第71話 ノーマッド、復活
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声の主は、ノーマッドのメンバーのタイガであった。彼は腕の怪我を押さえつつも、俺に赤い石の付いた剣を手渡してくれた。
「生きてた!」と思わず声が漏れてしまう程に嬉しくなった。だって目の前に、タイガがいるんだから。それも生きている。魂の集合体とかじゃなく、現実の世界で。
「マイト、今までどこに行ってたんだよ」と彼は呑気に聞いてくる。そう言いつつも彼の目には水が溜まっており、今にも泣き出しそうであった。
他のメンバーも生きていた。ホーク、ジュリー、シータ、ユーゴ。誰も欠けることなく、俺の目の前に立っている。怪我を負っている者もいるが、それよりも皆泣き過ぎて顔が崩れてきている。変な例えだが、嬉し過ぎて言葉が上手く使えない。
更に他にも生きている人達がいた。
治安兵士のリーダーであるジャラ。彼女の他にも数名の治安兵士メンバー。元は何百人といたが、残念ながら魔王との戦闘中に散っていったとのこと。
作戦の過程で散った者もいれば、誰かの身代わりになって散った者もいる。魔王に踏み潰された者もいれば、その衝撃波で消滅した者もいる。彼らは皆、魔王によって殺されたことに変わりはない。だから、今残った俺たちがこの手で魔王を討伐しなければ。
と、時の賢者の孫である2人が何もない空間から突然現れた。突然のことだったのでとても驚いたが、彼らが生き残っていたことにひとまずホッとした。どうやらそれは新たに得た呪文らしい、何もない空間同士を繋ぎ合わせて、瞬間的な移動を可能にしたとか。
「マイトさんは無事でしたか」とアイとウィドウのどっちかが聞いてくる。どっちがどっちか、名前を聞き忘れたな。どちらとも白いローブを纏っていて、更に深いフードをしているから顔がよく見えない。
名前が分からなくては作戦の時に支障が出るから……と、脳内にいるガルが2人に名前を言うように伝えろと言ってきた。脳内にいる4人の声は他の人間には聞こえないらしく、俺が中継するしか外に伝える方法は無いみたい。ただ4人で会話をすることはできるとか。
と、彼らはフードを取る代わりに長い袖をまくって、身に付けている5個の腕輪を見せつけてきた。青とオレンジに光る腕輪、綺麗だな。ローブを纏っているから腕輪を付けているなんて分からなかった。
「左腕に5個の腕輪があり、青く光っているのがアイ。右腕に腕輪があり、オレンジに光っているのがウィドウ。顔を見せるよりも効果的でしょう」
……俺はまだ何も言っていないんだが。もしかして、脳内にいるガルの声が彼らには聞こえているのか。または俺の表情を見て察してくれたのか。後者だったら少し申し訳ないが、これで区別できるようになった。
その腕輪は呪文を使うためのエネルギー源となっているらしい。本来、呪文を唱えるには大量の生命エネルギーが必要なのだが、腕輪で大半を補っているとか。それでも足りない分は皆から借りているみたい。
となると、力の石に込められているであろうエネルギーは凄まじいことになるな。腕輪にどれくらいのエネルギーが込められているかは分からないが、俺たちは体内にある石の力だけで呪文を唱えた。
時の石も小さな石だったが、過去に遡ることのできる立派な力を持っていた物だった。力の石も俺たちを強くする以外に、他の力があるんだろうな。俺たちが分からないだけで。
それでティナは無事なのか。彼女は今どこにいるんだ。俺が魔王を引き付けている間に、塔の頂上にいる彼女をグラップリングで助けるようユーゴにお願いしたはずなのだが。あの後どうなったかは俺もまだ知らない。
「彼女は今、別の安全な場所に避難させています。というより、貴方が救ったじゃないですか」
良かった、ここよりも安全な場所で生きているらしい。本当に良かった、これで俺は救われた。彼女を失っていたらもう取り返しのつかないことになっていたはず。
それで「貴方が救った」というのは何のことだろう。俺はさっきまで魔王の中に閉じ込められていたから、外の世界に行くことは出来なかった。当然、外の世界で生きているティナを助けることはできない。だから彼らは何を言っているんだ。
「先程貴方が『彼女を安全な場所に連れて行って』と仰ったのでその通りに。瞬間移動の特殊呪文も教えてくれたじゃありませんか」
……俺は言った通り、呪文を唱えることなんてできない。だから特殊呪文なんて1つも知らないし、それを教えることは当たり前だができない。ましてやさっきまで魔王の中にいたんだから、ティナを助けることはできないし2人に会いに行くこともできない。
人違いということは流石に有り得ない。普通の人間すら生き残っているか怪しいのに、俺にそっくりな人間が彼らに呪文と場所を教えた挙句帰るなんて。とにかく、俺じゃないことは確か。
そうこう考えているうちに、脳内にいるフィンがある信号を感じ取ったようで「何かが聞こえる」と言っていた。これは彼ら脳内にいる人間にしか聞こえないのか?
よく分からないから俺たちも耳を澄まして聞いてみる。パチパチといった燃えている音しか聞こえなかったが、遠くの方から少しずつ地鳴りのような低く重い音が聞こえてくる。
オオオオ、オオオオといった自然界では起こりえないような巨大な音。轟音に思わず耳を両手で塞いでしまう程だったのだが、それらは少しずつよく耳にする言語へと変わっていった。
これは魔王の声か?
魔王が小さな声で何かを言っている。図体の割に声はとても小さく聞こえない。奥の方から聞こえる地鳴りに声が負けているのだ。体は大きくできるのに、声は大きくできなかったのか。それならとても不便な体だな。
「……なぜだ」
少しずつだが、魔王の声が聞こえるようになった。だが音量調節は出来ないのか、小さかった奴の声はすぐに轟音と化していった。そのためまた耳を両手で塞がなければいけなくなった。こうやって耳を破壊したいのか、奴の攻撃はそんなチマチマとダメージを受けるような物になったのか。
「……何故外にいるのだ」
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