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第93話 異端な存在

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「非常に言い難いのだが、戻ったとしても君を覚えている者は誰もいない。君の妻も他の人と結婚しているだろうし、全く同じ顔と名前のマイト・ラスターが既にいるから、君は異端な存在となる」


 過去には戻れるらしいが、戻っても何の得もない。ティナが生きていたとしても、ティナは俺のことを忘れている。デリーシャのメンバー4人は覚えているだろうが、それでも記憶の齟齬が生まれる。ノーマッドという名称すら生まれていないだろうし、ジェスは俺のことを知らない。


 これなら……戻っても意味が無いじゃないか。俺は何のために過去に戻って、魔王を討伐したんだ。全ては4人を救うため……いや、魔王を早めに討伐することで、失われていった命を取り戻すためだ。


 ランの他にも酒屋の主人だったり、シティストに暮らす罪のない市民までもが、魔王の攻撃で命を落とした。彼らを全員復活させるためには、そもそも魔王を消しておく必要がある。ただランは、俺とティナが結婚しないと生まれない存在だけれども。


「更に私たちの声も……届かなくなるだろう。ここからは私たちも見ることの……できない謎の未来だか……ら。これからもよろしく頼----」


 そう言って時の石の保護する賢者・クロースの声は途切れた。そうだ、まずは気持ちを整理しよう。4人をずっと待たせているのも悪いし、それよりもこの複雑な心をどうにかしたい。


 今俺が未来に戻ったとしても、ティナは既に他の人と結婚しているかもしれない。それに今の俺は異端な存在で、この世に存在してはいけない存在。無害とは決して言い切れない、有害な存在でもある。だから現在のマイト・ラスターに会いに行くこともできない。


 とりあえず、4人には話をつけておくべきだな。これ以上は俺だけで解決すべき問題だから。


「魔王は消滅した。だから俺を追放する必要は無いし、遠くに逃がす必要も無い。これからもデリーシャとして、今の彼を活動させてほしい」


 俺は今更デリーシャに参加できない。参加できるのは何も知らない"彼"のみ。それで魔王は完全に消滅したのだから、俺を追放して遠くに逃がす必要も無いし、フィンは黒いローブを着る必要も無い。


「ただ1つだけお願いがある、今あったことは一生誰にも伝えないでほしい。未来の俺が来たこと含め、誰にも。もちろん彼にも」


 4人は何度も頷き、帰ろうとしていた。彼らを呼び止めようともしたが、特に伝えることは無い。というか、早く忘れてほしいから。


 魔王を討伐した今、力の石も時の石も悪用しようとする奴なんていない。だから彼らには気にせずに、のびのびと生きていてほしい。


 いや、そういえばもう1つだけお願いがあったんだ。


「フィン、万が一に備えて買っていた黒いローブをくれないか。使うことは……もう無いよな」


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 追放される前日、俺は確か酒屋の倉庫の中にいたはず。ムスルを討伐したのはいいが、装備はボロボロに。それに他パーティーのお見舞いに行っていたのもあって買い出しに行っていたんだっけ。夜遅くだと、もう買い終わって酒屋の倉庫の中にいると思う。


 ただ、俺が経験してきたことはもうこの世界では通用しない。ソールとサタナが生きて帰ってきたし、フィンも怪我を負わずに済んだ。だからデリーシャの4人もここに帰ってくるかもしれない。会っても何ともならないが、話が複雑になるのを避けるため、まずは過去の俺に会おう。


 声が似ているくらいで、顔を隠せば何とかなるはず。4人には他人に言わないように伝えたし、彼は「自分にそっくりな声をしている人が伝えて来た」としか思わないだろう。まだまだ若いし、深く考えなくていい。


 それで伝えたいことというのは……もう分かるよな。このままの人生だと、ウェール村に行くことはないだろう。行ったとしてもわざわざ廃れた村に泊まることもないだろうし、あの少女と親しい仲になることもないだろう。


 でも将来の彼にはどうにか、彼女に会ってほしい。あんなに気が合う人間はいなかったし。俺が勝手に彼の運命を決めるみたいになっているが、俺はあくまでも場を提供するだけ。結婚相手は彼が決めることだから。


「……誰ですか」


 若い頃の俺は、酒屋の倉庫の扉の近くに立っていた俺を見て慌てる。そりゃそうだ、酒屋の倉庫を使うのは酒屋で働いている人とデリーシャくらい。そこに立っているのは黒いローブを着た謎の男。不審者だ……となって慌ててしまうのは分かる。


 君には何の危害も加えないぞ……ということを証明するように彼から距離を取り、黒いローブを着た男の言葉を借りて彼に説明した。


「デリーシャの最前線で活躍する君に依頼がある、私の故郷のウェール村を救ってほしい」


 当然彼は「は?」と、俺を疑うような声を出すが仕方がない。俺もこう言われたらそう言い返してしまうだろうな。実際フィンから言われた時もそんな感じで、声には出さなかったが思っていたし。


 更にフィンの言葉を借りて、彼に伝えたかったことを伝えた。


「君以外でも務まることかもしれないが、君にしか頼めないことだ。酒屋の主人なら何か知っているだろう、聞いてみたらいい。それと----」


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