第106話 中州のフラグメント
フェンリルはJ達に数歩近づき、口を大きく開き冷気ブレスを吹き付ける。Jはその冷気ブレスを斜め横に向かってローリングで躱し、フェンリルに一気に近づく。マウガンは冷気ブレスに向かって大盾を構え、ウィレナはその後ろに隠れる。フェンリルの懐に潜り込み、フェンリルの腹部にめがけて剣戟を浴びせる。木刀の攻撃だが、フェンリルの体力ゲージは大幅に減少した。
――レベルアップしてるからこの武器でも威力高いわね。
――ああ、瞬殺だ。
フェンリルはバックステップでこの剣戟を躱し、フェンリルは自分の前足に冷気のブレスを浴びせ、氷の爪を形作った。Jたちにアイスクロウを叩きこむが、マウガンはこれを盾で受け止め、Jは回避し、再び懐へもぐりこむ。そして再度の連撃を後ろ脚に叩きこむ。ひるんだフェンリルは大きく息を吸い込んだ。
「ウィレナ!マウガンの盾の裏に隠れろ!」
直後、フェンリルは自身の足元に向かって大きくブレスを吐くと、地面に沿って同心円状に冷気ブレスが広がっていった。Jたちはそれをマウガンの大盾で防ぐ。フェンリルがブレスを吐き終わると、Jとウィレナはマウガンの大盾の左右からフェンリルに向かって突撃し、Jが右側を、ウィレナが左側の前足を木刀で打撃する。すると、フェンリルの体力ゲージが0となり、傷だらけのフェンリルは途端に暴れだし、闘技場の観客席に向かって突撃し、場内は阿鼻叫喚となる。フェンリルは場内を半周し主賓者席へ突撃する。主賓者席からコルヴォを咥え飛び出し、闘技場内に吐き出す。
――イベントスキップ。
――正直ちょっと見たかった。
――だめです。スキップするよ。
マウガンが仲間になった!
――マウガンは仲間になるのね。
――ゲーム進行上、ウィレナ、マウガン、ロージナを仲間にするルートが一番早いからな。
ウィレナ以外仲間にしないルートは遠回りで非効率だ。
――ウィレナ達殺しちゃうんだよね?
――うん、殺しちゃう。イベントスキップ。
Jは街の入り口まで走っていき、馬貸屋に金を払い馬を借り南東へ進む。
Jは砂漠地帯を馬で駆ける。道らしい道はないが、旅人が通った足跡に沿って移動していく。道中、オアシスがあるが今回はスルーして先へ進む。
そして遠景に見える世界樹に向けて砂漠地帯を直進するのだった。
道中、巨大なワーム状のモンスターが地面から出たり入ったりしているのと並走する。Jはそのままデザートワームと並走していくと、巨大なモンスターの骨が地面に突き刺さっている。砂丘の稜線の向こう側に丘陵地帯が見えてくる。
――ねぇ結局ドラゴンの骨のダンジョンには入らない感じ?
――ああ、入らない。
――なぁんだ。つまらなーい。
Jは砂丘を滑り降り丘陵地帯へ行く。丘陵地帯の崖上へ登るようにジグザグに崖を登っていく。後方には先ほどまでJが走っていた砂丘地帯が遠くに見え、丘陵地帯を登っていく。
その向こう側には以前隠し武器を手に入れた大瀑布が流れており、その大瀑布の段差の一番上の中心部分に近い中州にはフラグメントがあるように見える。
――あそこまで泳いでいく。
――大丈夫?流されない?
――頑張っておよぐ。
――頑張ってね。
――ヌルが応援!?
――私だって応援くらいするわよ。なんだと思ってるの?
