第87話 もう遅い
----------
黄色く光る大量の雷が魔王を襲う。
ゴロロ……ゴロロ……と雷鳴を轟かせながら。
異世界の門から出てきたのは、何故か魔王のことを襲う雷であった。奴もそのことは知らなかったんだろう。ずっともがいているが、雷の勢いもあって門は閉まらない。
そうして俺のいる真っ暗な空間にも影響が出始めた。真っ暗な空間に少しずつヒビが入っていく。魔王の視点にもヒビが入り、その隙間から外の世界が見えるようになった。これは……外に出るチャンスだ。
俺は手でヒビのできた部分を何度も殴りつける。ビリビリと腕が痺れる感覚もあるが、今外に出なきゃどうしようもない。ヒビの間に手を入れて、こじ開けるように力を入れる。
力を入れて声を出し、手がヒビ割れのせいで血まみれになっても力を緩めずにこじ開けようと奮闘する。しかし一向に開く気配はない。
それでもやるしかないんだ……と思っていたその時、大量の雷が魔王の体内に入ってきた。どうやって入ったかは見ていなかったが、魔王の視点が見れる真っ暗な空間の中に黄色く光る大量の雷が現れたのだ。雷は俺を襲うことなく、ヒビに向かって集中的に落ちている。
それもあってか、ヒビは少しずつ大きくなっていく。子供くらいなら通れそうな大きさに。ならば、今がチャンスだ。俺はヒビから手を離し、助走をつけてヒビの方へ突進した。無理やり開けてやる、ここから出るチャンスなんだぞ。
それと同時に、俺の行動に雷が呼応したのか、魔王の体内に存在している全ての雷が俺の向かっているヒビの方へ降り注いだ。子供が通れるくらいの大きさに割れていたヒビは一気に開き、もう俺でも通れるくらいになっていた。
そうして……俺は魔王の外に出た。
黄色く光る大量の雷が、俺を助けてくれたのだ。
虹色に光る球体となって外に出た俺は、まず自身の死体を探した。俺は今、魂となって空中を漂っている。どうにか自分の体に戻れないか方法を考えてみたが……奴にまた魂を回収されるよりも先に戻らなきゃいけないな。
俺は水中を泳ぐ感覚で、自分の体に戻った。俺の体を皆が囲ってくれていたお陰で、体がどこにあるかすぐに分かった。体に戻った瞬間、時の石と力の石の効力が復活したのか俺の体が少しずつ修復されていく。
槍を全身に刺されて傷だらけだった体は徐々に治っていき、溢れ出た血も綺麗になって体の中に戻っていく。体が白く光り出したかと思えば、また力がみなぎってきた。手を前に伸ばせば、力の石が付いていた剣が手元に戻ってくる。
「おいおい大丈夫かよ……」
横で倒れていて起き上がれなくなっているジュリーからこう声をかけられたが、彼の方が心配だ。ジュリーの腹を見てみると、血が止まらなくなっている。何とか布で止血しているものの、血は漏れて溢れている。
「絶対に倒せよ」
彼はそう言って、意識を失った。目を開いたまま、口から血を垂らして。心臓の脈は動いているが、彼の反応はない。タイガが彼の顔をさすっても、特に反応はない。彼はどうしてこんな目に遭ったんだよ……俺が離れている隙に、何で。
「庇ってくれたんだよ、なのに平気そうにして」
そう口を開いたのはホーク。彼によると、俺が離れている間に大量のモンスターが襲ってきた。それをデリーシャのメンバーが空を舞いながら追いやったものの、1匹のドラゴンだけが掻い潜って自分たちの方に来た。ドラゴンの突進を受けそうになった時にジュリーが庇ってくれたらしい。
ずっと元気そうに励ましていたが、ここまで傷が深かったとは思ってもいなかったみたいで、ジャラとシータと共にどうにか傷を治そうとしたが……無理だったとか。
俺がいない間に……助けられたはずの命が失われていったのかよ。心臓はまだ動いているのに、彼の体は徐々に冷たくなっていく。目の輝きも失われていき、血の色も変わっていった。
左手で彼の傷を押さえていると、突然ジュリーの体が白く光り出した。何だ……と思って手を離すと光は止まり、もう一度手を触れるとまた白く光り出す。白く光るのと同時に、手で押えている傷は少しずつ閉じていった。周りに溢れた血も明るい色に変わりつつ中に戻っていく。
心臓の拍も上がっていき、彼の目に輝きが戻っていくのが見えた。そうして彼は……起きた。口から血を垂れ流しながらも、塞がった傷と生きている自分を見て「何で?」と驚いていた。
「もしかして、ジュリーを生き返らせた?」とホークが推理する。俺にこんな力があったのか、力の石が覚醒して人を生き返らせる能力を手に入れたのか。後者だろうが、ともかく彼は生き返ったのか? 本当に、幻覚じゃないよな?
