第65話 ピンチに駆け付けた救世主
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本当に俺がソールを助けたのか? 色々頑張って思い返そうとしてみたけれども……覚えていない。第一、何歳の出来事かすら分からない。5歳よりは上だろう、見た目からして。なら力の石を体の中に有している。
そう考えている内に背景がまた変わっていった。少年である俺とソールが警備の人間に保護され、事件に関わった人間として話を聞かれている所。もちろん、これも覚えていない。
「奴らはワンダーボルダーを破壊した後、君達を襲った……ということでいいんだね?」
幼いソールの服を替えた後、暖かくしてある部屋の中で2人は取り調べを受けている。といっても襲われた側であり犯人はもう捕まっているので、聞かれることはほとんど無い。ただひとつだけ、気になることが存在していた。
「奴らを殴って倒したのは、どちらかね。罪には問わないし、むしろやっつけたんだ。凄いことだから、教えてほしいんだ」
警備の人間は2人に「誰が倒したのか」と尋ねていた。答えは昔の俺、だが昔の俺も幼いソールも何も答えようとはしなかった。何度質問しても、何も返さない。しびれを切らした彼は「夜遅い時間だから」と2人を帰した後、頭を抱えて悩んでいた。
それもそのはず、屈強な大人4人殴り倒した人間の正体くらい誰だって知りたいだろう。しかし現場に残っていたのは幼い少年2人だけ。結局「強盗団同士で仲間割れが起きて同士討ちした」と彼らは結論付けた。実際は違うがな。
「ここまで見せたら思い出してくれると思ったけどな……まぁ、覚えていないなら仕方ない。最後まで見せよう」
ソールがまた手をかざすと、背景自体が少しずつ前進していった。取り調べを受けていた部屋の扉を突き抜け、更に壁を突き抜けた先には少年である過去の俺とソールが、壁にもたれて座っていた。小さな声で何かを話しているようだった。
「君は誰?」
「マイト・ラスター。近所で虐められている君を見つけたから……つい助けた」
過去の俺はこんなことを言っているが、もちろん記憶には無い。ただ我ながらカッコイイことを言っているな、ピンチに駆け付けた救世主みたいで。ただし危なっかしい行動過ぎる、過去の俺はこんなことをしていたのか。
「ありがとう」という幼いソールの言葉によって、この記憶旅行は幕を閉じた。辺りはまた真っ黒の空間へと早変わりしていき、更にそこから前の倉庫の場所へと変化していった。これで終わりなのか、まだ思い出せてもいないのに。
「これがマイトとの出会い、ここから2人で頑張って……色々とあった。まさか力の石を有していたとは思わなかったな」
そうか、力の石を持ってから出会ったとはいえ、まだお互いに力の石を持っているとは知らなかった。この時知っていたのはサタナくらいだろう、祖父がアキラであるから。
もちろん、俺もその時は力の石を持っているとは知らなかっただろう。まだ思い出せていないんだ、申し訳ないが。
「……なら、マイトの記憶を覗く?」
そう提案をしてきたのはフィンだった。誰の記憶でも覗けるのならそうしたい。しかし……時間が無いんだ。こうしている間にも魔王は外の世界で暴れている。過去を覗いている時間なんて無い。
「外の世界とこの世界の時間の流れは違う。非常に不安定で、あっちが遅い時もあればこっちが遅い時もある。それに外の世界にはもう出られないんだ。せめて解決策を見つけたいのなら……新しく来た人間を調べたい」
時間の流れが違う、非常に不安定。時の石を使って過去に遡った時と同じだな。あれも時間の流れが外とは違った。だからクロースが殺されてから俺がフィンに会うまでの長い時間を、たった1時間弱で駆け巡ることが出来た。
こちらはあくまでも記憶を覗いて旅行している感覚だ。あれとは根本的に違うのだろう。時の石を持っている俺が来る前から何度かやっていたみたいだし。
それにしても、今はどっちの世界の方が遅くてどっちの世界の方が早くて……とか、どうやって理解するのだろう。比較する対象が存在しないと、どっちの方がとか比べられないじゃないか。
「簡単、外の世界はいつでも見れる。魔王と同じ目線で」とガルが準備を進めているフィンの代わりに答えた。
……それを早めに言ってほしかった。外の世界がどうなっているか気になる。というか見なければいけない、取り込まれた後皆がどうなったのか。ノーマッドのメンバーは無事なのか。
それよりティナは……ユーゴたちが助けてくれたはずだけど無事なのか。ずっと心配していたんだよ、ずっと。ランを失ったのは俺の責任だ、それなのにティナまで置いていってしまうなんて。そんなの父親としても家族としても有り得ない。
「あぁ……サタナがずっと見てくれている。彼女なら計算も得意だ、もちろん今も。見たかったら彼女のどこかに触れてみろ」
彼女は首を横に振っているが、それは「見るな」と言っているのか。それでも見るしかないんだ、これは俺の責任でもあるんだから。すまない。
ガルの言う通りに、俺は彼女の肩に触れた。すると砂嵐のような薄汚い物体が目に飛び込んできたのと同時に、雑音混じりの発狂する声や血の飛び散る音が耳に入ってくる。これが魔王の視……
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