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第97話 天涯孤独

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 家の壁に貼ってある紙には"やるべき事"をまとめている。それは俺が元いた世界で、俺が間接的に介入してもいいことをまとめている。例えば前みたいに、彼がデリーシャから追放されなかったらウェール村に行くことはなかった。


 でも俺が介入することによって、彼はウェール村に行き着くだろう。すぐには行かなくても心残りになっていつかは行くことになる、だって過去の俺だから。何を考えているかは何となく分かる。追放された理由を知りたいからウェール村にいたんじゃない……というのも。


 他にもシャリアを助けたこと。あのままだったら彼らは取引相手に不当に殺されていた。だから俺が介入し、同時に治安兵士という職業も教えた。ただ一方的に行くだけでは採用されないかもしれないから、治安兵士側にもアプローチをしておいた。


 それと半年くらい前、パワー・コンテストの主催者を捕まえた。治安兵士側にもアプローチできたのはこれのお陰。ぶっちゃけ、治安兵士がどこで活動しているかは分からない。本拠地がツェッペリンにあるくらいで、秘密裏に活動している組織だから簡単には出会えない。


 だからこそ唯一魔王絡み以外で会えた、パワー・コンテストにわざわざ乗り込んだ。それでついでに4人をまとめて捕まえた。本来だったらここから1年半経ってから捕まえる予定だったが、バジリスクは召喚されないし、いつ捕まえても何ら問題は無いだろう。


 他にも沢山まとめている。些細なことでも、大きなことでも。


 マーナガルムがシティストとポリスタットの中間に位置する森に出現する……となった時も俺はこっそり向かったが、それはデリーシャに討伐されていた。本来だったらノーマッドが有名になる流れだったが、まぁいい。


 本来だったらデリーシャがここら辺で活動を休止してモンスターが溢れ返ったために、都市は非公式での討伐パーティーの結成を容認したのだが、デリーシャが今でも活動しているため、それも無くなった。だから俺がノーマッド以外に知っていたパーティーもいくつか生まれなくなっていた。


 それで彼と彼女は、今でも上手くいっているのだろうか。ストーカーではないが、何回かだけこっそりウェール村の様子を見に行ったことがある。が、本来の流れとは違って既に村は栄えていた。デリーシャのメンバーもそこを拠点としているため「有名討伐パーティーを産んだ村」ということにして売り出している。


 村長も少しだけ丸くなっており、都市の支援を微量ながら受けていた。他にも知らない村人が沢山いた、本来の流れと違うから当たり前だが。ティナと彼は何度か話しているのを見たが気まずそうにしていた。何でお前はもう少しガツガツ行かないんだ、彼女は待っているんだぞ……多分。


 あまり見ていると服装も相まって不審者に見えてしまうからとりあえず離れ、また近くの森の木の上からこっそり見ていたが、彼らからは進展を感じられなかった。2人で話そうとしていてもすぐ邪魔が入る。2人きりになる機会がないんだな、本来の流れと違って。


 それでやるべき事がもう1つだけ残っていた。それは……親ともう一度話すこと。デリーシャに入ると言うと縁を切られた。危険な仕事だからと言われた、説得しても無駄だった。こちら側はずっと会いたいのだが、会ってしまうと複雑なことになる。


 実の息子はデリーシャで活動中、それなのに家に来たのは数年後の息子でしかも別の未来から来ている。こうなると頭がパニックになるだろうし、これは俺が介入することなんかじゃなく彼に全てを任せておくべきなんだ。だからまだ……できない。


 こうして、俺は独りになった。

 ただ、やるべき事は新しくできた。


 それは世界を救うことじゃない、世界を守ることだ。相手がモンスターだろうと、悪意を持った人間だろうと変わらない。それによって傷付けられる人達を守りたい。


 俺はデリーシャとして活動していて、力の石も持っていたから戦闘能力はあったが、それらの力を全て討伐に注いでいた。でもそれを人助けに注いでみたらどうだろうか。例えばソールの強盗団の話みたいに、悪意を持った人間を相手にして、力を持たない人達を助けたらどうか。


