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第7話 最底辺のパーティー

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 朝、草の生い茂った床で布を敷いて寝ていた訳だが、もちろん虫が湧いていた。虫はあまり得意でないから、朝から余計な体力を使って追い払った。窮屈な家でもあったため、色々な関節からポキポキと音が鳴る。


「すみません、こんなに狭い部屋で」


 見て分かる通りだが、経営難に陥っているため朝ご飯は誰も食べていなかった。皆昼しか食べないみたいだ、俺にはそれが耐えられない。昨日はたまたま菓子を貰ったから食べていたが、彼女も基本は一日一食らしい。


「立て直しといっても大雑把過ぎますよね。説明します、お金を稼いで来てほしいのです。稼いだお金を3割だけ納めてくれればいいのです。損になるとは思いますし、無理な願いなのは分かっていますが、未来への投資だと思って頂けると……」


 俺がどうにかして金を稼いで、それを半分以下でいいから村に渡す。そのお金で村は発展していく。


 それは……俺が損するだけなのでは。代わりに村の家を渡すと彼女は言うのだが、欲しい家などここにない。どこかしらに欠陥がある家は……正直必要ないな。


 話によると、村人以外で宿泊している浮浪者たちも、村を立て直すために金を稼いで来ているらしい。都市の中心部で暮らす上級階級の方々が極秘に開催している『パワー・コンテスト』に参加し、参加賞や賞金を受け取っているらしい。


 パワー・コンテスト……初めて聞いた。どうやら、上級階級の方々の前で己の力を試す会らしい。

 例えば人間同士で戦って勝った方に賞金だったり、モンスターと戦わせて面白ければ賞金だったり。裏で極秘に開催されているなら、俺も知らなくて当然だろう。


 つまりは見世物みたいなやつ。


 金のない人たちをモンスターと戦わせ、面白ければ金をやる。上級階級にしかできない、ショーみたいな遊び方だ。


 俺はそれを聞いた時「許せない」と思った。見世物みたいに扱われるのが嫌だと感じた。しかし、金は貰える。勝てなくとも面白ければ賞金を貰える。抗って参加しないのは勝手だが、金を貰えないだけ。


 額を聞いた時は驚いた。普通に働くより何倍も高い。体とか命を懸けて戦うんだから、それくらい高いのは納得だが、それにしても額が大きい。


 しかし……問題点ももちろんある。


 どんなに良い戦績を残したとしても「面白くない」の一言で金は貰えない。参加賞も没収。全ては上級階級の匙加減。


「それに行けとは言いません。あくまでも選択肢の1つです。皆と同じように働くことを望みます」


 俺も真面目に探せば働き口くらいはある。しかし面倒臭いことに、俺はパーティーを追放された身だ。何というか……難がある人と思われやすい。奇跡的にここでは思われていないが、全てが他の場所でも通用する訳じゃない。


「俺は……ある教会で依頼を受けました」


 これだけは話しておかなきゃならない。間を置いて、彼女に話し始めた。


「黒いローブを着た男が俺に対して告げました。『私の故郷を助けてほしい』と。俺は見ず知らずの人の故郷を助けることになります。でも俺は断れませんでした。自分の意思で立て直したいと感じたからです」


 彼女は深刻な顔で、俺の話を聞いていた。


「俺は最近までデリーシャという討伐パーティーのメンバーでした。マイト・ラスターです、新聞の端の方に載ってたと思いますが……クビになりました。俗に言う追放です。理由は若干理不尽なものではありますが、世間は許してくれません」


 彼女は首を横に振りつつ、真剣な眼差しで俺の目を見つめていた。


「どう説明しても『追放されるということは悪い事をした』と解釈されます。だから俺は偽名でも名乗って生活しようかとか心の奥底で考えましたが、目的ができました。ウェール村を立て直します」


 出任せか、いやそうじゃない。本当に思っていることだ。考えている言葉が、直接口から自動的に現れる。口に出そうとしなくても、勝手に口から出てくる、まさに不思議な状態だ。


「でも貴方のおじいさん、村長さんはどうして外部からの干渉を断ったんですか?それだけ教えてほしいです。それさえ分かればこ----」


「依頼受けたからって、若造が口出すんじゃねぇ。お前は黙って金を稼げ、話はそれからだ」


 いつの間にか村長が椅子に座る俺の背後に立っていた。背後には扉がある。扉もまた古いもののため、開ける度に大きな音が鳴るのだが、彼は音を立てずに静かに入って来たのか。


「話は全て聞かせてもらった。パーティーの件は誰にも言わんが、お前に仕事を選ぶ権利は無い。これに入れ」


 彼はそう言うと、机の上にある紙を置いた。紙には『メンバー募集中』や『簡単なお仕事です』と書かれていた。下の方には”モンスター”や”討伐”といった単語が並んでいた。これはもしや……。


「そうだ、パーティーに入れ。これならお前の腕も活かされる。ポリスタットでは最底辺のパーティーだ、お前がどうにかしろ」


 彼は俺に仕事を押し付けた。わざわざ見つけてくれたようだが……俺を討伐パーティーに入れたいようだ。パーティー名は『シャリア』と書かれているが、俺は知らない。彼が最底辺と言うのだから、相当なことをやってるんだろうな。


 彼は俺の元に近づき、俺にしか聞こえないくらいの小さな声でこう囁いた。


「パーティーから追放された本当の理由が知りたいのなら、やれ」


 よく分からない、追放された本当の理由を彼は知っているのか? 何で村長が知っているんだ、それに知っているなら今教えてくれても……いいはずだ。


 更に、俺は顔を見られる訳にはいかない。


「覆面でも被っとけ。人が来りゃ、あいつらは喜んでくれる。ただ髪色は変えろ、桃色でも加えとけ」


 彼はそう言うと、扉を開けて外に行った。俺も彼女も口を開けて、ただ呆然としていた。その後顔を見合わせて少し話し、結果的にシャリアに加入することとなった。


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