第59話 お前を死ぬまで追い続ける
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幼い時から俺の中に入っている力の石はもちろんの事、ついさっき入れたばかりの時の石まで取り出せなくなっているようだった。彼らは深刻そうな顔のまま説明を続ける。
「貴方の遺伝子が石と依存していまして、無理に石を取り出すと貴方の命が消滅しますし、その上石の効力も消滅するかもしれません」
俺の命が消滅するだけならまだそれで良かったが、石の効力が消滅するとなると話が変わってくるな。石の効力が消滅したと仮定して、魔王は消えるのか。いや、魔王を消すためには石の力が必要だ。絶対にそれは出来ない。
と、ひとつだけ疑問に思っていたことを彼らに聞いてみた。
「呪文ってやつはどうしたら使える?」
呪文、クロースや彼らや魔王はいとも簡単に呪文を唱えて効果を発揮しているが、それは俺にも使えるのか。家系的な問題なら村長やティナだって使えるはず、だって彼女の両親が使えていたから。
「呪文耐性の訓練と、生命エネルギーの循環について学ぶ必要があります。循環の手法を間違えれば、周りの生命体が消滅する恐れがあるので」
……簡単に怖いことを言うな。周りの生命体が消滅するってのは恐ろし過ぎる。生命エネルギーという単語は前にも聞いたことはあるが、呪文にはそれが不可欠なのか。それで訓練はどのくらいで終わるんだ。決して今この場で出来るような物では無さそうだが。
「軽く10年はかかります。特殊な家系で無ければの話ですが」
特殊な家系、俺には無理だ。俺は至って普通の家庭で家系。力の石の保有者に選ばれた理由も無い、あれはあくまでもランダムだから。今から10年修行していたら、その前に魔王に殺される。
「……2人は幾つの呪文が使える?」
「それはもう数え切れない程に。強力な呪文は使えませんが」
どうやら魔王が使用している呪文は”強力な呪文”という括りに入るみたい。で、賢者や賢者の孫達が使用している呪文は”基礎呪文”という括りに。人を結界にする呪文も、あらゆる攻撃を防ぐ呪文も基礎なのか。
「いえ、結界を張る呪文が基礎的になのであって、人を結界にする呪文は多くの生命エネルギーを必要とします。彼女の両親は生命エネルギーを全て使い果たして……結界と化したのでしょう」
それでどんな呪文を使えるのか聞いてみた。
「例えば結界を変化させて足場を作る物や、攻撃を防ぐ物。形状変化で言うなら剣に加工を施す物や、盾を巨大にする物も。魔王にどの攻撃が通用するかは分かりませんが」
……ここで俺はある策を思いついた。これを皆に言うべきなのだろうが、とても良いとは言えない策。まず何十人かの死が確定している上に、成功する確率は極めて低い。力の石の効力を完全に理解していない以上、実行に移すのは難しいだろう。
「もう一度過去に戻れるのか」と聞いてみたが、残念ながら2人の生命エネルギーの残量的に難しいみたい。生命エネルギーの残量は数値で確認できないが、2人の間でなら何となく分かるみたい。
……だとしても、やるしかない。過去には戻らず、現在でケリをつける。
「作戦がある」と俺は周りにいるノーマッドメンバーや治安兵士の他のメンバーに話し始めた。
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治安兵士の基地に置いてあった剣と鎧を借りて、俺は外に出た。ハロス城から距離はあるが、魔王の体は大きいため暴れている姿がすぐ目に入ってくる。
塔の上で彼女は眠らされている。どうにかして助けなければ……助けられるのは俺しか居ないのだから、俺がどうにかするしか。
右手には基地に置いてあった剣、左手には治安兵士から借りた対モンスター用の盾、背中には力の石が付いた剣を差している。
俺の横にはユーゴとタイガとシータ。タイガとシータは怪我を負っているが、どうしても着いていきたいと言っていたので連れてきた。逆にジュリーとホークは待機。彼らには休みが必要だろう。
それと後何十人かの治安兵士メンバーが後ろに着いてきている。彼らも作戦には必要なのだが、皆暗い顔をしている。これから死ぬかもしれないと思うと、辛いんだろう。
「準備は万端だ」と、基地に待機している賢者の孫2人に伝える。俺たちは今基地の外に出ていて声は届かないはずだが、離れていても会話できる呪文があるらしく、それを使ってやり取りすることになった。
「タイガ、シータ、ユーゴ。もう戻れないかもしれないがいいのか?」
「大丈夫だ、今更後戻りは出来ない」
一応リーダーであるユーゴがメンバーを代表してそう答えた。頼りがいのある、活気のある声をしている。良かった、これで俺も少しは救われる。独りで挑むのは怖いが、何人かでならまだ怖くない。
「来たか、お前の妻は塔の上に捕らえられている。助けたければ私を倒せ、逃げてもよいがお前を死ぬまで追い続けるぞ」
手を掲げれば雲にも届きそうな程体が大きくなっている魔王は、基地を出てすぐの俺たちを視認して声をかけた。何か返してやりたいところだが、流石に言葉が思いつかない。
それに今、下手に魔王を怒らせてしまっては本当に後戻りが出来ない状況となる。ここは無視して、魔王との距離が500mになるくらいまで近付こう。
「あーその巨大な体で追うなんて止めた方がいいぞー。その前に体重を落とした方がー」
タイガは突然、大声でそう叫んだ。突然の事で何がしたいのか分からなかったが、考えても分からなかった。魔王を煽ったのか、仲間を目の前で失ってたりするはずなのに。
俺は魔王に背を向けタイガを問いただすと、彼は耳を指して小声で「2人の指示だ」と呟いていた。2人というのは、基地に残って呪文でサポートしている賢者の孫達のことだろう。ホークとジュリーがそんな指示出す訳ないしな。
「ほう、口の利き方が良いな。お前はすぐに出世する、もちろん天国への話だが」と魔王は目に見えて分かるくらいに怒っていた。巨大な紫の体は薄ら赤くなっていき、拳を握り締めている。体重のことを言われるのがそんなに屈辱的なのか。
魔王は「レミノウ」と唱え、呪文で空間を歪ませた。俺たちは呪文によって強制的に、魔王の足元まで連れてこられたのだ。その距離なんと200m、離れているように見えるが奴の体は巨大なため、すぐに踏み潰される距離に入ってしまった。
賢者の孫達は「歩く手間が省けた」と言っているが、これだと踏み潰されて終わる未来しか見えないが大丈夫か。
「一気に散るんだ、別の方向に」
遠くで呪文を唱えつつ待機している2人の指示の元、俺やノーマッドや治安兵士のメンバーは魔王から離れるようにその場から駆け出した。これは作戦外のことだが、作戦には繋げられるから良しとしよう。
「そんなに私と争いたいか、マイト・ラスター」
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