第62話 記憶を呼び起こせ
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「お前の剣術は一人前。褒め言葉に聞こえるが、一人前じゃダメだ、このパーティーに要るのは、せめて五人前になってからだ。それと、お前は前回の戦いで活躍したか?」
……返す言葉が無い。
「ともかく、お前は必要ない。もうどこかへ行ってしまえ。俺たちがお前を必要になることなんて無い。あるとしても……」
彼は言葉を詰まらせた後、少ししてから言い直した。
「お前を今日付けで、パーティーから追放する」
俺は言葉通り、パーティーをクビになった。酒場の裏倉庫で、静寂という静寂が響き渡る。仕方ない、もうここでは必要とされていないみたいだ。若干理不尽なものであるが、追放されたなら仕方ない。もう何も……できないんだ。
「最後に言わせてほしい、ソールはどこだ?」と俺は彼に尋ねた。
言ってもガルと俺以外、倉庫には誰もいない。その上、ここ最近俺はガル以外を見かけたことがない。ソールもフィンもサタナも。
ガルを信用していないとかじゃないが、ガルの独断で決めた訳じゃないよな。他の3人がこの場にいた状態で言い渡されるのはキツいが、これも中々キツいな。
「ソールかサタナのどっちかは忘れたが『役立たずの顔なんか見たくない』と言って、どこかへ行ったな」
役立たずの顔なんて見たくない……俺はソールとサタナにそう思われていたのかよ。ソールは幼馴染だし、サタナなんて俺をパーティーに入れようとした張本人。誘ってきたのはソールだけど。
というか役立たずって急に言われても困る。少しくらいでいいから時間が欲しい。それまでに五人前になるよう努力するから。急に言われて急に追放されても……正直納得がいかない。
とにかく、ソールに聞いてみたい。
何で俺を誘ってきたのか。役立たず……そんなこと彼が言うはずないけど、もし仮に言ってたとして彼は俺を誘っといて見捨てるのか。そんな酷いことあるか。
「いいや、ここだ」
ここ? ガルは今、ここにいると答えたな。ここは倉庫、デリーシャの会議場として酒屋の主人から借りている場所。狭いがある程度の人数は入ることの出来る、とても便利な場所。現にガルの装備や、いくつかの箱が置かれているが……俺たち以外に人がいるって言うのか?
倉庫の中は狭いから、真ん中に立てば部屋全体を見渡せる。箱に隠れていなければ、絶対に見えるんだ。ガルは何を言っているんだ。ここ?もしや近くの酒屋の話か。
「いいや、ここだ」
彼はそれしか言わない。もう一度辺りを見渡してみても、もちろん俺とガル以外に人は見当たらない。というか部屋の中には俺とガルしかいないから当たり前の話なんだが。彼は幻覚でも見ているのか。
「本当にすまない、マイト」
彼はそう呟くと、急に俺のことを抱き締めてきた。何をする気だ、俺を追放しようとした次は俺に抱きつくなんて。気味が悪いと思い腕を払おうともしたが、その前に俺は彼が泣いているのに気が付いた。
泣いている理由を聞きたかったが、彼の状態は良いものではなかった。心が追い詰められているのか、俺に対して謝りながらもずっと泣いている。
どうしていいかも分からなくなったから、とりあえず慰める意味も込めて彼の背中をさすると、彼は更に泣き出す。これはどうしたらいいんだ。
どうしようもないため、次は彼を落ち着かせる意味を込めて無理矢理椅子に座らせた。俺のことを追放するのに、彼は泣いている。嫌々追放するのなら、せめて理由が知りたい。さっきの「一人前だから必要ない」とかいう理由は無理矢理すぎるからな。
「何で泣いているんだよ。俺のことを追放するんだろ」
「お前に全てを伝えておくんだった。お前が暴走する前に、真実を」
俺が暴走……一体、何の話をしているんだろう? ここ最近起きたことといえば、炎の巨人・ムスルの討伐に手こずった。複数のパーティーと一緒に討伐しに行ったが、何人か巻き込まれて怪我を負った。それで精神的なショックを受けて自殺しようとする者も現れた。
俺を追放する時に「人を守ってばかりで攻撃しない」とか「ムスルとの戦闘で活躍したか?」とか言っていたが、そもそも俺は暴走なんてしていないんだ。人を守ってばかりなのは悪かったかもしれないけど、だからって暴走はしていな----
「お前は魔王を討伐しようと試みたが、結果的に力の石に飲み込まれたんだ。だから暴走して、その隙に魔王に魂を抜かれた」
魔王……魔の王? そんな変な名前の奴がいるのか? おかしな響きだ、自分のことを王とでも名乗っていたのか、それなら相当変な奴だな。討伐という言い方をしているから、魔王って奴はモンスターなんだろう。
それで魂を抜かれた……って? 魂って抜かれる物なのか? 魔王はそんな恐ろしい力を持っていて、それに俺は立ち向かって行って、結果的に力の石って物に飲み込まれて暴走して、魂を抜かれたらしい。意味が分からない、石ってそんなに力を持っているのかよ。
「ここは魔王の中で、俺たちは魂となった。眠っている記憶を呼び起こしてみろ」
彼の言葉を聞いた瞬間、一気に大量の記憶が俺の脳の中にドバッと流れ込んできた。デリーシャから追放されてウェール村に辿り着き、村長の言われるがままにシャリアを立て直し、バジリスクを倒してポリスタットを救ったこと。
更に6年が経って娘が生まれ、デリーシャが復活したと思ったらそれは偽物で本物は既に殺されていて、その偽物にランは殺され……思い出した。
その後に時の石の力を借りて過去に戻ったんだっけな。確かそこで力の石の在処とか村長の正体を知って、他にも俺が追放される瞬間とかを見たはず。何で俺はこれを思い出せなかったんだ。
倉庫の中にある鏡の前に立ってみると、何故か俺がデリーシャから追放された時と全く同じ服を着ていた。ガルの格好もその時と同じだし、魔王によって焼かれたはずの倉庫もあの時と同じ。
「ここは……どこだよ」
「マイト、俺たちは負けたんだ。力の石を奪われて殺された。今は魔王の体の中に魂として存在しているだけで、もう……」
俺はもう死んだのか。まだ夢とか幻覚だと思いたいが、どうやら現実みたいだ。腕をつねっても痛いし、物を触っている時の感覚も脳に直に伝わる。夢とは違った感触、それは理解できた。
それなら何で目の前に広がっていたのは、俺が追放される時の景色なんだ。もう追放された理由は分かったのだから、映すのなら別の景色を映してほしい。追放される場面を何度も見るのは心が----
「お疲れ様」
背後から急に声がした。目の前にある鏡を見ても俺以外誰も映っていない。不思議だなと思いながら後ろを振り返ってみると、そこにはデリーシャのメンバー3人……サタナ・ソール・フィンが立っていた。
「何年ぶりだろうな、マイトに会えるのは」
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