第80話 死ぬな
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「無事でしたか、マイトさん」
この声は、アイか。クロースの孫で、ウィドウではない方。マーナガルムの爆発を見て駆け付けてくれたらしい。彼にウィドウの腕輪を見せると何かを察したのか涙を流しながらも、戦闘を続けようとしていた。
彼は常に白いローブを纏っていてフードをしているから顔がよく見えないのに、涙だけはしっかりと見えた。
「ウィドウの腕輪を貸してください。彼らを呼び出します。できれば援護をお願いします」
彼らを呼び出す……もしかして向こうにいるタイガたちのことか。彼らはウィドウが力尽きたことによって帰る術をなくしている。帰りたくとも、徒歩では到底行けない距離のため立ち往生。彼らを呼び出せるのなら、体を張ってでも援護しよう。
「近くにドラゴン2匹、こいつらは前と同じ要領で倒せる」
脳内のソールの声を元に、瞬間移動の呪文を唱えるアイを援護しつつ戦闘を再開する。ドラゴンはついさっき倒したばかり。前と同じように討伐するだけだ。しかし今回はアイが近くにいる、派手な戦闘は避けた方が良さそうだ。
ドラゴンは2匹いるため、前を飛んでいるドラゴンに向かって棍棒を投げて墜落させる。もう片方のドラゴンが降りてこようとしたタイミングを見計らって、墜落した方のドラゴンの翼を切る。飛ぶ術を失ったドラゴンは一旦放置。ドラゴンの翼を持って俺はその場で立ち止まった。
前みたいに戦闘の意欲を失ったんじゃない。力の石がどこまで出来るのか試しているだけ。どちらかと言えば好奇心が、俺の体を動かしている。以前までは力の石が俺のことを動かしていたが、今は違う。
俺は断ち切ったドラゴンの翼を掲げた。するとそこに赤い雷が落ちてくる。もちろん俺は何もしていない、ただ翼を掲げただけ。雷が直撃してから少しだけ待つと、俺の体は白い光に包まれていった。
更に少しだけ待つと白い光は消え、俺の体には翼が生えていた。と言っても、俺の体から翼が直接生えている訳ではなく、あくまでドラゴンの翼が何らかの力によって腰にくっついているといった感触。それなのに自由に動かすことができる。
翼を切られて飛ぶ術を失ったドラゴンの胸に剣を突き刺し、更に上を飛んでいるドラゴンに対してハンマーを投げたが避けられてしまった。飛んでいるモンスターに当てるのは難しい、ならば俺が行くしかないか。
石の力によって生えたドラゴンの翼を駆使して、俺は空を舞った。人間が空を飛ぶなんて、普通じゃ有り得ない。有り得たとしても、飛行船くらい。それが今、現実になっているんだ。
と、飛行している俺を見てドラゴンが逃げようとしていた、絶対に逃がしてはいけない。逃がしてしまっては他の犠牲者を生むことになるから。ドラゴン自体は悪くなくても、こっちの仲間が巻き込まれる前に倒さないと。
ハンマーを自動で手に戻し、翼を器用に駆使して飛んでいるドラゴンの背中に乗った。乗った俺を振り落とそうと奴は動いたが、翼を持っている俺には敵わない。前と同じようにハンマーとハンマーをガチンと、石と石を使って火を起こすように思いっきりぶつけた。するとハンマーがある場所に雷が、それも赤い光と爆音を纏って落ちてくる。
俺は翼を使ってその場から飛んで逃げるが、ハンマーが背中に乗っているドラゴンは永遠に逃げられない。そのまま雷に焼かれ、爆音と共に爆死した。翼は勝手に白い光に包まれて消滅していった、扱いやすかったが仕方ない。
「マイト、大丈夫か」
と、ちょうどドラゴンを討伐し終えた頃に男性の声が聞こえた。しかも複数人だ、地面に降り立ち武器を整理しつつ声のある方に近づいてみると……そこにいたのはタイガ・ホーク・ジュリーの3人であった。
