最終話 ヒーロー
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ティナと別れてから、600年が経った。
俺は相変らず元気に暮らしている。時の石の効力なのか、あれから老けずに健康に街の平和を守っている。だが周りでは色々なことがあった。
まず最初の100年でモンスターが全滅した。ある日突然、モンスターだけが世界から消えたのだ。ゴブリンやオークといった普通のモンスターから、車として利用していたモンスターまで全てが。
その頃は既に討伐パーティーという文化が失われていて、モンスターも森から出てこなくなった。だからあまり影響はなかった。車が使えなくなるくらいだったが、多少遅くはなるが馬に走らせる"馬車"というものができた。
で、400年目くらいで遂に戦争が起きた。治安兵士が開発したあの白い飛行船が悪用され、上からは大量の爆弾が降ってきた。セントリーという国もそれで無くなり、新たな国が建てられた。俺はその時セントリーの外にいたから分からなかったが。とにかく、ほとんどの出来事がここでリセットされたんだ。それだけ覚えてくれればいい。
戦争もあって「モンスターが存在していた」という歴史は架空の物として扱われるようになった。そもそもモンスターが存在していたのは、今から500年前のこと。それまでに残っていたはずの歴史書は全て戦争で燃え、語り継いできた話はいつからか嘘が混じり……結果的に架空の話ということになった。
だからモンスターという生物を見たのは、この世界では俺だけ。討伐したことがあるのも、この世界では俺だけ。モンスターが全滅した原因は未だに分かっていない。それに関する書物も読み漁っていたのだが、戦争によって全て燃やされた。
それで今は、街の平和を守っている。
最初の頃は黒いローブを纏って活動していたが、それも戦争のせいで焼け散った。目の前に爆弾が落ち、近くにいた少女を庇ったのだが……彼女は死に俺だけ生き延びてしまった。その時に黒いローブも巻き込まれたのだが、そんなのどうでもいい。
最近はマスクを身に付け活動している。黒いマスクだ、顔は適当なフード付きのパーカーを着て隠している。今になってはローブを着ていると違和感しかないからな。社会に溶け込めるように努力している。
戦争が終わり、急激に世界は変わっていった。銃という、弓とは違った遠距離の武器を開発したと思ったら、次は飛行船よりも小さな"飛行機"で空を飛ぶ者も現れた。
今では呪文を使わずとも、遠くの人と会話できるようになっている。モンスターを倒すゲームも開発されており、中にはゴブリンやスケルトンといったモンスターも存在している。俺が実際に倒していたモンスターがゲームになって今も倒されているなんて、不思議だ。
で、俺は大国・アメリカの都市で活動を続けている。セントリーという国はとっくのとうに滅んだ、今はアメリカという名前に変わっている。もちろんシティストとかポリスタットという都市名も変わり、まとめてニューヨークと呼ばれている。ここ最近変わったばかりだから、つい間違えそうになる。
前みたいに空き家を無断で借りることはできない。だから正しい方法で家を借りて、静かに生活している。ニューヨークの中でも1番家賃の安い物件、治安は悪いがそんなもの俺の力でどうにだってなる。
一昨日だって銀行強盗があったが、それも俺の力で何とかした。しかもニュースになっていた、俺の顔がトピックの一面にバンッと貼られていた。「ピンク髪の青年が強盗団を撃退」と。顔もしっかりと映っている。
SNSとかいうネットのサービスが発達したせいで、すぐに情報が出回る。新聞会に追っかけ回されていた頃を思い出す、ノーマッドの正体が全世界にバラされたことも。今となってはどうってことないが。ただ悪者に活動を邪魔されるのは避けたいから、これからはマスクじゃなくて仮面を着けよう。
とにかく、ジェスの言っていた「人を助けるのに理由なんて必要ないだろ」という言葉を胸に活動を続けている。6人に出逢えたから、今の俺があると言っても過言ではない。彼らの向上心が、俺の存在を更に高めてくれた。
それにティナの存在も、俺の支えとなってくれた。どんなに疲れて帰ってきても、そこには君がいた。今は君がいない上に帰る場所もないが、心の中にある。いつでも思い返してみれば……そこにいる。
そしてデリーシャ。彼らと何年間も切磋琢磨してモンスターを討伐してきた。途中で魔王に殺され魂を抜かれ、そこから色々とあったが何とか魔王を討伐し……そのまま離れ離れになった。
俺のことを理不尽にも追放してきたのだから、普通だったら怒るべきだろう。しかしこれはただの追放劇じゃない、訳があって俺を遠くに逃がすために追放という形を取った。だから……デリーシャの皆を愛している。最高のメンバーだった、これ以上に言うべき言葉はない。
それこそ村長もそうだ。彼の話で----
「誰か助けて!」
----俺の出番がやってきた。
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「誰か助けて!」
人気の少ない路地裏に連れ込まれて、5人の男性に衣服を破かれている女性を発見した。ナンパを断ったからだろうか、それにしてもやり過ぎだろ。あんなに声を上げているのに、誰も助けに来ない。だから……俺が来た。
「俺の方が綺麗だと思うけどな」
俺の声を聞き一斉に振り向いた男達。まず、1番俺に近い男の腹に向かって蹴りを入れる。続いて向かってきた2人の拳を掴んで捻り、その場にひれ伏せさせる。
逃げようとした1人には、別の男が隠し持っていたナイフを投げる。足に刺さったからしばらくは動けないだろう。
「お前は何者だ」
残った最後の1人は怯えながら壁の前で両手を上げている。抵抗する意思が無いんだろう、手には何も持っていないみたいだが……普通はそう簡単に降参する訳がないよな。降参したら警察に捕まるし。
男には近付かずに、遠くから目に見えないくらいの小さな石を投げて対処した。ただし普通の小石じゃない、力の石の効力でどの物質よりも冷たくさせた。
絶対零度なんて比じゃない、それを顔に当てられた彼はあまりの寒さに気絶した。腰からは小型の変形ナイフが出てきた、危ないな。もし近付いていたとしても分解できていたが。
「ありがとうございます」
衣服を破かれた彼女に男の服を着せ、この場から逃げるように言った。警察に通報するべきなのだろうが、彼女は揉め事に関わりたくないと言うし、彼らも二度と女性を襲うようなことはしないだろう。次襲ったら刑務所よりも酷い事が待っている……なんてことはしないが。
「それで、貴方の名前は何ですか」
仮面を被っていて顔がよく見えない男に対し、彼女はそう言った。俺はマイト・ラスター……いや、今この名前を使うのは違うな。
迷いに迷い、俺は例の好きな響きを借りた。
「俺の名前は、ノーマッドだ」
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