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第72話 人間と同じ感性

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 魔王の声は重く響いてくるため、音量こそは大きいが聞き取りずらい。口が遠くにあるからだろう、奴が何かを発する度に地面が揺れる。


 図体がデカい代償だ、奴はいいだろうが下にいる俺たちの身にもなってみろ。奴が息を吸えば遠くの方で竜巻が発生し、何か少しでも発すれば地面がガタガタと振動で揺れる。


 頼むから、もう何もしないでくれ。

 大人しく……そのまま消えてほしい。


 まぁ、そんな簡単にいかない。魔王は俺たちに向かって何かを発しようとしているのか、遠くの方から轟音が聞こえる。第一、奴の口はここから見えないため、奴が何をしようとしているのかすらほぼ分からない。今は風の音から推測できるが。


 見えるのは、奴の眼球だけ。少し上を見るだけで、もう目に入ってくる。巨大な黒目が真上にあるせいで落ち着かないし、奴が1回瞬きをしただけでも地面は揺れる。もう何なんだよ、早く楽になりたい。


「……殺す」


 遠くの方から轟音と共に奴の声が聞こえたが、重く低く響いてくるためにやっぱり上手く聞き取れない。だが「殺す」というのだけは聞き取れた。それで充分だ、奴は俺たちを殺すつもりというのが分かったのだから。奴が心を改めることなんて無いか。


 と、頭の中にいるフィンが、何かに閃いたのか大きな声で「分かった」と言っていた。もちろん外の世界にいるタイガとかジャラには聞こえないため、俺が中継して彼らに伝えることにした。


「口と目の距離が離れているから、声を発したとしても少し遅れがあるんだよ。"教育所"で習ったでしょ」


 教育所というのは12歳から16歳までの少年少女が通う場所。主に勉強面から運動面まで見てもらえる。貧しくとも基本は通えるため、俺もソールも通っていたし同じ級であった。


 それで……何を習ったんだっけ。基本常識から数学についても学ぶし、地学や天文学といったモンスターに関係ないことまで学ぶ。当時は討伐者になろうとも思っていなかったし、そもそも就きたい仕事が無かった。


「魔王が発したとされる時間よりも遅く、僕たちには声が伝わってくるってこと」


 ……なるほど、分からない。


 地学とか天文学についても覚えていないのだから、計算が必要な物理学については一切覚えていない。俺以外、治安兵士のリーダーをやっているジャラなら詳しそうだ。他にもホークとかこういうのに興味があるんじゃないか。


 外の世界にいる皆にも聞いてみたが、ジャラもホークも「その頃はちょうど国が滅ぼされた時期」と言っていた。そうか、ストーズは少し複雑なんだ。


 ストーズは小国だけど世界征服を目指して、それが失敗して国は滅んだ。少年少女には関係ない話だけど、国が消えたからには住む所も何もかも消える。だから教育所になんか行っている場合じゃなかったんだ。


 もし行っていたとしても、ストーズ出身者を受け入れる場所なんて、当時は少なかった気がする。今でこそ誰でも受け入れるが。


 いや、今はこの話をしている場合じゃない。フィンは「音は空気を伝ってくるから、目から口まで距離がある」という説を立てている。それがどう魔王討伐に影響するんだ。


「先に言っとくが、魔王の弱点は心臓だ。確実に心臓を貫けば奴は死ぬ」と脳内にいるガルが補足してくれた。流石は魔王と過去に戦った人間だ、頼りになる。


 ただ、魔王の心臓を確実に貫くって……不可能ではないか。奴の体は全体的に巨大化していて、目も大きければ口も顔も何もかも大きくなっている。その分体も厚くなっているんだろう。狙うべき心臓という的も大きくなっているが、分厚くなった分心臓を貫くことはできない。


 奴の言う通り「こんなちっぽけな剣」ではね。何か力の石由来で不思議な力を起こせないか、2人とガルの呪文を掛け合わせて、剣をまた別の何かに変形させられないか。治安兵士の残された武器も利用できないものか。


 そう悩んでいる間にも、奴は今もなお両手で地球を抱えている。いつ潰されるか分からない、あのノロマな体でもいつかは両腕で潰される。だから殺される前に、地球を破壊される前に止めなければいけないのに。


「通常のモンスターにも共通する弱点は、心臓と首。足や腕を切り落とせばその分時間は稼げるが、どちらにしろ難しそうだな」


 タイガは今までの経験を活かして、冷静に魔王の他の弱点を探しているが、どれにしても「魔王の分厚い部位を切り落とす」という行為が必要なために、実行するのは難しそうだ。


 じゃあ、どうしたら世界を護れるんだ。


「人間と同じ姿をしているのなら、人間と同じ感性を持つだろう」と発言したのは治安兵士のリーダーのジャラ。彼女はあの治安兵士をまとめ上げる存在でもあるため、判断力には優れていると思われる。で、人間と同じ感性を持っているとどうなるんだ。


「上にもあるだろう、眼球が。先程と同じように瞬間移動すれば眼球に剣を刺すことが可能。刃か通るかは別問題だが」


 体が分厚くなった分、眼球も分厚くなっていそうだが人間と同じ感性を持っていると推測できるのは凄い。人間でも目にゴミが入ったら違和感を覚える、それを利用するのか。


 問題は「先程と同じように」という部分だが。さっき言っていたように、別の俺が彼らを助けた時に使っていた高速移動の呪文のことなのか。だから高速移動の呪文なんて物は本当に知らない。


「分かりました、2組に分かれましょう。高速移動の呪文で心臓に剣を刺しに行く組、残って眼球やその他の部分に攻撃を与え続ける組。後者は囮という扱いにもなりますが」

 

 オレンジに光る腕輪をしたウィドウがそう提案した。結果、俺・タイガ・ホーク・ジュリー・ウィドウが心臓組。ユーゴ・シータ・ジャラ・その他の治安兵士メンバー・アイ・がここに残って攻撃し続ける組となった。


「健闘を祈る」


 俺の一言を合図に、別れた。


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