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第113話 フォトレの過去

屋敷の裏庭で幼いフォトレと3歳くらいの子供が追いかけっこで遊んでいる。その2人を遠くから母親が座って見ている。母親のそばには幼いロージナが日陰で本を読んでいた。

「あははっローロ!こっちだよ!」

「あうぅ。おねーちゃっ。おねーちゃっ。きゃっきゃっ。」

どうやら二人は追っかけっこをしているようだ。

ローロは何度も転ぶように膝と掌を地面につきながらフォトレに追い付こうとしている。ローロはフォトレに追い付くことが出来なくても楽しそうだ。

「おねーちゃっ。まってぇ。きゃっきゃっ。」

「あーっまたローロが転んじゃった。ねぇお姉さま、御本読んでないで一緒にあそびましょう!」

「私はいやよ。疲れるんだもの。それより本の世界の方が楽しいわ。あーあ、私は外に出たいなー。」

「えーつまんなーい!ローロすぐ転んじゃうんだもん!」

フォトレは立ち止まって駄々をこねる。が、その間にローロがフォトレを捕まえた。

「おねーちゃっ!たっち!たっち!」

「あーっ捕まっちゃったぁ。」

「ふふふっ」

母親はその姉弟の姿を見てほほ笑む。自分はなんて幸せなんだろう。たとえ半分は偽りの家族であろうとも、このひと時が続けばよいと考えていた。だが、本心ではロージナとフォトレを愛していなかった。

ある日、ウサギのぬいぐるみを持った幼いフォトレがドアの隙間から大広間を覗き見ている。大広間では、フォトレの両親と思わしき二人が卓を囲んで会話している。

「ローロはもう寝たかい?」

「ええ、あなた。もうぐっすりよ。」

「僕たちは互いに過ちを犯した。だが、それらの苦難を乗り越えようやく授かった命だ。」

「ええ、使用人たちの身元検査もしっかり行って、もうあのようなことは2度と起こさないわ。」

「ロージナとフォトレは、僕たちの本当の子供じゃない。真の子供はローロだけだ。」

「ええ、私は許したわ。あなたがメイドのサキュバスに誘惑されてそのメイドが産んだロージナを育てるときも。」

「君がスチュワードのインキュバスに誘惑されて出来たフォトレを育てるときも。」

「「私たちは互いを愛し、その子供も同様に愛すると誓った。」」

――ドロドロ過ぎない?

――昼ドラもびっくりだよな。

「「そして互いを誘惑した不心得者は、もはやこの世に亡き者とする。」」

「だが、正直な話、フォトレの近頃の行動は目に余る。どこからかモンスターの幼体を連れてきては遊び相手にしてしまうことだ。もし村の住民にフォトレとロージナやそれらを見られでもしたら……。」

「屋敷の使用人達には箝口令を敷いてあります。それにフォトレにはもうモンスターと遊ばないようにと口をとがらせて言っております。公的には、私たちの子供はローロただ一人。フォトレとロージナは生涯、この屋敷から出すつもりはありませんわ。」

「そうだな」

その時、ギィっと扉の閉まる音が聞こえ、父親が「誰だ!?」と反応する。そして扉を開けるが、そこには誰も居なかった。

それから数日たったある日、裏庭ではローロがゆりかごに乗って揺さぶられている。母親の姿はなかった。どうやら一時目を放しているようだ。そこにフォトレがやってくる。だがフォトレ一人ではなかった。横には子供の亜人種、鼻が高く耳がとがり肌が緑色の背が60センチほどのインプの子供が横にいた。

