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第33話 シェロの過去

――J、どうするの?ここの崖、途中で休憩できるポイントなさそうだけど。

――問題ない。さっき手に入れたかぎ爪がある。

Jも崖を登りはじめる。Jは壁に右手をかけると、左手をくるりと回転させ、かぎ爪を手に持つ。そしてかぎ爪を掌のレールベルトから外し、かぎ爪から接続されているロープを持ちかぎ爪回転させる。そしてその回転の勢いのままかぎ爪を崖上方に投げ、石に引っかかったのを確認し、ロープを手繰って両手をロープに、両足を崖にして駆けるように崖を登っていく。

――普通に登るより早いし体力ゲージの減りも少ないのね。

――そういうこと。

かぎ爪を得たJは崖をすいすいと登っていく。それと同じくらいの速度でシェロも登っていき、ものの十数秒で崖の上に到達した。

シェロは手首をぐりぐりとひねりながらJに話しかける。

「それで?どうして僕を助けたりなんかしたんだい?」

タラサがドールハウスから出てくる。Jが答える。

『王都でウィレナ姫が処刑される。その処刑の前に姫を救い出したい。協力を頼む。』

「君はウィレナ姫の親衛隊か?」

『いや、違う。』

『みたいなものだ』

『命令を受けている。』

『姫をLOVE!してるからだ』

Jは3番目の選択肢を選んだ

『命令を受けている』

「なるほど、姫は信のある部下をお持ちのようだ。正直、うらやましいよ。」

「いいだろう。助けてもらった借りもある。協力しよう。そして頼みがある。僕の復讐に付き合ってくれないだろうか?」

「復讐だってさカルトゥム!物騒だね!」

「ですメェ。キナ臭いメェ。」

「話したいのは山々だが、僕の脱獄が看守にばれる頃合いだろう。場所を変えよう。ここから離れないか?」

「それならいいとこあるじゃん!ドールハウスの中!」

『分かった。少し離れてそこで話そう。』

「ありがとう。よろしく頼むよ」

シェロが仲間になった!

木の上にカルトゥムが葉っぱに紛れて隠れている。ここなら見つからないだろうと言うことでタラサが隠したのだった。その背にはドールハウスが背負われており、横には壺が添えられている。

ドールハウス内、Jとシェロは向かい合って椅子に座っており、タラサはベッドの上でうつ伏せになり頬杖をついて足をバタバタさせている。シェロは自分の過去を語りだす。

「さてどこから話そうか……」

『捕まっていた理由について』

『復讐について』

『なぜ盗賊団を?』

『ご趣味は?』

Jは3つめの選択肢を選んだ。

『なぜ盗賊団を?』

「僕は……いや、僕たちは貧しい街のさらに貧民街出身の子供たちによって構成された盗賊団だったんだ。」

Jの目の前が暗転し、その暗闇が徐々に開かれていき、レンガ造りの街に雪が降る光景が眼前に映りだす。ボロ布を身に纏い、あばら骨を浮かせた男とも女とも分からない人間がどさっと雪の上に倒れる。

その倒れた人間にやせ細った野犬が群がり、首筋に噛みつく。かまれた首元からは血が噴き出し、当たりの白雪を朱色に染める。そして上方にはカラスが死体のおこぼれを頂こうと建物の上からじっと倒れた物体を見ている。野犬達は手足を食いちぎって食おうと四肢に噛みつき頭を揺らしている。

「ギャイン!」

噛みついていた野犬が1匹、突然悲鳴を上げて体勢を崩した。他の野犬はその野犬を見た後、反対方向を向く。そしてその方向から石ころが大量に投げつけられ、ひるんだ野犬達は路地裏へと一目散に逃げだし、建物上のカラスの瞳には死体に近づく2つの小さい影をじっと見ている。

その影が倒れた人間に近づき、身に着けているものを物色する。

「どうだ?まだ生きてるか?」

「いや、死んでる。さっきの犬どもにとどめをさされたみたいだ。」

「何かめぼしいものはあるか?」

「いや、何もない。来ている服もただのボロ布だ。」

「くそ!帰るぞ!余計な体力を使っちまった!」

「どうか。安らかに。」

影の一つが遺体に手を合わせる。もう一つの影がそれに対して反応する。

「シェロ、死んだ人間にいちいち手を合わせるなよ。そんなことしてたらここでは何本手があっても足りやしない。」

「ああ、正直僕もそう思う。でもね、エイナス、これは大事なことだと思うんだ。僕たちが死んだときに誰も僕らに手を合わせてくれないと考えたら寂しいじゃないか。だから僕らだけでもこの人の冥福を祈ってあげよう。」

