第79話 融合
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目の前にはポリスタット近辺の森を荒らし、またユーゴのことを食い散らかした憎いモンスターがいる。名前はマーナガルム、もちろん上級モンスターだ。
そいつを前と同じように討伐すればいいのか。やってやる、今なら何だってできる気がする。
と、マーナガルムには何の攻撃も加えていないのに急に覚醒し始めた。四足歩行だったが覚醒により二足歩行へと変化、体つきも下半身は人間らしくなっていく。体も大きくなるからその分倒しにくくなるが、今の俺には関係ない。
奴の左目に向かって剣を投げ、視力を奪わせる。刺さったのが確認できたら剣を手元に戻しつつ、高く飛ぶ。そうして奴の背後から剣を首に刺すだけ。現実の世界でないからなのか、動きやすい。跳躍力も移動速度も攻撃の耐性も、何もかもが倍以上になった感触。
そのまま剣を深く奴の首に刺して、討伐が完了。
さて、周りに見えるモンスターは全部倒した。後は何をしたらいいんだ。ガルが頭を抱えて何かを考えているようだから、この間に体を動かしておこう。
何せ感覚が一気に変わった……あの巨人をたった一飛びで越えそうなほどの跳躍力を急に手に入れたから。他にもどのモンスターよりも速く動けるようになったし、高い所から飛び降りても衝撃を受けにくくなった。白い世界の中でしか発揮されない力なのかどうかは分からないが。
と、俺はここである違和感に気がついた。
何故か、俺の持っている剣に……力の石が付いていなかったのだ。この世界に来た時は、何ならリザードやバジリスクと戦っている時も石は付いていた。なのに急に石が消えたのだ、どこにいったんだ。何をしても取れなさそうな石が、一体どこに。
ガルに聞いてみようとしたが、ガルの姿も見えなくなっていた。ゴブリンやスケルトンといったモンスターも消滅し、真っ白な空間の中に存在するのは俺のみ……といった状況になった。
「ガル!」と声を大にして叫んでみても、返事が無い。彼も力の石も消えてしまった、フィンの声もサタナの声もソールの声もしない。もしかして、力の石に関する人物や物が全て消滅した?それなら俺もいつか……何をしたんだ、石を安定させるはずが----
「成功した、儀式の開閉に」
ガルの声が聞こえたのと同時に真っ白な空間が消滅していき、少しずつ外の世界が見えるようになった。周りにはゴブリンやスケルトンがわんさかいるし、崖の向こうにはマーナガルムだっている。もちろん、真上には巨大化した魔王も。
帰ってきたんだ、元の世界に。
それに時は動き出し、力の石は----
----完全に融合した。
俺の体内には時の石と力の石が、両方とも完全に入っている。いつの間にか、力の石の安定化に成功したみたい。そう教えてくれたのは頭の中からする声。だがガルの声でもフィンの声でも、誰の声でもない。ただ、聞き覚えはある。老いた男性の声だ、もしや……力の石の賢者・アキラか。
いや、2人くらいの声が聞こえるな。2人の老人が、俺に石の効力を教えてくれている。この声は……時の石の賢者・クロースか。二大賢者の声が、俺を導いてくれているのだ。彼らは既に魔王によって殺されたはずなのに、的確に俺にアドバイスをくれる。
「力の石は物質を交換する役割を持つ。ゴブリンの棍棒を持ってみなさい」
力の石の賢者・アキラの言う通りに、近くに落ちていたゴブリンの棍棒を拾い上げると、それは銀色のハンマーへと変化していった。何でも壊せそうだし、何からでも守れそうな武器だな。見た目は重そうだが、意外にも軽々と持ち上げることができる。
「時の石は時を自由自在に操れる。使い道は少ないが、応用が効く」
何をどう使えばいいかは教えられなかったため戸惑ったが、応用が効くとか言っていた。さっきみたいに時を止めることはできるのか、と思い念じてみるも何も起こらない。どうやって時を止めるのかと尋ねてみても、何も返ってこない。
代わりにガルの声が聞こえるようになった。
「無事だったのか、さっきは殴って悪かった。だけど少し記憶が……今はどうなっている?」と今の状況を理解出来ていない様子。どうやら中の世界ではガル以外の3人もいるらしい。無事でよかった。
二大賢者にもう少し聞きたいことがあったが、仕方ない。盾を左に持ち、ハンマーを右に持った状態で戦闘を開始することにした。
「行くぞ」
ガルの掛け声と共に、俺は前に突っ走る。誰にも追いつけない速度で駆け抜けるのだ。邪魔するゴブリンは右手に持っているハンマーで軽く飛ばしてやった。
遠くから物を投げつけてくるスケルトンやオークにはハンマーをお見舞した。どうやらこのハンマーにも自動で戻ってくる機能が搭載されているらしく、見事弱点に直撃したと思ったら自動で戻ってきた。なるほど、これも力の石に秘められた力か、最高だ。
「ゴブリンは無視していいから脅威になりそうな上級モンスターから討伐。それとアイって人を見つけ出して」
サタナの声によるサポートもあって、非常に戦いやすい。彼らは外の世界に行くことは出来ない存在だが、代わりに俺をサポートしてくれる。魂を体に戻せば復活するが、今あの教会まで戻るのは難しい。だから魔王を倒し終わるまで……一緒に戦おう。
「3時の方向からマーナガルムが接近中、首が弱点」
フィンのアドバイスを受け、俺もそのマーナガルムがいる方向へ向かった。巨大な穴を飛び越え、マーナガルムは俺に向かってくる。ユーゴを食った奴と同個体かどうかは分からないが、仇はとってやる。
盾を背中にしまって、近くに立っていたゴブリンに棍棒を投げる。するとゴブリンは倒れて、棍棒を落とす。それを拾ってハンマーに変化させれば、両手でハンマーを持って戦うことが出来る。見かけは重いが、意外と軽い。
まずは2つのハンマーを奴の目めがけて思いっきり振りかぶって投げる。ガコン……という生鈍い音が聞こえたらハンマーを手に戻しつつ高く飛んで奴の背中に乗る。奴はまだ覚醒前だから四足歩行、背も低いからどちらかと言えば倒しやすい。
首に片方のハンマーを置き、右手でもう片方のハンマーを持つ。それで置いたハンマーを思いっきり、持っている方のハンマーで叩きつける。すると……凄まじい衝撃波と共に赤い雷が、ビリリと何度も落ちる。俺の周りにいるモンスターも雷に巻き込まれ、次々と焼かれて死んでいく。
下にいるマーナガルムも例外ではなく、頭部に雷を食らってそのまま死んだ。俺は咄嗟に避けたから無事だったが、雷をまともに食らった奴の体は派手に爆発した。
原理は分からないが、以前もこうやってモンスターを倒したような気がする。よく分からないが、次々と使っていこう。
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