まれた者同士、乗った船には最後までいるよ。ここから逃げよう。」
J、タラサ、シェロはウィレナを囲むように立ち武器を構える。それを見下すようにレーヴェリオン王はジラフィムに命じる。
「ジラフィム。姫を捕らえよ。残りは殺して構わん。玉座の間を血で汚すことを許す。」
ジラフィムは剣をJたちに向け顔の横に剣の柄が来るようにし、剣先をJ達に向けるように構えた。