「ちっ!今回だけだからな!」

エイナスと呼ばれた少年はシェロと一緒に遺体に手を合わせる。エイナスはシェロにその行為の意味について疑問を投げかけた。

「なぁ。これってなんの意味があるんだ?」

「意味は知らないよ。ただ旅人がやっているのを見た真似さ。死んだあとも魂が安らかでいられるようにって儀式らしい。」

「死んだ後ねぇ。俺らにピッタリじゃねぇか。いつ死ぬとも分からねぇガキの俺たちがよ。」

「そうだね。でも僕たちは死なないさ。絶対に生き抜いて見せる。」

「ああ、当然だ。俺らしくねぇ弱音吐いちまった。」

死体に両手を合わせる少年二人に向かって、近くの窓から食器が二人に投げつけられる。

「痛ぇ!何しやがる!」

窓の中から顔と耳を紅潮させたひげ面の男が酒臭い息を吐きだしながら2人に怒声を浴びせる。

「うるせぇゴミどもめ!さっさと知らねぇところでおっ死んじまえ!死体漁り見苦しいぞ!てめぇら臭くてありゃしねぇ!野犬みてぇに死体食ってくれると助かるんだがな!ギャハハ!」

「なんだと……!」

怒り狂いそうになるエイナスをシェロは制止する。

「よそう。エイナス。早くここから立ち去ろう。」

「けどよ!あんなことされて頭に来ねぇのかよ!」

「もちろん頭に来るさ。でも、怒ってもおなかがすくだけだ。行こう」

「チッ!覚えてやがれ……!」

 僕たちははじめ2人だけだった。どちらも両親がおらず、気づいたらスラムで二人で協力して生きてきた。食料はたまに立ち寄る旅人に恵んでもらったり、躊躇なく露店から食べ物を盗んだりしてそれで何とか飢えをしのいでいたんだ。そんな子供たちだけで生きていると、同じように両親のいない孤児達が飢えをしのごうと集まってきてね。いつの間にか窃盗を生業とする、盗賊団が出来上がっていたんだ。そして僕たちが大人になるころには、町でも名の知れた盗賊団になっていた。

 とある廃墟。そこには木箱に詰められた果物の山や、干し肉、パンなどが台や箱に詰められて1か所に床に置かれている。そこの食料を囲むように少年たちが酒を飲み交わしている。そこには年相応に成長したエイナスとシェロの姿もそこにあった。エイナスは仲間と肩を組みながら大笑いをしている。仲間も一人がシェロに向かって話しかける。

「ハッハー!今日は大量だったな!シェロさんのたてた作戦がうまくいったぜ!普段の街の行商だと護衛が付きやすい!でも、監獄行きの輸送馬車にはほとんど護衛はつかないってな!さすがシェロさんだぜ!これでしばらく食料にゃ困らねぇ!」

シェロは答える。

「護衛もいなかったわけじゃない。屈強な囚人たちも何人かいたさ。それでも何とかなったのはエイナスをはじめとした皆のおかげだよ。」

「ああ!シェロさんの知謀にエイナスさんの暴力!2人のリーダーについていけば俺たちは安泰だぜ!」

廃墟中に笑い声がこだまする。そんな笑い声の中、シェロが神妙な面持ちで口を開くと、当たりはスゥッと静かになった。

「なぁ、そろそろ次の段階を目指さないか?」

「次の段階?」

「僕たちは今何の目的もなく盗みを繰り返している。その日暮らしの盗賊団だ。それでも町で悪名高く僕らのことを知らない人はいない。だがそれは悪名だ。そろそろ名声がほしくないか?」

エイナスがやや苛立った返答をシェロに向ける。

「なんだ?シェロ。次はどうしたいってんだ?悪名の何が悪い。俺たちは自分たちの手で生活している。ガキの頃から大人たちは俺たちをゴミのように扱っていた。そんな大人たちから俺たちが物を奪って何が悪いってんだ!」