――毒舌AI
――ひどーい。
ヌルの反応がだいぶ人間らしくなってきている。何か成長でもしているのだろうか。
Jは大瀑布のやや上流の川岸に馬を下ろし、ウィレナとマウガンを待機させ、大瀑布の中州に向かって泳いでいく。道中、ピラニアタイプのモンスターに襲撃されそうになるが、Jはこれをクロールからのトルネードを描くような泳法で水中回避を行い躱していく。そしてJ自体は真横に泳いでいるのだが、水流によって下流へと斜めに流されながら泳ぎ、200メートルほど泳いだところで中州にたどり着いた。中州は木の実がなっている木が円を描くように生えており、隙間からフラグメントの光が漏れ出している。Jは木々をハンマーで薙ぎ払い、中にあるフラグメントに触れる。すると、Jの目の前が明転した。
大学のゼミの教室にて白衣を身に纏った少女のような風貌の女の子と、それをあやす白衣を着た女性の姿が研究室に入ってくる。
「だーかーらー。アタシはれっきとした21歳で君より年上なんだぞー!新歓でお酒も飲んでただろー!学生証も見せたし!」
「もう、海奈ちゃんは可愛いんだからー!ほら、お姉さんに甘えていいんでちゅよー。」
「こらー抱き着くな子ども扱いするなー!」
視野の外から月音と日葉が2人に話しかける。
「馬籠パイセン今日も虎島パイセンをからかってるしー。私もちょっと虎島パイセン。ぷにらせてもらおうかなー。」
「やめなさいよ。虎島先輩嫌がってるわよ。」
「ちゃお♪月音ちゃんに日葉ちゃん。」
「馬籠先輩、お疲れ様です。今日のレポートはどうでしたか?」
「うん!バッチリ!教授もOKして受け取ってくれたよー。手伝ってくれた二人に感謝!それにヘルツちゃんもね。」
「役に立てて良かった。手伝えることがあれば何でも言って頂戴。私は頼られることがうれしいの。」
「うーんヘルツちゃんカワイイ!今開発してるグローブデバイスが完成すればヘルツちゃんに触れるようになるからもうちょっと待っててねー。」
海奈と言われた少女は馬籠と言われた女子学生の手を頭から払うような仕草を見せて口を開く。
「布留巣!私の髪をガシガシしながら会話するな!そういえば二人は就活先決まった?二人ならどこの企業でもやっていけると思うけど。」
「私たちはこの会社を軸に受けようと思ってるんですけど……」
「ああ、ここねー。世界的なセキュリティソフトのIT企業で最近ゲーム部門も去年設立してるもんね。AI開発にイイ感じじゃん。」
「そうなんですよー。もっとヘルツをアップグレードしたくて、最終的には世界的なAIにするのが私たちの夢です。」
「ねー。」
Jの目の前が明転する。
――もしかして、このゲーム部門ていうのが、このゲームの開発会社か?そこでヌルを開発してたら何かトラブルに巻き込まれたとか……?
――記憶に、データにないわ。何か思い出しそうなんだけど……
――きっと今後のフラグメントで明らかになっていくんだろう。今結論を出すのは早計だ。もっと集めてみよう。
Jは中州の上流へ向かって走っていき、そこからウィレナ達の待つ方向に向けて泳いでいく。水流に流されながら、徐々に下流へとおされていくJだったが、ウィレナ達のいる川岸下流付近にギリギリで到達した。
Jは馬にまたがり、ウィレナ達の待機状態を解除し大瀑布の脇を上流に向かって走り始めた。
水しぶきを上げながら河の浅瀬を走っていくと、野盗の拠点が見えてくる。
――今回はスルー?
――ああ、もうクリアに金は要らない。
――命拾いしたわね。野盗共。
大河をしばらく進むと、大河の左右には樹木が生い茂り始めた。Jは森の中を突っ切り、近づいてきた世界樹に向けて馬を走らせる。森の中にはゴブリンが焚火を囲んで団らんしているようなほほえましい光景が広がっているが、Jはその団らんの中央を突っ切り焚火の火の粉を散らして進む。道中、他にもモンスターの巣や野盗の拠点を堂々と突っ切り、時折馬上からちょっかいをかけるように攻撃を加えながら突き進むと、世界樹のふもとの街に到達した。Jはその街の入り口に馬貸屋に馬を渡し代金を支払う。そして世界樹方面に向かうと、関所を抜ける。




