第94話 6人を助けに来た
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俺が過去に来てから、数日が経過した。
時の石を使って元の時間に戻ることもできるが、それはやらなかった。戻ったとしても、元の世界に戻ることはできないから。
俺が追放されなかった世界、即ちデリーシャが生き残り魔王が討伐された世界でもあり、シャリアに加入することもなかった世界である。俺の伝えた通りにウェール村に行ってくれればティナとは出会うだろうが、それでも異なった人生を歩むことになる。
じゃあ今は何をしているか。
俺と出会わなかった世界でのシャリアの扱いはどうなっているか、それは大体予想できるだろう。あの時は人種差別があり、肌の色が違うだけで虐げられてきた。特にストーズ出身となると、歴史を持ち出され更に虐げられるとか。
シャリアは顔を隠してノーマッドと名前を変えた。そこからはパワー・コンテストで活躍しマーナガルムも討伐したから、"仮面を被った謎のパーティー"として一世を風靡した。
しかし何者かによって正体が暴かれてまた地の底に落ちた。何ならジェスとホークは不当に捕らえられたりもした。が、そこでポリスタットの人間を救ったことにより評価され、外を歩いても物を投げられることは無くなったらしい。
この一連の流れを起こさなければ、シャリアの6人は救われない。しかしマーナガルムは現れても、ポリスタットが襲われることは絶対にない。何故ならバジリスクらは魔王に召喚されたモンスターだから。奴らの言動から推測するに、奴らの言っていた「王」というのは魔王のことだろう。
スケルトンやゴブリンといった普通のモンスターと違って奴らは「王に知らせなければ」と言っていた。この事から魔王の手下か側近的な立場であることが推測できる。魔王がいつどのタイミングでバジリスクを召喚したかは分からないが、もう襲われることはないはず。
全く同じ歴史を繰り返すというのはできないものだろうな、と改めて実感した。虐めや戦争は何度でも繰り返せるが。嫌なことを考えるのは止めよう、今はどうやって6人を正しい道に導けるか考えよう。
まぁ……1つだけ、考えていることがある。
俺はポリスタットの郊外にある空き家を訪れた。ここら辺には空き家が多く、どこがどこだか分からなくなりがちだが、俺は何回も来ているため分かる。それに潰れたばかりの喫茶店が近くにあるしな。
ボロボロの扉を叩き、中の人を呼ぶ。彼らは外に出たがらないだろう、だけれども止められるまで何度も扉を叩き続ける。だが叩き過ぎて扉が壊れてしまった。力の石の効力を、こう無駄な所で発揮してしまうとは。
で、中からは6人の男が出てきた。武器を持っている奴もいる。そりゃそうだ、黒いローブを着た不審な男が扉を壊して中に入ろうとしたんだから。
「戦うつもりはないが、話はある」
「こんな朝早くから……もう我慢ならねぇ」
俺は話を持ちかけようとしただけなのに、彼らは武器を持って襲いかかってきた。まぁ日常的に暴力や嫌がらせを受けているんだろう、そうカッカすることも含めて仕方がない。俺が扉を壊したのが悪いが。
痛めつけないように彼らの攻撃を防ぎつつ、改めて話を持ちかける。
「3日間だけ時間が欲しい、君たちに教えたいことがある」
誰か分からない人から「3日間時間が欲しい」とか言われても何のことだか分からないだろう。というか、まず長いしな。戦いながら文言を考えるのは難しいから許してほしいし……俺はある重要なことを思い出した。
彼らといる時間が長かったから少し忘れていた。この後彼らはオークを討伐しに行くんだったな。これ以上彼らを止めていると、彼らはオークを討伐できなくなる上……これ以上は言わないでおこう。
白い目をしている彼の攻撃を受けたフリをして、頬を押さえつつ一旦その場から立ち去った。そうして裏に回り、空き家の屋根の上に登る。戦いの連続で忘れていた、彼らはオークを討伐した後……取引に行くんだった
