第64話 君が助けてくれた
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目の前に広がる景色、どこかで見たことがある。
通りは奥へと続いているものの、ここは魔王に魂を抜かれた者の集合体であって外の世界ではないため、これ以上前には進めない様子。代わりに時の石を使って過去に遡ったように、背景が勝手に動いてくれるような仕組みになっている。
「マイト、この場所に見覚えは無いか?」
ソールにそう聞かれたが、ぶっちゃけると覚えていない。どこかで見たという既視感はあるが、それがどこなのかと聞かれると……答えられない。
「そうか、なら少しだけ移動してみよう」
彼はその背景に向かって手をかざし、そのまま右へ手を動かし続けた。するとそれに同期したのか、背景も同じようにグルリと回り始める。
彼が人差し指を向ければ、背景も一歩分だけ前進する。親指を後ろに向ければ、背景も一歩分だけ後進する。手を開いて前に押し出せば、通りの突き当たりまで進むことができ、手を強く握ればその場に留まることができる。
不思議な空間だ、俺は時の石を使ってもその場から動けず勝手に背景が変わるような仕様だったのに、魂の集合体となってからは背景を自由自在に操れるようになっていた。
「これは"記憶旅行"、自分の脳内にある記憶を周りに映し出すことができる」とフィンは高らかに説明し始めた。
原理がどうなっているか分からないが、目の前の懐かしさを感じる風景に目を奪われて、原理を聞くことすら忘れていた。どこだか思い出せないのに、どこか懐かしさを感じる。
「まだ思い出せないか、なら移動しよう」
彼は両手を広げ、胸の前で腕をクロスするように動かした。するとそれに連動しているのか、背景も一気に変わっていく。突き当たりがあったとしてもすり抜け、ある地点に一直線に向かっていることが感じられる。
「……ここに見覚えはあるか?」
背景の変化が止まった時、彼は俺に聞いてきた。この場所、きちんと覚えている。ここはソールの家の裏の通り、狭くて暗くていつも近所の不良がそこでたむろしていたっけ。
実際目の前にも裏通りが映っており、暗くてよく見えないが何人かの不良が座って誰かを虐めているのが見える。助けてやりたいが、背景であるため俺が実際に動いて助けることはできない。
虐められている青年はとても若く、まだ年齢が一桁台くらいにも見える。それが成人年齢を越えそうな大の大人に殴る蹴るといった暴力を受けている。裏通りのせいで誰もそこに入ろうとせず、彼に助けが来ることも無さそうだ。
幼い金髪の少年は必死に立ち向かおうとするも、一回りも二回りも体格の違う大人には勝てずに、何度対抗しようとしても押し潰される。助けを呼ぶことも諦めているようだった、逃げようとしても首を掴まれてまた殴られる。
「この少年は、好きな女の子のために戦っている。彼女の親の店は強盗によって破壊された。その犯人を見つけた彼は若過ぎるのに助けも呼ばずに、独りで立ち向かおうとした。もちろん殺されかけたが、そこにある人が助けに来た」
ソールが説明している途中に、ある少年が彼を助けようとその道に入っていくのが見えた。誰も入らない裏通り、相手は大の大人、もちろん勝てるはずもなく……何度も何度も殴られ立てなくなっている。
そもそも無茶な話だ。店を破壊した強盗に1人で立ち向かおうとするなんて。それもまだ小さな子供、好きな女の子がいたからって……無茶過ぎる。
それにソールは、何でこの風景を選んだんだ。
と、そこに1人の銀髪の少年が現れた。暗い路地で大人でも入らないような場所に、虐められている少年と同い歳くらいの少年がたった1人で。もちろん少年を虐めている大人たちもそれを見て笑い始める。
「こいつみたいになりたくなければ、とっとと家に帰りな」
「おいおいこいつ小便垂らしてんぞ! 気持ち悪いな!」
少年は恐怖のあまり漏らし、それを大の大人達は嘲笑う。こんな光景はもう見てられない。それでも俺は動けない、だってこれはソールの記憶を映し出した物だから。
しかし、次の瞬間……嘲笑っていた大人達は何者かに殴られていた。そう、通りに入ってきた少年が彼らを倒したのだ。4人の大人を、強く握り締めた右手で空気を斬るように、あの少年が殴った。
殴られた大人達はバランスを崩してその場に倒れ込んだが、すぐに殴り返そうと起き上がった。が、目の前に立っていたのはただの少年。
「こんなチビに殴られたのか?」と一同困惑していたが「こんなチビのパンチなんて痛くも痒くも無いだろ」と誰かが言い出し勝手に納得していた。見ている限り、殴ったのはその少年だ。
その少年は間髪入れずに、起き上がった大人達に向かってパンチを入れ込む。パンチを腹に受けた者もいれば、顔で受けた者もいる。
まぁ、どこで受けようとも変わらない。どこで受けたとしても、パンチを食らった者は派手にぶっ倒れた。強盗をするくらいだ、巨漢と例えるべき人間が多いのにも関わらず、少年のパンチによって頭を打って気絶したのだ。
パンチを食らってない者は逃げ出そうとしたが、既に通りをシティストの警備の人間に囲まれていることが分かったのか、少年を掴んで人質にしようと動いていた。
手にナイフを持ち、本気で少年を殺そうとしている、または交渉手段にしようとしているのが見えた。
「捕まえたぞ、逃げようとしたらナイフでグサリだ。よくも仲間を殴ったな?」
首を掴まれて脅されている少年は驚く素振りも見せず、左腕で奴の持っているナイフをはらい、右手で奴の顔面を強く殴った。これで4人は完全に気絶、遅れてやってきた警備の人間によって捕らえられていった。
……で、これはソールの記憶だよな。ソールはどこに登場していたんだ。
「本当に覚えていないか……殴られていた少年は俺のこと。俺のことを助けてくれたのは君じゃないか」
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