第61話 俺は無敵だ
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「じゃあ、始めよう」
「あぁ、いつでもかかってこいよ」
俺は基地に残っているジャラに連絡した。が、出たのはジュリー。どうやらホークとジュリーは体を休めつつも作戦には参加するみたい。どうやって参加するのか疑問だが、回復してくれたのなら良い。
魔王の上空を飛行している飛行船は全部で三機。彼女によると遠くで五機程待機しているらしいが、予備としてそれらは残しておく。
「今度こそ、行きます」
呪文を使える2人の指示に従いつつ、俺は魔王から距離を取った。魔王は「何故逃げる」と問いかけてきたが無視。奴は充分に痛めつけられたため、動けない様子。魔王とは言いつつも、所詮は生物なんだ。
「インファイ、インファイ」
耳に直接奇妙な呪文が入ってくる。これは形状変化の呪文、唱えているのはもちろん基地に残っている賢者の孫達。
賢者の孫達と呼んでいるが、よくよく考えれば過去に戻った時に名前を知ったな。確か"アイ"と"ウィドウ"だったか、どっちがどっちかは聞いていなかったな。
そもそも彼らは白いローブを身に纏い、更にフードを着けているせいで顔がよく見えない。だからどっちがどっちかは未だに分からないし区別できない。
で、何を形状変化させているかと言うと……魔王の真上を飛んでいる飛行船を変形させる。あれほど巨大な物は存在しない。ハロス城の塔を浮かべる程の力は持っていないが、飛行船は元から浮かんでいる。だから"剣"にするにはちょうどいいらしい。
剣にするとなると、中にいる人達は全員死ぬ。だから人数も最小限で行っているが、それでも死ぬことには死ぬ。もうこれ以外の道は見つからないんだ、もうこれ以外には。
「インファイ、インファイ」
2人が呪文を唱え終わると、魔王の上空を飛んでいる飛行船はゆっくりと先を尖らせながら落ちていった。剣に見えなくもない、真っ白な物体は魔王の心臓めがけて進んでいる。
「形状変化の呪文が私に効くと思うな……」
奴はそう叫びつつも心臓に剣が突き刺さったため、声を出せなくなっていた。これは効いているな、続けて2本目の剣を奴にお見舞した。別の飛行船が剣に変化していき、それは奴の足に向かって飛んでいった。
「よせ、やめろ」
剣が足に突き刺さったため、奴は声も出せずにもがいていた。巨大な体でもがくため、地震でも起きているのかと勘違いする程に地面が揺れていた。俺は距離を取りつつも、3本目の剣を贈るように指示した。
「人間ごと……きが……王に……触れる……な」
最早何を言っているが分からないが、3本目の剣となった飛行船は奴の頭目掛けて落下していった。それは無事に突き刺さり、奴の頭からは内臓がブチャッと、不気味な音を立てながら溢れ出てくる。
もうトドメを刺そう。もう見てられない、目の前で内臓を手でかき集めつうも立ち向かおうとする姿は。
「ロスシティ、ロスシティ」
続いて2人がある呪文を唱えた。これは何も無い空間に壁を作成する呪文。それにある工夫を加えて、階段状に壁を作成した。人間の俺でも軽々登れるような光り輝く階段が、目の前に展開されていった。
俺は特に何も考えずに階段を駆け上がる。背中に差してあった力の石の付いた剣を取り出して、逆にナイフを腰に差して、魔王を討伐する準備を進めつつ階段を駆けた。奴は抵抗せずに、ずっと溢れ出した内臓をかき集めている。
これで終わりだ。
階段はある地点までしか作られていない。ある地点というのは魔王の真上。俺の真下には奴の後頭部がある。まずはここから飛び降りて、奴の後頭部に向かって剣を突き刺す。
「何をした……」
奴は尋ねてくるが、何も言わずに俺は奇妙な色をしている後頭部に突き刺した剣を抜いて、また突き刺した。それを何度も何度も繰り返す。やがて奴が何も発さなくなった頃、俺は本気で魔王を殺そうとして剣を振りかぶった。
後は簡単らしい、賢者の孫である2人によると。魔王も所詮は生物でありモンスター。人型だから人もしくは巨人と同じ弱点を持っているはず。
それで心臓や背中を試しても弱っただけ、股関節を貫くように足も狙ったが効果は薄い。ならば残るは首。緑の巨人の弱点でもある。それを貫くように、後頭部と首を同時に狙ってみる。
「よせ……」
魔王の名にふさわしくない、そんな弱々しい声を奴は上げている。これは効いているな、と思い更に剣を首に刺したまま押し込む。こんなちっぽけな剣でも、お前を殺すことができるんだぞ……と表すように。
「最高だ……」
俺は無意識にそう呟いていた。最高だ、本当に。力が自分の中に入ってくる感覚を味わっていたから。今までに経験したことの無いような感覚と快感、それに加えて怒りの感情が力に変換されていく。快感と力が混ざりあって----
----俺は無敵だ。
「同じく」
奴は言っていた。
「同じく?」
「あぁ、お前と同じく。いや、お前は無敵ではないから、実際には違うな。私は無敵の存在で、お前は抜け殻だ、もう何の意思も持たない」
奴の言葉が奇妙に思えてきた。奴は俺の攻撃に屈することなくそうやって不気味な言葉を発するのだから、俺も剣を更に強く押し込むしかなかった。俺が抜け殻とか、それを言われたとしても力は止められない。
「そう簡単に私を倒せると思うな。私は絶対に勝利する存在なのだ。敗北するフリも疲れた、力を奪う準備は出来た」
奴は勝利を確信しているようだ。こんな攻撃されてもか。敗北するフリとか、負け惜しみにしか感じない。剣を更に深く、奴の首に押し込んでみるもその剣はビクともせず、その上俺の手も動かなくなっていった。
徐々に地面、奴の首が赤く光っていく。剣を抜こうともしたが手が動かないためどうしようもない。剣も抜けないから動きようもない。それどころか体に痛みが走ってきた。痛みが体中を駆け巡る、それはまさに……例えようのない痛み。
「力の石は貰ったぞ、アキラ、クロース」
赤い稲妻がゴロゴロ……と、空も割れそうな程の爆音を響かせながら空から俺に向かって落ちてきた。痛みも感じるがそれ以上に、力を奪われる感覚を味わった。生命のエネルギーが吸い取られていく感じ、もちろん経験したことない。
更に巨大な魔王の体の周りには地面を削り切る位の巨大な竜巻が、それも複数個発生した。それらは基地に残っている賢者の孫達や他の仲間たちを襲っていった。稲妻のせいで正確には見えないが、赤い砂埃が舞っているのがうっすらと確認できる。赤い竜巻ではなく、普通の竜巻。これは、そうだ。
「助けて」
稲妻に体を焼かれながらも、周りは少しなら見える。そのせいで仲間を失う瞬間を見てしまった。名も知らない治安兵士のメンバーだが、彼は竜巻に身を取られ、何も出来ないまま地面に叩きつけられた。
他にも見える、木に激突して頭から血を流して、本人は意識を失っているだろうが竜巻のせいで飛び続けている人もいる。竜巻は人を襲い、人を宙に浮かせてから落としたりして殺す。魔王が生み出したやつ……か。
「ソルラマ」
人の魂を奪う呪文によって俺は魂を魔王に奪われた、つまり……死んだ。
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