第32話 シェロ・キャッシャー
Jは振り返り扉を開ける。扉を開けた先には正面に豪華な扉、右手には階段があり、その上にはシンプルだが凝った装飾が施された扉がある。
――正面が宝物庫で右手がグルニの私室だ。今は入れない。入る必要もないがな。
Jは宝物庫の扉に鍵を差し込み回す。そこはコレクションルームになっており、中央奥にモロがガラスケースに入って飾られており、それがひな壇上に左右に飾られている。そこまでの左右には見たことないような落果遺物や壺や武具などが飾られている。宝物庫にはタラサは部屋に入ると感激の声を漏らす。
「すごーい!お宝の山だー!ねぇJゆっくり見たいんだけどダメかな?」
『ダメだ』
「ちぇー!でももしかしたらスライム魔法が込められた落果遺物があるかもしれない!ちょっと探してみようよ!あれ結構貴重らしいしね!きっと飾られてるよ!」
――フラグ立てておかないとここで何もイベントが起こらないんだ。
――なるほどね。
Jは一直線にひな壇の上から3番目、奥から6番目のガラスケースに近づき中を開ける。中には掌に乗るほどの立方体が入っている。箱の面のそれぞれの中央には円形に小窓が開けられており、中にはゼリー状の物体が入っているようだった。タラサが反応した。
「あ!これ多分お目当ての落果遺物!スライムキューブだよ!ちょっと見てて!」
そういうとタラサはその『スライムキューブ』を思い切り地面にたたきつけた。するとむにゅーっと箱の小窓部分から緑色のゼリー状の箱が染み出すように飛び出し1辺が2メートルほどの立方体となってプルンと地面に落下した。
「J!試しにパンチしてみてよ!思い切りね!」
Jはハンマーを取り出し思い切りゼリー状の物体に殴りつけた。
――パンチとは……?
――打撃武器なら何でもいいんだ。他のだとタラサに止められるからな。
ゼリー状の物体に叩きつけられたハンマーは、その運動エネルギーがすべてゼリーに吸収されたかのようにピタリとゼリーの側面で停止した。
「当ったりー!これがお目当ての落果遺物『スライムキューブ』だ!頂いちゃおう!」
――盗賊団って私達のことでは?
――言われてみれば確かに。
「他にいろいろ見たいなー」
タラサがちらちらとJに目配せしお伺いを立てる。が、Jはそれを許諾しない。
『だめだ、長居すると警備兵に気づかれる。』
「むむー。了解。」
タラサはしぶしぶ了承する。だが、そういったJは部屋の四方にある宝箱をひらき中から金貨や素材の落果遺物を回収する。その中にはワープホールが3つ入っており、Jはそれもカルトゥムの壺に入れた。
宝物庫を出て正面の扉を開けると、マヤレがまだ気絶している。マヤレの脇を抜け、大広間へ行き、兵士がいないほうへ向かい玄関ホールへ向かう。
――ワインセラーのところから出るんじゃないの?
――いや、帰りはこの屋敷の通常玄関から出る。
――通常じゃない玄関とは。
――勝手口とか?
玄関ホールを抜けると脇に兵士2人とシュヴァインが伸びている。ロータリーを抜けると、王都貴族街に出る。どの貴族の屋敷も広大な土地に大きな屋敷を構えておいる。隣の屋敷まで数十メートルと少し距離があるが、行くことはない。屋敷を出て左手に向かうと、右手には王城にや上級貴族街へと続く登り階段、左手には城下町へ続く下り階段があり、Jは城下町へと向かう。やや長めの階段を下りたすぐ左手にある鍛冶屋に入るとJはパイルバンカーをとりはずし鍛冶屋の主人に見せる。Jはメニュー画面を操作し、パイルバンカー先端にクッション材を装着し非殺傷武器に変更した。
――屋敷の素材と金貨を使って非殺傷にできるんだ。
――どんどんアップデートされていくのね。
そしてJは鍛冶屋を後にして、鍛冶屋の前にワープホールを設置してJとタラサは中に入っていく。
目の前が暗転し、若干の浮遊感を感じた後、辺り?は薄暗い夜の崖の上に2人は立っていた。崖下にはつい十数分前に見たラトロ監獄が変わらぬ様子で脱獄者を拒んでいる。
Jは振り返り、背後のヒビの入っている大岩に行き、巨人の小鎚で殴り鉱石や石ころを入手し、カルトゥムの壺に入れた。
Jは崖の上に立ち、深呼吸をして崖の先、空中へ歩を進める。内臓が持ち上がるような浮遊感を感じながら数十メートル下の監獄の屋根に向かって落下する。
「ひゃぁあああああああああああああああああああああああ!」
横でタラサが叫び声を上げながらJとともに落下する。
ほんの数秒の落下だがとても長く感じつつ、地面へ後十数メートルのところで『スライムキューブ』を地面に投げつけた。『スライムキューブ』は地面に激突すると瞬時にゼリー状のスライムを展開。Jとタラサをぬぷっと受け止めた。
――間に合わなかったら死亡してゲームオーバーだから結構シビアだ。
ゼリースライムが収縮しJとタラサは着地する。
「うへぇ……死ぬかと思ったぜ……こういったのはもう2度としたくないよ……」
タラサはため息をついて愚痴をこぼす。
――残念だがまだあと何度も落下することになるけどな。
――鬼畜ね
――攻略上仕方ないからやってるだけだからね!?