きっと3人を呼び寄せることに成功したんだろう。ありがとう、仲間が増える以上に越したことはない。
「それで、ユーゴとシータはどこにいる?」
シータの場所は未だに知らない。視界は良好だが、何より黒い大地に大量のモンスター。人1人を見つけろという方が難しい。それにジャラもその他の治安兵士のメンバーもどこに行ったか分からない。
……ただユーゴの死をどう伝えるべきか、俺は迷った。「彼はマーナガルムに喰われて死んだ」と伝えるだけなのに、何故か口が動かない。口を開かずにモゾモゾとしている俺を見て察したのか、彼らは次々に声をかけてきた。
「今は聞かないでおく、今は魔王を殺すだけだ」
「そう、今は魔王を倒すのに専念しよう」
「……やべぇ、あいつらに金返すの忘れてた」
タイガもホークもジュリーも、これ以上は何も聞いてこなかった。ユーゴは死んだし、シータは行方不明。これを言うだけなのに、俺は言えなかった。まだ臆病な部分が残っているのかよ、俺の心には。
もう何も考えないでおこう。これ以上心に弱さを見せれば、また石に体を乗っ取られる可能性だってある。だからもう何も考えずに、直感で動くことにした。
剣を抜いて周りにいるゴブリンと戦おうとする3人を止め、俺は話を始めた。
「タイガ、ホーク、ジュリー。ユーゴはマーナガルムに殺された。シータは行方不明。全部俺の責任なんだ」
話している途中にも関わらず、ゴブリン達は立ち止まっている俺たちのことを攻撃しようと近づいてくる。阻止するため俺は話しながらも剣で近づいてきたゴブリンを討伐し、そいつから棍棒を奪ってハンマーに変化させた後、それをゴブリンの大群に向かって投げた。
「……俺がユーゴを殺したようなものなんだ。力があるのに助けられなかった」
そう言いつつも周りに群がってきたスケルトンとゴブリンを一気に討伐するために、ハンマー同士を擦り合わせて雷を起こす。雷の落ちる音のせいで若干声が聞きにくくなったかもしれないが、仕方ない。
「これ以上の被害は出したくないから、魔王を止めてくる。だから食い止めてほしい、俺1人じゃ魔王は倒せないから」
実際、力があってもユーゴを助けることはできなかった。これ以上の犠牲も生みたくない、じゃあ魔王を倒して全ての計画を止めればいいだけ。でも魔王を討伐するには、あの巨大な体を貫くような武器が必要。それを考えるまでにも時間がかかる。
「無理を言うが、一生のお願いだ。本当に」
俺は彼らの前で深く頭を下げた。周りに群がるモンスター達は雷によって死んだ。こんな力があったのに……俺は……助けられなかったんだ。もしかしたら3人を巻き込む可能性だってある。彼らもユーゴと同じ運命を辿ることになるかもしれないけど……一緒に戦ってほしい。
するとホークが俺の手を握り、こう言った。
「僕からも一生のお願いだ、二度と頭を下げないで。それと、魔王を討伐してきて」
正直、意外だった。ホークからこういう言葉が出るなんて。目の前で仲間を失って戦意を喪失していた彼から……こうも願われるとは。
更にタイガは俺の肩に手を置き、こう言った。
「俺たちはシャリアとして、討伐パーティーとして活動していた。同年代なのに上級モンスターを次々と討伐していくデリーシャに憧れて、活動を始めたんだ。最初からモンスターの恐怖は知っていた、それでもずっと立ち向かい続けてきた。だから負けたとしても、それは成長だ」
彼は涙を流しているのか、手で顔を拭いながらも話を続けた。
「死んだとしても、成長だ。つまり何が言いたいかと言うと……とにかく死ぬな、シャリア、ノーマッドのメンバーよ」
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