第37話 グルニ邸からの脱出
「ぶひゃひゃひゃ!よき余興で合ったぞ!どうだ?そこで伸びているちんけな雑魚よりもよっぽど傭兵としての見込みがある!一生食うに困らない金で雇ってやろうぞ!」
3人をバルコニーから見下すグルニ。シェロは、そのグルニをギッと睨みつけた。シェロの迫力に気圧されたのか、グルニはぺたんとしりもちをつく。そして手すりの隙間からシェロに向かって口を開いた。
「な……なんだその目は!ワシはティーア皇国中級……いや、上級になる伯爵様だぞ!その上級伯爵になるワシに向かってなんだその目つきは!」
シェロはグルニの方向2時に向かって走り出し、壁を蹴りあげ、半球状のドームの内側を回転しながら駆け上がり、グルニのいるバルコニーへ飛び乗った。
「よくもエイナスを侮辱したな?」
「ひぃいいいっ」
グルニはしりもちをついたまま足をガタつかせて怯えている。シェロはグルニに顔を近づけて脅す。
「今はお前を殺さないでおいてやる。ただし、お前が失脚する証拠を作り上げるまでの時間だ。ここでのお前の趣味を国王陛下サマが知ったらどうなるかな?去れ!」
「ひぃいいいいいッ」
グルニは手足をばたつかせ這うようにバルコニー奥に逃げていく。
――サブイベントでグルニを失脚させるイベントがあって、そこから這い上がるイベントもあるがRTAではやる意味はない。
シェロはバルコニーから飛び降り、エイナスのところに戻る。シェロはひざをつきエイナスの手を握る。
エイナスは息も絶え絶えな状態だが、意識はある。エイナスはシェロに倒れた状態のまま話しかける。
「シェロ……俺は……お前に……嫉妬……していたんだ。」
「エイナス……」
「暴力しか……能がない……俺とは違って……お前は……なんでも……出来ていた。」
「そんなことない……!エイナスや他の仲間達がいたからだ!」
「それだ……!そういう謙遜が気に入らなかったんだ……!」
エイナスは倒れていた状態から手を伸ばしシェロの襟元を掴む。
「お前が……俺たちを見下していたんじゃないかと……!お前は、一人でことをこなしても……俺たちの手柄にしてしまうから……!」
――被害妄想が強い奴だったのね
――強すぎる仲間意識が招いた悲劇ってやつだな
「それに……部下たちから俺より……お前が優れていると陰口を聞いて……俺の心に闇が生まれたんだ……!お前さえいなければ、団員の忠誠は俺だけのものだと……!」
「馬鹿野郎……!」
シェロは涙をこらえながらエイナスに叱りの言葉を投げつける。
「ああ……馬鹿なこと……をしたと……思うよ……それで……グルニの野郎に……お前の情報を漏らして……団員たちにお前が裏切ったと伝えてな……」
「だから団員たちが襲ってきたんだね。」
「ああ、お前と言う盗賊団の……トロフィーと引き換えに……この屋敷をあてがってもらったが……結局、俺はやっぱり湿った地下が好きらしい……」
「成り上がろうとしても結局このザマさ……」
「エイナス……」
「シェロ……俺にとどめを刺してくれ……もう生きるのに疲れた……親友を裏切ったまま裏切り者として……お前の手で殺されたい。」
「エイナス、それは出来ない。もし僕のことを思うなら、このまま生き続けてくれ……それが君の、裏切り者への報いだ。」
「ぐはっ……手厳しいな……だが、それがいい……お前はもっと自分勝手に生きるべき……だ……」
エイナスはそういうと手をシェロから放し気絶した。
「シェロ……それでいいの?」
「ああ、エイナスはこのまま置いていく。これだけのダメージだが、エイナスは死にはしないだろう。エイナスの体力は僕が十分知っているし部下の面倒もちゃんと見るはずさ。」
シェロは立ち上がり、Jに話しかける。
「行こう。J。これで僕の頼みは終わりだ。エイナスの言う通り、好き勝手に生きようと思う。まずは君に借りを返したくなってしまった。同行させてくれないか?」
『ああ、よろしく頼む。』
「こちらこそ、よろしく。」
シェロ・キャッシャーが仲間になった!