「ねえインプちゃん。これ私の弟なの。どう?可愛いでしょ?」

「ギリルレフラルフルフググゲギゴゴ。」

「ふふっそうよね。とても小さいわよね。」

「ガルキリグゲゴゴ。グロリガオロス。」

「ええそうよ。赤ちゃんはとっても弱い生き物なの。ねえちょっと見て、ほら。ほっぺぷにぷによ。お母様には内緒ね。」

「ガウガ。」

子インプがその指先でローロの頬を押そうとしたその時。

「きゃぁあああああああああああああああああ!」

母親が叫び声をあげる。そしてローロに駆け寄りインプとフォトレを叩き飛ばす。そして応援を呼ぶ。

「誰か!誰か来て!」

すぐに屋敷の警備兵が槍をやってきて、子インプを拘束する。警備兵はフォトレとローロ、子インプを引き話す。そして、子インプに対して槍を構え振りかぶり……

「やっておしまい!」

「駄目ぇええええええええええええっ!」

ズブリと槍が子インプの体内に突き刺さっていき傷口から血が噴き出す。

「グゥギィエエエエエエエエエエ!」

子インプは口から血の泡を吹きながら手足をじたばたともがく。槍を引き抜こうと槍に手を架けるが、自身の血で滑って抵抗できない。槍はより深く突き刺さっていく。

「グォゴポッ。ギャカガガァアァァァ……」

「駄目っ助けて!お母様!お願い!」

フォトレの頬に血が飛ぶ。

「いけませんっ!モンスターは悪いもの!あんなのと遊んじゃいけません!」

「でもぉ……!ひどいよ!お母様ぁっ!」

「ごぽっ……ごぷっ……ゴギィ……。」

「ああ……インプちゃん……ぁぁ……。」

子インプは次第に動かなくなっていき、そして槍に沿えた手がズルっと落ち子インプは絶命した。

「ふん……っお庭が汚れてしまったわ。それにひどい匂い……今日中にこの汚物を片付けておきなさいな。」

「はっ」っと警備兵たちは了承し、子インプの死体を二人がかりで両手両足を持って運んでいく。

「まって……お墓……作らせて……!」

「駄目よ!あのゴミは焼却炉行きよ。」

「うわぁあああああんっ」

「いい?フォトレ。これはあなたの為にやっているんだからね?でも、母の言いつけを守った罰です!1週間!自室から出ることを禁じます!」

「うわあああああああんっ」

「おぎゃぁああああっ」

フォトレの泣き声に共鳴するかのようにローロも泣き出す。

「あらあら、ローロちゃん。ごめんなさいねー。ダメなお姉ちゃんで。ほら、フォトレ。部屋へお帰りなさいな!」

その後、母親はメイドにフォトレを部屋に軟禁するようにと伝え、子インプの残った血を掃除するように伝えた。

その数日後。雷鳴とどろく嵐の夜。雨が窓を打ち付ける音に恐怖しながら、幼いロージナはランプの明かりを頼りに、フォトレの寝室へ食事を届けに、薄暗い廊下をゆっくりと歩いていた。本来ならば、屋敷のメイドたちが食事を届けるのだが、思ったより嵐が強く窓の補修の為に出払っていたのだった。コンコンとロージナはフォトレの寝室をノックする。ドアノブは外から鎖で施錠されており、わずかばかり開いたドアの隙間から食事を届けている。ロージナは妹が心配で食事運びを買って出たのだった。

「フォトレ。大丈夫?食事。ここ置いておくね。」

ロージナが食事が乗ったお盆を扉の横に置いたとき、突然扉が開きロージナの手をフォトレが掴んだ。

「フォトレ!?」

「お姉様……お姉様は知ってるの……?」

「知ってるって……何を……?」

「私たちはお父様とお母様に愛されてない。偽物の親子なのよ。」

――半分は本当だけどな。

――ホラー展開が台無しよ。

「偽物ってどういうこと……?」

フォトレは両親と屋敷の召使だったものたちの関係をロージナに話す。外の雷鳴はより激しさを増していた。

「そんな……お父様……なんで……!」

「ねぇお姉様。一つお願いがあるのだけれど……」

 屋敷の大広間。父親と母親に向かい合ってロージナが座っている。

「なんだいロージナ。話って。」

「お父様、お母様。お聞きしたいことがあります。私とフォトレはお父様とお母様の本当の子供ではないのですか?」

「ロージナ!どこでその話を……!」

「フォトレに聞きました。本当なのですか!?ずっと疑問に思っていました。お父様とお母様は他の人と同じ見た目なのに、どうしてわたしとフォトレだけがこのような耳を持っているのか……なぜ嘘をついていたのですか!?」

