第86話 異世界の門
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……こんな時に、俺は眠っていた。
魔王に自分の魂を抜き取られた後、真っ暗な空間に閉じ込められて、疲れからかそのまま眠ってしまった。こんな時に俺は何をやっているんだ。どうにか外に出ないといけないのに。
と思っていたが、少しだけ状況が変わっていた。
真っ暗な空間に閉じ込められていたと思っていたのだが、何故か魔王の視点が見えるようになっていた。魔王の中に閉じ込められているのには変わらない。しかしサタナが見ていたように、俺も魔王の視点が見れるようになっている。
どういう仕組みかは理解できていないが、魔王の視点も見えれば魔王の声も聞こえる。奴が今どこで何をどうしているのかも全てが分かる。だからといって、奴の行動に口を出したり奴の行動を防いだりすることはできない様子。あくまでも覗いているだけ。
「ツイン・ワンネス」と何度か呟いてみても無駄だった。今の俺は力の石もなければ、時の石も手元にない。呪文を唱える力もないため、外に出る呪文を何度か唱えてみても何も起こらなかった。
外で魔王は何をやっているのだろうと覗いてみると、奴はツェッペリンにいた。セントリーの首都で治安兵士の本拠地でもある場所に何で奴が……と思ったが、すぐに理由が判明した。
俺たち以外にも生き残っている人達がいたのか。それもゴブリンやスケルトンといったモンスターと戦いつつ。討伐者でない限り、モンスターと戦うのは難しい。それなのに彼らは武器を持ち、慣れない手つきでゴブリンの頭をかち割っていく。
良かった、他にも生きていた人達がいたなんて……と思ったが、これは奴の視点。となると奴は今ツェッペリンにいる。しかもハロス城と同じくらいの身長を持つ魔王だ、巨人となった奴は……下にいる人間達を次々と踏み潰していく。
その光景も全て見ることができるのだ。出来れば見たくないが、目を背けることなんてできない。魔王によって踏み潰されていく人達を、俺はただ助けることもできずにずっと見ていた。
更に奴は大量のモンスターを召喚する。建物の中に避難した人達を殺すためか、見たこともないようなモンスター達に建物を襲わせる。ヒトデのような体をしているモンスターは電気を流すのか、逃げ惑う人々に電気ショックを与えていた。
ゴブリンに似ているモンスターは、次々に爆発物を建物の中に投げ込んだ。空を舞いながら、これでもかと言うほどに。何とか生き延びた人々は建物の外へ逃げようとするが、八本の足を持った巨大なモンスターによって建物が壊されていき、彼らは倒壊した建物の瓦礫に押し潰されて死んだ。
見たことのないモンスターだらけだ。人間のような見た目をしているが緑の翼を持ったモンスターや、猫みたいな耳をした黒い四足歩行のモンスター、砂の集合体のような巨人までもがツェッペリンに集結している。
これも拳を空に掲げた魔王が召喚したモンスター。俺にだって分からないモンスターだ、魔王しか知らないのかもしれない。だとすると対処法なんて、一般人が知っている訳がない。唯一生き残った人間は砂の集合体の巨人によって窒息死させられた。
ツェッペリンを破壊した後、奴は別の都市に瞬間移動した。ここがどこだか俺には分からない、ただ別の国の別の都市なんだろう。建物は比較的残っているが、そこにも大量のモンスターが召喚され、そこにいた全員が焼かれて消滅していった。もちろん生き延びた人もいるが、彼らもゴブリンに似たモンスターの爆発物によって消滅。
魔王は世界を滅ぼすつもりだ。もう手加減などせず、石の力を存分に使って。天から召喚されるモンスターは全員ある方角へ向かっていった。もちろん魔王は移動することなく、瞬間移動でそこに向かったのだが----
----目的地はシティスト、つまりタイガやガルたちのいる場所。
魔王の視点から全てが見える。タイガとホークは剣を構えて応戦しようとしているのに対して、ジュリーは疲れたのか怪我をしたのか起き上がれなくなっている。シータとジャラは共に行動し、デリーシャメンバーの衣替えを手伝っている。