ラトロ監獄。牢屋は1つずつがボックス型の個室になっており、そこに一部屋1人が収容されている。そのボックス型の牢屋はこの監獄内にはおよそ300個あり約300人が収容されている計算だ。だがいくつかのボックスは空になっている。そのボックス型の牢屋は乱雑なピラミッドのようにいくつも詰みあがっており、上部に行くほど凶悪な犯罪者が捕らえられている。そのボックス型が取り囲むように看守室が櫓の上に設置され、随時囚人の見張りを行っている。
Jはその上から3段目に着地し、すぐに身をかがめた。看守室にいる看守の一人と目が合い、異変を感じた看守は看守室を飛び出しJのもとへ移動してくる。牢屋の一部分には階段が備え付けられており、看守はそこを登ってくる。
――まずは鍵を手に入れないとな。
――看守から逃げながら鍵を入手するのね。
「おおい!お前さんら!こっちにきぃや!鍵開けとくれんね!」
「ギャハハハッ!空から変態と女の子が降ってきやがった!」
「嬢ちゃんやあ!いいもんあげるからコッチ来んさいや!」
様々な野次がJとタラサに向けられる。
――鍵があれば開けるの?
――開けられるけど、開けると正邪ゲージが邪の方に傾くからやらない。やると看守の注意を引いてくれたり牢屋内のアイテムを手に入れられたりするからやる価値はあるけど。
Jとタラサはボックス牢屋を飛び降りてまっすぐ看守室に向かう。看守室は螺旋階段で上部看守室に繋がっており、J達は素早く螺旋階段を上がっていく。
Jは螺旋階段の頂上まで登ると、扉をノックして中の看守をおびき寄せる。
「どうだ?異常はあったか?」
看守が外に出るとJは扉の影から手を伸ばし看守の襟首をつかむと扉の影に引きずり込み締め落とした。Jは自分の後ろに看守を移動させると、再びノックして残りの看守をおびき寄せ同様に締め落とす。Jの後方に看守の列が出来上がった。
Jとタラサは看守室に入ると、壁に掛けられた『鍵の束』を入手した。それと「押収品」と書かれた箱からかぎ爪が先端に着いたロープと、それを腰に固定するベルトがあり、Jはそれを腰に巻き鍵づめを左手の甲に装着する。手の甲から掌に掛けてベルトが巻かれており、その表面に小さいレールが走っていて、手首の捻りで掌にかぎ爪が装備できる仕様になっていた。
――これで崖のぼりとか壁のぼりが楽になる。
Jはそのまま看守室を出て階段上部から飛び降りる。飛び降りる前に『スライムキューブ』を投げ落下ダメージを軽減する。Jは自分たちを追ってきた看守の後をつけるようにボックス牢屋の階段を登っていく。そして上段から3段目、奥から5段目の牢屋にたどり着く。中には、フードを目深に被った男が両手に枷を付けられてベットに座っている。男はJたちが鍵を開けると声をかけた。その声は弱々しくも苦難に立ち向かう強い意志を感じる声だった。
「君たちは看守じゃないな?僕が誰だか知ってて助けようとしているのか?」
『盗賊:シェロ・キャッシャー。あんたの力を借りたい。』
「……いいだろう。ここを出してくれるならこれは借りだ。借りは返すのが俺の流儀だ。あんたたちに同行させてもらおう。しかしなんだその格好は?」
Jたちの格好に疑問を感じつつシェロは立ち上がりJ達に手かせを外してもらうように両手を差し出す。Jはその手かせの鍵を鍵束から探し出し鍵穴に鍵を差し込み外した。ガゴンッと手かせが床に落ちた鈍い音が監獄に響く。
シェロは手首をぐりぐりとストレッチし、タラサとJに向かって口を開く。
「助けてくれて礼を言う。ひとまずはここから脱出しよう。付いてきてくれ。」
シェロは自分の入っていた檻の天井に手をかけ軽くボックス状の牢屋に飛び乗った。
Jはタラサにドールハウスに入るように指示を出す。タラサがドールハウスに入ると、Jはシェロと同じようにボックス状の牢屋に飛び乗った。Jがシェロに追い付くと、シェロは再び牢屋に飛び乗る。そして崖の壁際へと到達すると、軽快に壁を登り始めた。




