第27話 ヌルの変化
煉瓦の道路まで堀に沿って移動すると、フタロイ村から来た方向とは逆の舗装された道路に向かって道なりに進み始めた。数十秒ほどして遠目に立派な城壁に囲まれた王都が見えてきた。さらに数十秒スライド移動を行うと、王都への門の前に人々が列を形成している光景が目に飛び込んできた。ここでも関所として手形がなければ王都の城下町に入ることが出来ないらしい。
――どうするの?前の時より速度が遅いけど突破出来るの?
――いや、今回は強引に突破はしない。列に並んでる人から手形を盗んで通ることもできるが、邪の方にゲージが進んでしまう。今回は別ルートで関所を突破する。
王都は堅牢な城壁によって守られており、その外側はラトロ監獄のように堀に水が張られていた。その堀は水路の役割をも果たしているようで、水の流れが感じられ、遠方に見える川から水を引いているようだった。水路にはところどころ王都内部へ繋がるであろう水道が見受けられ、そこには鉄格子が侵入者を拒んでいる。関所は2階建てで、堀の水路の端の手前に門のように建てられており、1階は手形確認。2階は宿直のようだった。関所の屋上から縄文に向かってロープが2本橋渡しされており、ティーア皇国の国旗がぶら下がっている。その列の行商人や天幕を張った馬車が往来している。手形はちらりと見せればいいくらいでしっかりは確認していない。以前の関所のように荷物のチェックまでは行っていないようだった。
ヌルはその光景を見てJにどうやって王都に入るか言う。
――分かった。行商の馬車に忍び込んで隠れて関所をやり過ごすのね。
――残念外れだ。
――むーっ……。
ヌルは頬を膨らませる。
――ヌル、そんなに感情的だったっけ?
Jはヌルの方をちらりと見る。Jの後方にはカルトゥムとさらにその後ろにヌルがふわりと浮いている。
――あれ?おかしいわね?なんだか「悔しい」って感情が胸の内側から出てくる。前までこんなことなかったのに……
Jはヌルの姿に違和感を感じる。以前とは何かが変わっている。Jは気づいた。
――また拘束具が外れてるな。いつの間に外したんだ?
――本当だわ。外れてるというより消滅したっていう方が正しいかしら。私も今気づいたわ。
Jは思考を巡らせ前回拘束具が外れた時から今までにあったことで、ゲームに関係するものしないものの違いを考えた。そして一つの仮説が思い浮かんだ。
――もしかしたらフラグメントの回収のタイミングで拘束具が外れてるのかもしれない。ヌルっていうイレギュラーにフラグメントの映像記録というイレギュラーが無関係とは思えない。次にフラグメントを回収したらもう一度確認してみよう。もしかしたら何か分かるかもしれないしな。
――ええ、そうね。で、次にフラグメントを回収するのはいつになるの?
――この後すぐだ。
Jは行商人の馬車にぶつかりスライド移動を停止すると、関所門の近くの木の下でテントを張っている一団のところに向かった。Jはそこで恰幅のいい髭のを生やした男に話しかける。
『夜まで一緒に休ませてくれ。』
「ああ、いいぜ。こっちも手形が届くまで待たにゃならんからな。」
――こういった休憩ポイントではゲーム内時間を早送りしたり回復したり出来る。それにレベルアップ時に手に入れたパラメータポイントの割り振りも休憩時に行う。
――回復ポイントの設置も自分で出来るけど、そのための素材を持っていないからまだできない。
Jが木の下にある椅子に座り横にタラサも座らせる、『時間を早める』と思考すると周囲の時間が加速し始めた。タラサもドールハウスを弄ったり何やら落果遺物を取り出し組み立てたりする姿が確認できたり、うとうとと居眠りする姿が見て取れた。太陽があっという間に沈み、そして夜になり月が昇り始めた。周囲の人間や関所の人間も早送りした映像記録のように高速に作業をこなしている。
――パラメータポイントは膂力と体力に割り振ればいい。
Jはメニュー画面を操作して自分の全身が映った画面に切り替える。そこでレベルアップ時に入手したパラメータポイントを割り振っていく。レベルアップ時には全パラメータが+1ずつ伸びていき、追加でパラメータポイントが1入手するため、休憩時に割り振るシステムとなっていた。
Jが椅子から立ち上がると周囲の時間がもとに戻りだしあたりはあっと言う間に夜になった。関所はランタンの灯によって明るく照らし出されるが夜になっても人の通りは変わらない。Jは関所から離れた場所に向かう。そして周囲に誰もいないのを確認すると水路にぼちゃんっと飛び込んだ。タラサもJに続いて水路に飛び込む。
――正解は『水路から侵入する』だ。
――でも城下町の水路に入るには鉄格子が掛けられていて中に入れなそうだけど……?
――ああ、関所からみるとどの水路も鉄格子が掛けられていて入れるようには見えない。
ただ、1か所だけ鉄格子が壊れている個所があるんだ。
Jは水路を関所橋の方へ泳いでいき、関所側の水路壁際に密着しながら見張りをしている兵士に見つからないように橋の下まで来た。
――なるほど。ここね。