辺りのモンスターは全て討伐し終わったのだろう、近くにはどのモンスターもいなかった。いるとしてもそれはデリーシャのメンバーの魂が入っている物であって、彼らを襲う脅威は全て消滅していた。
そこに突然、巨大な魔王が現れたのだ。突然のことに皆驚いていることだろう。ウィドウの亡骸をを抱えたアイも、一旦地面に優しく起き戦闘態勢に移っている。
「マイトはどこだ?」とムスルの体を持ったガルが魔王に尋ねる。炎の巨人といえども、魔王の巨人体ほど大きくはない。
魔王は特に返答もせずに、手のひらを前に突き出した。すると謎の赤色をした衝撃波と共に、モンスターの体をしたデリーシャの4人だけがその場から吹き飛ばされていった。で、モンスターの体は消滅し、虹色に光る球体の魂だけがその場に留まり続けた。
魔王は彼らの魂も吸収しようとしているのか。手招きをして魂を回収しようとしたが、アイが腕輪を2個ずつ魂の近くに置いたためか奴は諦めた。腕輪は電流を発生させ、魂をその場に留まらせるようにビリビリと鳴っていた。これは時の賢者・クロースの作った腕輪なのだろう。
奴は更に手を大きく広げながらも、魂の状態となったガルに対して返答した。
「彼は私の中に閉じ込めてある」と。
それに対してガルは返答したいだろうが、今は虹色に光る魂となっていて何も言葉も発せない。だから代わりにタイガが質問をしていた。
「マイトはどこにいるんだよ」
「彼の死体はここにある、魂は中だが」
奴はそう言って、俺の死体を放り投げた。どこに隠し持っていたのかは分からないが、確かに俺の体だ。所々を槍に刺されていたのもあって血が止まっていない。自分の体をよく見てみると、髪は少しずつ銀色に戻っており、目も少しずつ黒くなっていく。
また体も徐々に干からびていく、力の石の効力が切れたからなのか、血を大量に失っているからなのかは分からないが。彼らは俺の死体を囲んで必死に起こそうとしているが、魂は魔王の中にあるため何をしても起きることは無い。
「生き残っているのは、お前らが最後だ」
奴は両手を広げ、そう言っている。シータが「嘘をつくな」と大声で怒っているが、奴の言っていることは間違っていない。本当に奴によって滅ぼされていっているんだ。召喚されたモンスターは周りを破壊していき、生き残っていた人々は全員殺されていった。
他の国の他の都市も同じく滅ぼされていった。今もなお、魔王の視点からは見えないが滅ぼされている都市があるんだろう。だから奴の言っていることは正しい……こういう時だけは。
「お前らは特別に、異世界の力で殺してやろう」
奴は指で円を描くようにして、空に門を作り上げた。黄金に光り始める門には何かを閉じ込めているのか、ドンッ……ドンッ……と何度も門を叩く音が聞こえる。異世界ってどこと繋がって……どういう仕組みだ?
「時の石で別の世界と繋がる門を作ったのだ。ここには異世界の力が詰まっている」
異世界の力、別の世界と繋がる門。異世界が存在するのかどうかすら俺には分からないのに、奴は時の石でそこに繋がる門を作り上げている。やはり魔王と言うだけあって、人智を超えた存在だ。人間には思いつかない、異世界に通ずる門を作るなんて。
「さらばだ」
そう言って、奴は黄金に光り輝く門の扉を開けた。そこから現れるのは、奴の言う異世界の力なのか。それとも人間には太刀打ちできないような、謎のモンスターなのか。
だが、予想を遥かに上回っていた物が現れた。俺の予想も、魔王の予想もだ。
それは雷。
黄金に光る雷が何百発も、それも轟音を響かせながら魔王の体に落ちていった。上に浮かんでいる巨大な奴の体にも、重力を無視して何百発も昇り注ぐ。もちろん地面にいる奴にもだ。
ゴロロ……ゴロロ……と音を轟かせる大量の雷に襲われた魔王は門を閉じようとしたが、雷の勢いには勝てずに閉められず、ずっと雷を浴び続ける。
俺は雷なんて召喚できない、今はハンマーも手元にないし閉じ込められているから。じゃあ誰が雷を起こしているんだ。
もしかして、異世界の向こうにいる何者か。絶対に自然現象ではない、この量の雷が降り注ぐ街なんて、とっくのとうに滅んでいるはずだから。
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