第109話 断罪
王の間は学校の体育館程の広さで、奥にまで広大なレッドカーペットが敷かれており、階段の上には玉座が二つ、その裏には神話をモチーフにしたようなステンドグラスが神々しく光を透過している。
その玉座には、一人はシスネが。もう片方には、ぼさぼさの銀髪の頭に王冠を被り、白いマントを方からたなびかせ、きらめく装飾が飾られた純白の王族衣装を着た、やややつれた印象を持つ初老の男がこちらを彫の深い目でこちらをぎょろりと見つめている。その手には銀色の装飾が施された杖を持っている。杖の先端には虹色に光る水晶玉が浮遊している。
ウィレナは、ヴォルクルプスから世界の成り立ちを聞いた。樹上世界のあたりに散らばる魔力水晶のこと、ヴォルクルプスとレーヴェリオンは兄弟だと言うこと、レーヴェリオンは転生を繰り返していること。そして、レーヴェリオンは魔物を生み出し、人々と争わせている魔王と言うこと、Jはヴォルクルプスの使い魔であること。それらが語られる。
ロージナは妹を探しているとヴォルクルプスに問い詰めると、妹は下層世界に行ってしまったようだった。
「Jよ、我が使い魔よ。では見せてもらおう。貴様のカルマを。」
ヴォルクルプスが杖の柄でコンッと床を叩くと、Jたちとヴォルクルプスの間の空間にギロチン台が出現した。そのギロチンの刃は光で出来ており、本来の冷徹な印象とは違った雰囲気を醸し出している。
「カルマ?なんのこと?」
「Jよ、貴様が行ってきたこれまでの所業、その所業が善なるものか、それとも悪なるものか、このギロチンが示してくれる。」
ヴォルクルプスが再び杖をコンッと鳴らすと、Jの体が光るロープで拘束される。
「J!大丈夫⁉」
Jの体は宙に浮き、ギロチン台へと運ばれていく。そしてギロチンの刃の下に首をあてがわれる。
「ヴォルクルプス王!これは何事か!」
マウガンが憤慨する。
「この処刑台は善悪を断罪するギロチン台だ。首を差し出した者のこれまでの罪によって斬首されるかどうか決まる。そのものの善性が優勢であるなら処断刃はすり抜ける。悪性に偏っているならばその悪性が増幅し斬首される。」
「Jに罪なんてあるわけない!」
――なお、大量殺人者の模様。
――今回は救えないわね。
「さあ、我が使い魔としてそのカルマ見定めさせてもらおう!」
「ダメーーーーーー!」
タラサは目を両手で覆い見たくないとうずくまる。ウィレナは駆け寄ろうとするが、気づくとウィレナ達の足は光のロープで床に固定されており、いつの間にか身動きが取れなくなっていた。
ガコンッと処断の刃が切って落とされる。ギロチンの刃は左右のギロチン台の溝に沿ってスーッと落ちていき……
ドスッ!
ギロチンはJの首をすり抜け下まで落ちて台に突き刺さった。
ゴトッとJの首が下に落ち、首からは大量の深紅の血が流れ出る。
「きゃぁあああああああああああああああああ!」
「J殿……!」
「そんな……ひどい……!」
ウィレナ達は狼狽する。シスネは口を押えその光景をじっと見ている。Jの死体を見たヴォルクルプスが口を開く。
「むぅ!Jよ!貴様!これまでの旅路で悪逆の限りを尽くしていたのか!断じて許しておけぬ!我自らその首事葬ってくれよう!」
ヴォルクルプスは玉座からすっと立ち上がろうとしたその時、、ヴォルクルプス王の背後のステンドグラスが割れ、一筋の光線がヴォルクルプスの胸部を背後から貫いたウィレナたちはステンドグラスが割れた際の光で目をくらませる。
「!?」
「ごふっ!」
ヴォルクルプスは吐血する。その背後に二つの人影が飛来する。
「樹上世界において我が感知を躱すとは……レーヴェリオンめ……ここまで力を……!」
「あっれー?まさか今の一撃でやられちゃうんですかー?ねぇ?ヴォルクルプス様?」
「挑発はよせ。ティグリス。お前の悪い癖だ。」
「シンミャ、なんだい?僕に喧嘩売ってる?」
ティグリスと呼ばれた小さな人影、まるで人間の少年のようだが、大きなたれ耳に角を生やしたその姿は、魔人族のようだった。人間の少年の服を着ているが、放つオーラは歴戦の勇士を軽くしのぐ。腰には細剣を2本携えていた。
もう一方のシンミャと呼ばれた女も頭部に角とたれ耳を持ち、目を引くは頭部より大きなその豊満な胸部を揺らしながら玉座の階段を下りてくる。その姿は下層で戦ったレーヴェリオンを彷彿とさせる佇まいと服装だ。その背には身の丈を超える巨大剣を背負っている。
「まぁいいや、J様をよみがえらせよう。うん。それがいい。」
「いやあああああああああああああああ!父王様!お父様!」
「うるさいなぁ。君に用はないんだよ。」
ティグリスは泣き叫ぶシスネに向かって指さすと、その指先から光弾が飛び、シスネに命中する。シスネは急に静かになり深い眠りに落ちた。
――殺さないんだ。
――そうだね。なんでだろうね。
――生首のまま返答されても気味が悪いわね。
――なんかごめんね!?しょうがないけどさ!
「さぁJ様!起きてくださいよ!レーヴェリオン陛下がお呼びですよ!」
ティグリスがJの首に向かって話しかける。
すると、Jの首がケタケタと笑い始める。
――うわっキモッ!
――辛辣過ぎない!?
「J!?」
「さすがJ様!良きカルマにございます!」
シンミャはJの体を抱えJの首と体をくっつけ、Jの首と体が癒着する。シンミャはJの体に漆黒に見えるオーラ漂う魔力を注ぎ込む。
「レーヴェリオン様より魔力をお伝え致します。」
そしてJはゆっくりと起き上がった。
『いいぞ。シンミャ。いい魔力だ。』
ウィレナ達はその光景を見て状況を飲み込めず茫然と立ち尽くすしか出来なかった。そしてヴォルクルプスも口から血を吐きながらしゃべりだす。
「貴様らはレーヴェリオンの手下か。Jをどうするつもりじゃ。」
「あれ?王サマ、まだ喋れるんだ?」
ティグリスは瞬時にヴォルクルプスに近づき、手刀の一振りにてヴォルクルプスの首を斬り落とした。落ちた首からは深紅の血が噴水のように噴き出す。そして落ちた首を拾い上げ、シンミャに向かって話しかける。
「シンミャ、任務完了だよ。J様を連れてレーヴェリオン様の下に帰ろう。」
「ああ、J様、こちらへ。」
「J!待ってどこへ行くの!?」
『俺はJだが、Jではない……』
「J君どうしちゃったの!?」
『俺は……俺は……!ウガァアアアアアアアアアアッ!』
Jは暴走した。ハンマーを構えウィレナに突進しハンマーを振りぬく。マウガンはそれを大剣で受けウィレナを守った。
「ウィレナ様!ロージナ殿!私の後ろに!J殿は正気ではありませんぞ!」
「一旦殴って頭を冷やすしかないみたいだね!ウィレナちゃん!準備はいい!?」
「J……お願い!正気に戻って……!」
臨戦態勢に入ったウィレナ達を見て、ティグリスはヴォルクルプスの首を持ちながらやれやれと言った素振りを見せ、シンミャに話しかける。
「シンミャ。J様はまだ精神が安定していない。一緒に戦ってあげようよ。」
「うむ。そうだな。」