3人は来た道を引き返し螺旋階段を登る。そして屋敷の大広間、玄関ホールと続き正門から堂々と外へ出た。
Jは正門前でおもむろにメニュー画面を手元に表示させ、シェロのページに移行する。
そしてシェロの服をすべて剥ぎ取り、ドールハウスのクローゼットへ仕舞った。ボクサーパンツにブーツのみとなったシェロはJに対して言う。
「君が脱げと言うのなら脱ごう。ただ、少し恥ずかしいな。」
――やっぱり脱がせるのね。
――理由は前に言った通りだ。
J達は平民街の広場まで移動する。そしてそこにある馬貸屋で馬を3頭借り、王都正門に向かって走り出した。王都正門から100メートルほどの橋を渡ると関所がある。下着姿で馬を駆る変態3人衆は関所の左側をスルーして王都前の街道を右に向かう。
――左側は出口専用なんだ。
――出るときに通行手形は必要ないの?
――通行手形が必要なのは入るときだけで、一度王都に入ってワープホールを設置してしまえばもう手形を見せることもなくなるからな。それにワープホール以外でも、世界地図を手に入れれば、その世界地図から町やダンジョン入り口までならファストトラベル出来るようになる。俺は世界地図取らないルートで移動しているからファストトラベルは必要ないがな。
――ワープホールで十分なのね
――それと本来なら王城前広場で情報収集をして、姫が王城に囚われていたり、処刑までの残り日数を知ったり、王城内部の様子を聞いたりして王城に潜入して捕まるまでが正規ルートなんだが、RTAでは別のルートを取る。向かうのはテルティウム街だ。
――テルティウムの街?どこにあるの?
――ここの王都を出て右、つまり西に1キロメートルほど言ったところにある。王都へは東から来たからちょうど反対方面だな。今向かっているところだ。
J達一行は王都の城壁を右手に見ながら街道を走っていく。しばらくすると城壁がなくなり、開けた丘陵地帯に差し掛かった。崖を馬で駆け下りたり左手にモンスターの洞窟や、野盗の拠点をつっきたりしながら移動すること数十秒、もはや街道を無視した移動ルートだったが、いつの間にか元の街道に戻り、暗く重苦しい雰囲気が漂う色彩が失われた街、テルティウムの街にたどり着いた。街中央の広場から奥に一本道荒廃した道が続いており、
その左右は荒れ果てた森林地帯となっている。
――Ωの字の湾曲した部分が街道で、Jは最短で街道を無視して移動してきたわけなのね。
J達が街の広場に入ると、一人の少女を囲んで人々がもめているようだった。
「お父さんがおかしくなったのはあのお屋敷に行ったからなの!だから言ってどうしてお父さんがおかしくなったか知りたいの!」
少女は周囲の人に懇願するように説明する。その少女に対し、周囲の大人たちはそれを制止するかのようにたしなめていた。
「キャナリちゃん!あのお屋敷には近づいちゃいかん!あそこのお屋敷に行って頭がおかしくなって帰ってきたのは君のお父さんだけじゃないんじゃ!」
「そうだ!危険すぎる!マオスの館は幽霊屋敷だ!マオス子爵の怨念が屋敷を徘徊している!何人もの調査隊を送り込んだが、半分は帰ってこず、帰ってきた残りの連中は君もしっているだろう!親戚のキャナルとソバージュも帰ってこなかった!私の息子の悪いことは言わない!やめなさい!」
キャナリと呼ばれた少女は涙ぐみ小さな声を振り絞り反論する。
「でも……でも……!お父さんこのままじゃいやだよぉ……!」