「ロージナ。私たちは変わらずにお前達を愛している。信じてくれ。」

「なら!私の本当の母親に合わせてください!」

「ロージナ!」

母親はロージナに詰め寄り掌で平手打ちする。

「あの女の子ですら私は愛したのですよ!少しは母の気持ちも考えなさい!」

「お母様……いえ、あなたは母親なんかじゃない……!」

「ロージナ!何を言うか!母さんに謝りなさい!」

「嫌よ!お父様こそ!私の本当の母親を殺した人殺しのくせに!」

「フォトレか!フォトレがそう教えたんだな!」

――昼ドラもびっくりね。

――ドロドロ過ぎるよな。

「ええ!そうよ!本当に血の繋がってない偽物の姉妹だったのね!私たちは!」

「ロージナ!」

ロージナの体は電気を帯びバチバチと帯電し始める。雷属性の魔法使いの発露であった。

「この……化け物め!」

両親は激昂しロージナは大広間から駆け出す。外の嵐はより一層強さを増していた。

「お姉さま!」

ロージナはフォトレの部屋に向かう。

「フォトレ!逃げましょう!こんなお屋敷は私たちの居場所じゃないわ!」

「うん。お姉さま。行こう!」

フォトレが扉の隙間から手を伸ばし、金属の鎖に触れると、鎖がどろっと溶ける。

「フォトレ、あなた、魔法が使えるのね……!」

「うん。そうだよ。逃げよう。お姉ちゃん!」

「いたぞ!ロージナ様だ!拘束しろ!」

父親に呼ばれた館の警備兵がフォトレとロージナを追う。ロージナはフォトレの手を握り館の窓から外へ飛び出す。打ち付ける雨粒が二人の頬を伝う。だが、子供二人の足では雨の中警備兵から逃げることは出来なかった。ロージナとフォトレは警備兵に捕まってしまう。そこに、二人の両親がメイドに傘を差されながらやって来た。

「死ぬまで愛すると誓ったが……しょうがない。貴様らはこのまま生まれてこなかったことにしてやる。安心しろ二人とも、死ぬまでは愛してやるぞ。」

「ひっ……」

ロージナは恐怖した。自分とフォトレはこの場で殺されるのだと。人はここまで冷酷な瞳を子供に向けられるのだと知った。

「構わん。命令だ。2人を殺せ。」

館の警備兵が槍をフォトレとロージナの首にあてがいずぶっと押し込もうとする。と、その時。

「あああああああああああああああああッ!」

 ロージナの叫びとともにドガシャァンッと稲光がロージナに直撃する。それと同時に水によって雷が周囲に伝播し、警備兵たちは倒れていく。

ロージナの体の周りには焦げ臭いにおいが漂い、バチバチとロージナの体が帯電していく。そして、ロージナは立ち上がりフォトレの手を引いて逃げ出した。

フォトレの手には槍の金属が溶けて水のように流れていた。

「この化け物どもめぇ……!」

父親は倒れながら二人を睨みつけるが、ロージナとフォトレは我関せず逃げ出す。そうして館裏手の森の中をしばらく子供二人で走り続けた。そうしているうちに、いつしか雨はやみ、雲の隙間から日差しが差し込んでいた。

「ここ……までくれば……追ってもこれないよね……。」

「お姉様……ううん、ロージナ様?」

「お姉様でいいわよ。私たちは姉妹じゃない。」

「お姉様、このあとどうするの?」

「そうね。帰るところなくなっちゃったものね。ひとまず泊まれるところを探しましょう。」

「うん。私、お姉さまについていくわ。」

そうしてしまい幼い2人によるサバイバル生活が始まったのだった。が、それも長くは続かなかった。


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