表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/100

第73話 戻らなくていいのか?

----------


 高速移動の呪文というものをよく知らないため、ウィドウに効果を付与された後にホークに聞いてみたが、どうやらホークもその他のメンバーも俺の姿を見ていないらしい。


 だからさっき別の俺に教わったと主張しているのは、アイとウィドウのみ。他は俺の姿こそ見ていないものの、実際に高速移動で今の俺の元に来れたために特に疑ってはいなかったとか。


 まぁ、複雑な話だな。ある人間がさっき訪れて大切なことを教えてどこかへ消えたと思ったら、その人がまた現れて「さっきのは偽物だ」なんて言われたら俺だって驚く。それでその2人が見た俺というのは結局のところ誰なんだろう。


 魔王が作り出した幻影か、それはないな。今更彼らを手助けするなんてことはない。ウソの呪文をあえて教えて破滅に追い込む……といった作戦も考えられるが、実際にさっき使って何も無かったらしいし、この説も違うだろう。


 で、高速移動の効果を付与されたら後は簡単。目的地を想像して、その場から走り出すだけ。ある地点と別の地点を呪文で繋ぎ、瞬間的に目的地に到着するようになっている。


 魔王の使っていた呪文にあった「レミノウ」と同じような効果だが、これは実際に空間を壊している訳じゃなく、擬似的に距離を縮めているだけ。それにこれを使う時、ウィドウは「マーキュリ」と言っていた。どちらにせよ魔王と同じ呪文を使っている訳でもないことは確か。


 で、現地……魔王の心臓の真下に到着したのだが、現場は恐ろしい有様になっていた。まず空は魔王の巨大な体によって埋め尽くされているため、光が入ってこない。その上煙も漂っているために視界が悪い。これじゃ紫色をした魔王の体くらいしか見えない。


 それで今手に持っている力の石の付いた剣で、奴の心臓を貫けば全てが終わるはずなのだが……こんな短い剣で貫けるのか。ゴブリンやスケルトンといった普通のモンスター相手くらいなら楽勝だろうが、何せ相手は巨大な魔王。


 そう簡単には倒せないよな。と、そこでホークが俺たちにある提案をした。


「呪文の力を借りよう」と。今近くにはウィドウがいる。アイは奴の眼球の真下に残ったが、ウィドウ単体でも繰り出せる呪文なら使って試してみよう……というのが彼の案。


 これは脳内にいるガルもフィンも思っていたらしいが、ウィドウがどんな呪文を使えるか未だによく把握していない。脳内にいるガルも呪文を使えるが、外の世界には出ることはできないため、結局使えないみたい。


「高速的な瞬間移動で魔王の体内から心臓を刺すのは?」とタイガが提案をしたが、それはウィドウによって却下された。どうやら知らない土地自体には行けるらしいが、体内といった未知の領域には行けないらしい。"知らない"と"未知"ではまた意味が違うとか。


「じゃあ剣の形を変えればいいんじゃねぇの」とジュリーが提案し、それは却下されなかったが実行しても何も起こらなかった。


 前は飛んでいる飛行船を白い剣の形に変えてみせていた。それで魔王の巨大な体を貫くことに成功したのだが、現状呪文を使えるのは1人だけ。その上呪文の対象物が剣以外に存在しないため、剣に呪文の効果を付与するしかない。


 巨大な飛行船も、周りに生えていたであろう木も全て焼かれたり爆破されたりしていて近くには何も無い。ジュリーの持っていた剣でも試してみたが、元の大きさを超えることは出来ず、ただ別の磨きがかかった剣に変化しただけだった。


 他の物でも形状を変化させられないかどうか何度も試した。しかし何をどうやっても、魔王の体を貫けそうな鋭い武器は作成できず、ただただウィドウの生命エネルギーだけが奪われていく結果になった。


「多分、力の石を持つ剣が呪文の効果を消している」と脳内にいるサタナが推理していたが、こうなってしまってはもう何もすることがない。何もできない、抵抗する術が見つからないのだから。


 魔王に対抗できそうな唯一の剣は、奴からすれば短く呪文もかからない。これで奴の体を貫ける訳がない。それで他の物でも試してみたが、形状は変化してもどちらにしろ貫けるような物にはならなかった。


 じゃあ、今からどうするか。


 彼らの元に変えるか、彼らと共に新しい作戦を考えてみてそこからまた試行錯誤してみよう。または治安兵士メンバーを何人か借りてくるのも手だな。治安兵士には技術力があるし、グラップリングといった人を助けられるような立派な装置もあるんだ。


 俺たちには考えられないような作戦を考えてくれるかもしれない。一応ホークとタイガは治安兵士のメンバーだけども歴は浅いし、もっと長く勤めている人を連れていくのも手だな。


「……少し待ってください。インファイの呪文でエネルギーを使い過ぎました。回復するので少しだけ時間を……大丈夫ですから……」


 ウィドウは疲れたのか地面に手をついて息を整えようとしているものの、異常な程に生命エネルギーを使い込んだためか息が落ち着いていない。ずっと横から「ゼーゼー」とか「ハーハー」とか聞こえる。本人は大丈夫と言っているが、本当に大丈夫なのか。


「なら周りを探索して、残っている資材がないか見てみよう。そいつらを繋ぎ合わせて、巨大な剣にできないかどうか……試すだけなら試してみよう」


 脳内にいるガルの提案により、皆バラバラに動こうとしたその時、魔王がある言葉を口にした。




「………………戻らなくていいのか?」




 奴が何かを発した瞬間、遠くの方から風の吹き荒れる音が聞こえるのと同時に地面が揺れた。それは奴の口からどんなに離れたとしても同じだった。それで、戻るとはどこにだ? 奴の体内の中にか? それは二度とごめんだ。もうあんな場所には閉じ込められたくない。


 ガルといったデリーシャのメンバーにとっては体感10年以上閉じ込められていたんだからな。奴にもその気分を味わってもらいたいところだが。


「どこにだ?」と聞いても何も返ってこない。人に聞くだけ聞いといて、返事はしないのか。


 今のうちにウィドウを起こして次の策を考えようとしていた時、また別の声が遠くから聞こえた。


「………………私の下にはモンスターが大量にいる。10人ばかりで対処できる量ではないぞ」


 奴のその声と、声と同時に発生する地鳴りと風の吹き荒れる音を聞いた瞬間、俺は全てを理解してしまった。急がないと……眼球の下にいる人たちが殺されてしまう。


----------

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