第70話 俺はマイト・ラスター
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デリーシャの拠点であったはずの倉庫は壊れ始め、少しずつ真っ白な空間に取り込まれていった。その空間に居るのは、鎧を着たデリーシャのメンバーのみ。他の生物なんてのは存在しない。
記憶旅行をする時以外は、10年以上同じ部屋に閉じ込められていた4人は久々に違う景色を見ることができてホッとしていたものの、真っ白な空間で床も天井も白くどこか不気味だったため、皆恐怖から声を上げるしかなかった。
ツイン・ワンネス、確かにそう唱えたはずだ。5人で手を重ね合わせ、呪文の訓練を積み重ねていたガルが唱えた。そこまではキチンと覚えている。特に記憶喪失とかそういうのは無い。
マイト・ラスター。結婚していて、娘もいた。全ては魔王によって……もう、思い出したくないな。記憶に障害があるかないか確認したが、思い出したくない物を思い出すだけで終わった。
これは……成功したのか。
世界を救うための呪文と村長は言っていた。だからもし呪文が成功しているのなら、世界は救われているはず。そんな簡単にいかなくとも、世界を救うための力が備わっていたりと何かしら起きているはず。
なのに真っ白な空間に居るのみ、他は何も起こらない。これは……失敗したんじゃないか?
と思っていたのも束の間、床が突然消滅した。白い色をしていて、周りも白かったから自分はどこに立っているのか分からなかったが、その床が突如消えたのだ。
もちろんそれに立っていた俺たちはそのまま落下。でも天井も床もないから永遠に落ち続けるのみ。声を上げても、手を広げても止めることはできない。床がないから、永遠に落ちるのみ。
「これって成功したの!?」とサタナの叫ぶ声がすぐ近くで聞こえる。が、周りを見渡しても姿は無い。下を見ても上を見ても、グルリと回転しても見えない。
「分からないな……」とガルの呟く声がまた近くで聞こえたが、彼の姿は視認できない。
「どうなってんだよ……」と焦っているソールの声がまたもや近くで聞こえたのに、彼の姿は近くには無かった。
既にフィンの姿もなかった。遅れて後から「僕たちは1つになったんだ」という声が聞こえたのだが、1つになったとはどういう意味だ。もしかして、体が1つになったとか……そういうことなのか?
そう考えているうちに、いつの間にか俺の意識は遠のいていった。メンバーの心配する声が聞こえるが、体が異常をきたしているからか目を開けることすらできない。背を地面に向け、目を閉じたまま落下していく。
これは、成功したのか。
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気がつくと、俺は元の世界に戻ってきていた。周りを見渡してみると、木も草も焼かれていて緑が完全に消滅しているが、間違いない……これは外の世界だ。
理由は簡単、上を見るとそこには巨大化した魔王が地球を両手で包み込んでいたから。雲を突き破るどころではない、その体は地球の大きさを超えている。見上げれば奴の眼球が見えるのだが、それもまた恐ろしく、人間の姿をしているが人間味は感じることの出来ない不思議な体をしている。
奴の眼は俺の方を向いていた、目が合っているんだろう。ただ何度も言うが奴の体は大きすぎて、地球全体を包み込むくらいの大きさとなっている。既に生物としての尊厳が失われているし、まずそこから動けないだろう。
「どうなってんだよ」
突然、脳内に直接ソールの声が響き渡ってきた。もちろん周りには俺以外誰もいない。確かに彼の声だ、魔王が偽物のソールを作り出して喋らせている訳でもないはず。どちらにせよ、ソールの姿が見えない。
「僕たちは1つになったんだよ」
今度はフィンの声が直接脳内に響き渡ってくる。彼の姿もまた近くには無い。木も草も建物も全て焼かれ、生物も全て殺された、そんな煙に巻かれた世界に、ポツンと俺が1人。なのに声は聞こえてくる。こっちこそ、どうなってんだよ。
「だから、僕たちは1つになったんだ」
……1つになったって、どういうことなんだよ。
「魂が1つにまとめられたんだ」
……もしかして、ガルとサタナとフィンとソールの魂が1つになって、俺の体の中に入っていったということか?だからさっきから脳内に直接2人の声が聞こえるのか
……って言われても、簡単に納得できるはずがない。魂として魔王に吸収されたといった時は信じるしか無かった。だって実際死んだとされる4人が目の前にいたから。それを考えると、これも本当なんだろうな。これ以上考えるのは止めよう。
それにしても、何で俺の体に集まったんだ。力の石を持つ割合で言ったら、俺は1番低い人間。だから集められた……と言われたら反論はできないが、何で俺なんだろう。
「それはアレだ。マイトが力の石の影響を受けやすい人間だったんだろう。無意識に人助けをしていたじゃないか」
そうやってガルが補足する。確かに俺は力の石の影響を強く受けてきた。だから魂を集める器にはうってつけの存在なのか。納得はできないが、本当に集めてしまったんだから何も言うことは無い。
それに力の石の影響を受けやすい……ということは、俺はいつか石に操られる可能性もあるということにもならないか?これは前にも言ったが、正義の味方となるのならまだ良いが、これが魔王に操られて悪の道に進むとなると……考えただけでゾッとする。
で、どうしたらいいんだ。外の世界には出たが、魔王を倒すには結局、どうしたらいいんだよ。世界を救う呪文は村長に教えてもらったし、実際にそれを実行した。それで外の世界には来たが、魔王は未だ健在、だだっ広い奴の眼球がよく見える。
更に力の石を持っている剣が見当たらない。俺が奴に魂を抜かれる時に持っていたのだが、剣だけは取り込まれなかったのか、魂の集合体の場所に剣は無かった。持ち物が反映されないにしても、今持っていないのは……おかしいな。
となると考えられるのは、魔王に取り込まれる時にいた場所に落ちているか、俺と一緒に魔王に取り込まれたが生物ではないため反映されなかったのどちらか。前者であることを願うが、さっき戦っていた場所がどこなのか分からない。
周りを見渡しても煙のせいでよく見えないし、目印となっていたハロス城や基地といった建築物は消滅している。森や草原に生えているはずの草も全て焼かれているために土しか見えない。
「剣があれば、力の石の効力は完全に発揮されるはず」とサタナ。
「完全な石となったら何が起こるか、俺たちも知らない」とガル。
その通り、今までデリーシャとして同じ所に集まってモンスターを討伐したりしていたが、完全に石が1つになったことなんてもちろん無い。力の石が分けられた状態でも引けを取らない強さで戦えていたのだから、完全な状態となれば最強になれるかもしれない。あくまで希望的観測だが。
「魔王が俺たちの復活に気づくのが先か、剣を探し当てるのが先か」とソール。
奴は俺がこの世界に来てから一切動いていない。奴が最初に巨大化した時から既に動きがノロマだったが、それは俺の魂を吸い込むための罠だった。しかし今はもう離れたんだ、罠を張らなくてもいいはず。
なのに奴に動きが無いということは……動けないんじゃないか? 動きたくても、あんなに体が大きくなれば。取り込んだはずの人間が外に出て動いているんだ。それなのに何も声をかけてこない、もしや口を動かすことができないのか。
そんなことを考えていた時、脳内からではなく近くから声がした。
「剣、見つけたぞ」
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