「俺たちが物を奪った大人たちもさらに上の連中に奪われてるってことさ。」

「上の連中……?誰だ?それは?」

「貴族街の連中さ。」

「貴族か!」

「こんなさびれた街でも貴族街の連中はのうのうと贅を喰らっている。前に忍び込んだんだ。連中は大人たちを奴隷のようにこき使いほとんどの利益を吸い上げている。奴らこそ、不平等こそが僕たちの真の標的だよ。」

「そいつらから食料をかっぱらうのか!でもそれがどう名声につながるんだ?」

「盗むのは食料だけじゃない。奴らのため込んだ巨万の富さ。そいつらから金銀財宝を奪うんだ。」

「金銀財宝?でもそれとか食えねぇぞ。」

「馬鹿!金がありゃあ食料がたんまり買える!食料をいちいち盗む必要もねぇんだ!」

「そりゃすげぇなぁ!」

盗賊団の皆が歓声を上げる。薄暗い廃墟の中、少年たちの顔は明るくなっていた。

「ああ、金があれば毎回危険な盗みを行わなくて済む。ケガも死人も出ない。ただ、僕の狙いはそれだけじゃない。」

「なんだってんだ?」

「僕たちが貴族たちから盗んだ金を、僕たちが盗みを働いた大人たちに返すんだ。」

「なんだと!俺たちがせっかく苦労して手に入れた金をどうして大人たちなんかに渡さなきゃならないんだ!」

エイナスは激高した。あたりは静まり返り皆の視線がシェロとエイナスに向けられる。

「僕は考えたんだ。人の感情はふり幅に左右される。例えば、君たち、君たちが盗みに失敗したときにエイナスが殴らずに逆に良かったところを褒めたらどう思う?」

「え?何かいいことでもあったんじゃないかって思うと思う……」

「そうだね。実際にそんなことが起こったら、きっとエイナスがいい奴に見えてくることだろう。」

「なんだ?普段の俺が悪い奴みたいな言い方は。」

「言葉の例えだよ。まぁ、実際盗みを働いてるからいい奴ではないけどね。」

「確かに、エイナスさんが殴らなかったらそれだけでいい奴な気がしてくるな!」

「なんだと!」

「まぁまぁエイナス。落ち着いて。今まで盗みをしていた僕たちが逆に金銀財宝を大人たちに配るんだ。するとどうなると思う?途端に掌を返してぼくたちを称賛するのさ!それを繰り返して、僕たちが今まで盗んできた以上のものを大人たちに渡すんだ。すると今まで僕らを敵視してきた連中はみんな僕たちの味方になる!もう日陰をこそこそ隠れて大人たちからの暴力におびえなくていいんだ!」

「そりゃすげぇ!シェロさん!やろう!」

「見返してやろうぜ!俺たちはゴミじゃねぇ!大人たちから認められてぇよ!」

わぁっと歓声が上がる。だがエイナスだけは怪訝な表情を浮かべている。

「俺は賛成出来ねぇ。貴族から盗むってだけでも危険なのにその上でせっかく手に入れたお宝を手放すだと?そこまでして名声が欲しいのか。」

「欲しいのは名声だけじゃないさエイナス。人の本質は善性だ。悪に染まっていてはいずれその身を滅ぼしてしまう。まぁ、結局そう言ってもやっているのは変わらず物を盗むことなんだけどね。」

「違う。シェロ。お前もさんざん味わってきただろ。大人たちが俺たちにしてきた仕打ちを。やつらは悪だ。そして俺たちも盗みを行っている。すなわち俺たちも悪人なんだよ。」

「そうさ。僕らは悪人さ。けどその悪性を無くすことは出来る。そのためのお宝の分配さ。」

「すげぇ!シェロさん!なんかよく分かんねぇけど立派なことだってことは分かるぜ!」

「もちろん、全部大人たちにやるつもりはない。僕たちも十分分け前を貰うつもりさ。」

「シェロさん!やってやりましょうぜ!俺たちで俺たちを馬鹿にした連中を見返してやるんだ!」

「やるぞ!俺はやってやるぞ!」

「おーっ!」

その時僕ら廃墟の若者たちは一致団結した。エイナスを除いては。


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