 魔王はいないし、時の石と力の石の両方を悪用する者ももういない。時の石なんて結界に囲まれているし、力の石はデリーシャが持っている。強大な欲望を持っている人じゃない限り、石が使われることは無い。


 ……というか、人を助けるのに理由なんて必要ない。これはジェスが言っていた言葉だが、本当にその通り。ノーマッドと仲違いになりその上バジリスクに背中を斬られた時も、彼は「理由なんて必要ない」と言って助けてくれた。


 石を持っているとか持っていないとか関係ない。理由も何もかもが必要ない。ただ、俺は人を助ける。それだけでいい。

 

 それでも、俺にはある物が欲しかった。

 それは、俺が生きていたという証。


 マイト・ラスターは今でも生きている。ただそれは俺であり俺ではない。同じ人でもあり別の人でもある。彼も俺も同じ教育を受けているが、年齢も違えば職業も経験も何もかもが違う。彼は魔王のことも知らないだろうし、シャリアの6人とも出会っていない。


 で、大切な人が死んだ時、皆は墓を作る。ジェスが死んだ時も作った、リンゴを横に添えて。ユーゴやウィドウが死んだ時は作れなかった。ティナも同様に、あの時は弔うよりも早く過去に戻って全てを救いたかったから。


 だから俺は、自分の墓を作る。


 死ぬ訳じゃないが、自分が死んだ時……自分の墓を作ってくれる者が誰もいないんだ。それは天涯孤独だから、生きていた証を残したいのなら、自分で作るしかないのだ。


 といっても豪華な造りではなく、簡素な物。適当に切った木を加工して看板ぽいものを作り、そこに字を書く。で、人目につかない適当な場所に突き刺して抜けないようにしておけば、それはそれで立派な証となる。


 証の横にやりたい事をまとめた紙を埋めて、俺はセントリーを去った。


 "マイト・ラスター。ここに眠る。デリーシャ、ノーマッド所属"


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「這いつくばれ、俺に撃たせるなよ」


 白い大理石で建設された、最近開店したばかりの"銀行"に、マナーを守らず大声で入り込んできたのは、"銃"を持った強盗達。4人組で、1人は中にいる人達を脅し残りの3人で金庫の中身を袋に詰めている。


 ここは、俺の出番だな。


 銀行の待合室から銀行員の制服を拝借し、銀行員のフリをして両手を上げながら強盗達に近づく。彼らは何も警戒していない、そりゃそうだ。ただの銀行員が金庫を開けに来たと思っているだろう。


 しかし、正体は俺だ。


 振り返って、1番近くにいた奴の顔面に拳を入れる。銃で撃とうとしてきた奴のその銃を遠隔で分解し、撃てないようにしたところで大金の入った袋を顔面に投げる。


 怖気付いて逃げようとした奴には、足に向かって携帯していたナイフを投げる。たった数秒の出来事だが、これで3人を倒した。適当に壁に向かってコインを投げ、しばらく待ってみる。


「来るな、本気で撃つぞ」


 残った1人は女性を人質に取り、その彼女のこめかみに銃を押し当てているが……無意味だ。既にその銃は遠隔で分解してある。それに奴にこめかみに向かって、ある物体が急接近しているのだが気付かないみたいだな。


 抵抗する意思がないことを示すように奴から離れ、両手を頭の上に乗せ地面に這いつくばると、奴は1人で勝手に倒れていた。


 それもそのはず、俺がさっき投げたコインが反射に反射を繰り返して、奴のこめかみに当たったのだから。普通のコインをこめかみに当てても少し痛いくらいだろうが、俺が特殊な加工を施したからな。当分は起き上がれないだろう。


「皆さん、もう大丈夫ですよ。あとは……"警察"だけ呼んどいてください、」


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