「何だよアイツ……変な人だな」
「……途中、手加減していたよね」
6人の会話を耳に入れつつ、俺は戦闘の準備を始めた。力を抑えなきゃやってられないからな。扉を壊したように間違えて力を入れてしまった時にはもう遅い。
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「君たちは肌も黒ければ、黄色い者もいる。目が黒い者もいれば、白い者もいる。髪がある者もいれば、無い者もいる。単刀直入に言おう、君たちが邪魔だ」
オークの死骸を違法で取引していたシャリアに対してそう言っているのは取引相手の人間。白い高級そうな服を着て、杖を持ちシャリアの6人の周りを歩きながらそう言っている。
この後、俺は彼らが何を言われるのか知っている。
「君たちとは取引停止だ」
白い服を身に纏った、取引相手のボスだろうか。彼がそう言った瞬間、周りの森からは剣を持った人達が何十人も現れた。そうしてシャリアの6人を取り囲むようにして、じわじわと剣を構えたまま距離を詰めてくる。
「君たちを消してくれるよう頼んだのだ」
今はまだ朝早く、元々ポリスタットの郊外であまり人の来ない場所なため、ここで襲われたとしても助けは呼べない。怪我をして動けなくなっても誰も助けてくれない。もし殺されてしまえば……誰にも発見されずに終わる。
「ストーズ出身じゃねぇかよ、とっとと消えろ」
「病気が移るな」
剣を持ってじわじわと距離を詰めてくる奴らは、6人に心無い言葉を投げかける。違法の取引相手に裏切られた6人はショックを受け、その大半が動けなくなっていた。
動けている者もいるが、手にしているのはオークを討伐するために使った対モンスター用の剣。彼らを取り囲む奴らが持っているのは、対人間用の剣。人数差もあるし武器が違う、こんなの勝てる訳がない……と、半ば諦めているようにも見える。
だが、ここには俺がいる。
状況を見渡すために登っていた木のてっぺんから音を立てないように飛び降り、気配を消して忍び寄る。白い服を纏った奴も、剣を持って取り囲んでいる奴らもシャリアの6人を見ているだけで、余裕なのか周りを見ていない。
「お前らはここで死ぬ運命、お前らを殺したって何の罪にも問われない。実質"モンスター"を殺しただけだ、逆に褒められる」
そう言うと剣を持っている奴らは、動けなくなっている6人に剣を振り下ろそうとしていた。が、奴らは剣を降り下ろせなかった。何故なら……俺がいるから。
木の棒と、昔から使っている盾を持った俺は、あえて足音を立てながら彼らの前に出た。取り囲んでいた奴らは俺の方を向くが、俺の持っている武器が貧弱なだけあって皆笑い出す。
「何しに来たんだよ……アハッッ……」
「6人を助けに来た」
「おいおい、モンスターを助けるつもりかよ」
奴らと適当な会話をしつつも、右手に持っている木の棒をその場に捨てて盾をしまい、素手の状態で奴らに立ち向かった。奴らは「頭が滑稽な奴だ」と俺を笑うが、それでいい。
剣を振りかざしに来た奴には、腹に一発拳を入れる。剣で突き刺しに来た奴には、その顔面に蹴りを入れる。3人がかりで襲いに来た奴らには、1人ずつ丁寧に殴り倒す。
俺に立ち向かって来た奴は、殺さないように力を加減しながら倒していく。飛びかかって来た奴の首を掴み、その場に落とす。ナイフを持って来た奴らの手首を掴み、ひん曲げる。俺は6人の方へただ歩くだけ、邪魔をしてきた奴らを退けただけなんだが。
「シャリア、君たちに用があって来た。それと……見えているぞ」
木の上に登って俺のことを弓で殺そうとしていた奴に向かって、ナイフを投げた。ナイフは奴の手に当たったようで、大声で泣き叫んでいる。
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