周りにあったはずのモンスターの死体は灰となって消えていったため、腕輪に固定されているガルたちの魂に向かって「ツイン・ワンネス」と唱え、彼らの魂をまた自分の中に入れた。モンスターの死体があったらそこに入れたが、そのまま放置するのも危険だ。一旦の処置。
「石に人を生き返らせる力があったのか」とまた脳内から、ガルやフィンの驚いている声が聞こえる。彼らはついさっきまで魂となって固定されていたのに、それを気にせずに目の前の出来事について淡々と推理していく。さっきまで魔王の中に囚われていた俺のことなんて気にせずに。
まぁいい、後は魔王を倒すだけだ。
さっきの黄色く光る大量の雷によって、魔王は電気ショックを受けたのか動けなくなっている。雷が何度も直撃したのもあって、少しだけだが青色の血を垂れ流している。
俺の欲しかった素材は手に入った、それは魔王の血。魔王を倒すには普通の思考や普通の武器じゃ倒せない。それなら魔王の素材を武器にして無理やり奴を倒す、変わった思考が必要だからな。アイから8個の腕輪を借り、それを腕に4個ずつ付ける。
右手に戻ってきた剣を使って、地面にいて悶えている方の魔王の血を手ですくう。そうしてそれを剣に大量に付けた後、天に掲げると……剣は白い光に包まれていった。
「何をする気だ」
魔王が何かを言っているが気にしない。
白い光に包まれた剣は巨大化していく。しかし剣に纏っている光が巨大化するのみで、剣自身は大きくないし重さも変わらない。完全に物理法則を無視している、だがもうそれでいい。呪文なんて物理の真反対の存在だから。
剣に纏っている光はどんどん大きくなっていき、もはや雲を突き破るまで長くなっていった。何も重くない、これで合っているはずだ。これで奴を倒してやる。
まずは電撃を喰らいすぎて悶えている地上の魔王に対して、全身を真っ二つにするように巨大な剣を振り下ろした。すると……思い通りに奴の体は真っ二つに割れたのだった。中から青い血が大量に溢れてきて、それが更に剣を巨大にする。
「…………止めろ、今すぐ止めるんだ」
次は、地球の外にいる巨大な魔王。奴の血を浴びて更に巨大化した剣はもう既に、奴の眼球に刺さっている。奴は地球の外にいて動けないため、剣が刺さっていても何もできない。悶えることも攻撃を避けることも。
「何でも望みを叶えてやろう。何が欲しい」
奴は今更命乞いをしているのか、いざ死ぬとなったら奴も弱気になるもんだな。しかし……もう遅い。もう俺の攻撃は止められない。
俺は光を纏っている剣を振り下ろした。眼球を切られた奴は痛みからか声を上げているが、振り下ろされた剣は奴の口に到達してもう叫ぶことすらできなくなっていた。ここからは眼球しか見えないが、剣が今どこに刺さっているかは体で感じることができる。
剣は、もう少しで心臓に着く。
上にいる魔王は「よせ」と一言だけ。もうこれ以上は話せないんだろう、剣によって付けられた傷のせいで。それでも俺の攻撃は止められない。
「ふん」と俺は一言、剣を振り下ろした。
キンッ……
光を纏った剣は、奴の心臓を切った。それは何となく感じる、剣の感触が俺に伝わってくる。心臓を切られた奴はもがき苦しみ……そのまま青い煙と共に消滅していった。奴のせいで太陽の光が防がれていたが、それも無くなり久しぶりに太陽を見ることができた。
今は昼の時間帯なんだ、空も真っ暗だったせいで何も分からなかった。これで、全てが終わったんだ。光を纏っていた剣からは光が消え、また元の剣に戻っていった。
これで本当に、全てが終わったんだ。魔王はもうこの世には存在しない。俺が、俺たちが魔王を討伐したから。
「マイト」
振り向くと、そこには仲間たちがいた。今まで一緒に戦ってきたノーマッドのメンバーたち。タイガ、ホーク、ジュリー、シータ。それに治安兵士のリーダーのジャラと、賢者の孫であるアイ。それと1人だけ、治安兵士のメンバーが生きていた。
「終わったよ、魔王をこの手で討伐した」
----------




