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第58話 お前みたいに強くない

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 基地と言っても簡易的な物だ。治安兵士が用意した簡易的なテントに、対モンスター用の剣や鎧が詰められている。周りには森があるためモンスターが出没するかもしれないが、それらを寄せ付けないための専用の柵も設置しており、今のところ何も見かけない。


 治安兵士のメンバーと思われる人は、ざっと200人近くいる。セントリー全体の治安兵士メンバーはもう集めたと言っていたから、これから他国のメンバーも増えるのだろうか。まぁ、200人近くの人が収まるくらいには大きい。物資が足りなくなりそうだが、それも治安兵士専用の車で運ばれてくる。


 というか、治安兵士ってこんなに技術を持っていたんだな。顔を変える技術だったり、モンスターを寄せ付けない柵だったり。まずメンバーの数も多い、これでいて治安兵士の存在は世間には明かされていないのだから凄い。どれだけ極秘に動いていたのかが分かる。


 ……いや、ポリスタットの時に思いっきり飛行船を飛ばしていたが……あれば大丈夫なのか。煙で若干見えにくく……無理がある。


 しかし今はそうは言ってられない。魔王討伐のためにじゃんじゃん飛行船を飛ばしている。今は3機くらいが青空を飛んでいるが、それらも魔王のたった一発のパンチによって墜落していく。


 中にも人は乗っているんだろう、と思うと空を見上げているだけで涙がこぼれそうになる。


「それで、今戦闘可能な人は?」と俺が問うと「ユーゴとホークのみ」と返ってくる。2人以外は戦闘不能なのか、これは痛手だな。


 シータはゴブリンに顔面を引っ掻かれ、タイガはバジリスクに右腕を噛まれた。ジュリーは魔王の「周りの木が全てナイフのような鋭利な物質になる」呪文によって体中を傷付けられてしまったみたい。確かに包帯を巻いていたがここまでとは。


 ユーゴとホークも怪我をしていないものの、ユーゴは扱い慣れていた大剣を折られてしまい、ホークは目の前で治安兵士の仲間が魔王の拳に潰されてしまい戦闘不能に陥るくらいの衝撃を受けてしまった。


 ユーゴなら新たな剣を使うか同じような大剣を治安兵士に頼んで取ってきてもらうかしてもらえばいいのだが、仲間を失ったホークを無理やり勇気づけ戦闘に復帰させることは出来ない。目の前で仲間を失えば、普通は前に進めないものな。


 でもやるしかないんだ。いくら出来なくても、世界を救うにはやるしか。彼は立派な討伐者であり仲間だから。


「ホーク、辛いのは分かるが行こう。仲間の敵討ちをするためにも魔王を討伐してそれで……」


「……はぁ?」


 ホークは基地にあるベンチに腰掛けながら、俺の発言を遮るようにそう小さな声で呟いた。言葉の意味は分からないが、何を言われたのかだけは何とか分かった。


 彼は俺が状況を説明している時も1人だけ俯いていた。流石に「俺の中には力の石が入っている」と言った時には立ち上がって唖然としていたものの、それ以外はずっと座って俯いている姿勢。


「お前は何なんだ、お前本当に過去に戻ったか?」と彼は口調を荒らげ、そう俺に質問した。


 彼はいつも優しく穏やか口調で、1人で何かを考えているような人だった。ノーマッドのメンバーは皆考えるよりも先に突き進もうとするタイプだが、ホークだけはまず考える人だった。だからタイガとも1回揉め事になった……ってのは前に言ったか。


「嘘なんてつく訳ないだろ」


「ならさっき、目の前で魔王に殺されたデリーシャのメンバーを見てどう思った?」


 ……彼とは違って、俺は一方的に死ぬ瞬間を見た。彼がその仲間をどう見届けたか知らない、遠くから見ていたのか、目が合いながら死んでいったのか、ホークを庇って死んだのか。


 俺は違って、勝手に覗き込んでいるだけ。魔王ともデリーシャのメンバーとも、何なら時の石を保護する賢者とも目が合わない。そりゃ、俺はその場に元々は居ないのだから仕方がない。


 それでも俺はきちんと見届けた。で、彼らの死を無駄にはできないから、俺は今立ち向かうとしている。


「知らねぇよ、死ぬのが怖いんじゃなくて……ただ単に怖いんだよ。テラみたいに潰されていくのも、モートみたいに高所から落とされるのも見て、それでも魔王に挑めってか? 無理なんだよ、お前みたいに強くないんだよ……」


 彼は珍しく声を荒らげ、眼鏡を取って髪を上げながらそう発している。いつもは冷静だが、この時だけは素を出して涙を流していた。


 そうだ、俺は何て大きな過ちを犯してしまったんだろう。俺は力の石に頼っているだけの人、それでも世界を託されたばかりについ気持ちが先走ってしまった。俺ももちろん悲しい、目の前でサタナが首を潰された時は吐きそうだった。


 でもそれ以上に「魔王を討伐しなければ」という気持ちが体中を駆け巡り、いつの間にか体は戦闘する体勢になっている。これは力の石由来の行動なのかもしれないし、それならホークは理解できない。


「分かった、ホークはここで休んで。とりあえず作戦を考えよう、行動出来るのはユーゴと俺だけだから……2人に見合った作戦を」


 これ以上の策を思い付かなかった。ホークを無理に誘うのはダメ、ならばホークを休ませるしかない。そうなると戦えるのはユーゴだけになるが、彼は大剣を失っている。対モンスター用の細い剣で本領は発揮されるのか。


 それにユーゴの顔にある古傷は既に目を侵食している。そのせいで片目が見えない状態となっているが大丈夫なのか。いつものモンスター戦ならどうってことはないが、何せ敵は魔王。本人は「大丈夫」と言っているが……やっぱり不安になってきた。


 ホーク、いや皆だが……ノーマッドには不可欠な存在だ。彼が欠けるだけで一気に不安になってくるのだ。ジェスが欠けると優しさを感じることが少なくなるように。どれもこれも意識したことは無かったが、今思い返してみると……繋がってくる。


「というか、そもそも魔王を討伐なんて無茶だろ。何か特別な策が無い限り」とタイガは言う。それはその通り。俺はまだ奴と直接戦闘はしていないが、奴の手下であったバジリスクも中々手強いモンスター。


 作戦を練るためにも一旦、周りにいる人達に話を聞いてみることにした。


「魔王は体が大きい。それに呪文も扱うから死角はない。強いて言うなら体の大きさ故に行動が重いが、それでも当たれば即死だろう」


「飛行船から弓で攻撃していても、足元で剣を使って攻撃していても何も効かなかった。新しい武器が配布されるのを待っているが」


「それよりも呪文だ、空間を歪ませるとか人間を別の場所に移動させるとか、無限に呪文が使えるのなら勝ち目は正直言って……」


 その他にも何人かの治安兵士メンバーに尋ねてみても、返ってくる言葉は大体似ている。「歯が立たない」とか「呪文が手強い」とか「勝てない」とか。同じ魔王を相手に戦っているからそれはそうだが、何か策を考えないと……無理だ。


 俺は焦っているのか。怖い、俺も怖いんだ。俺も怖いけど無理矢理前に進もうと誤魔化そうとしているんだ。何ならこの場から逃げ出したい人なんて沢山いるはずなのに、皆指示に従って立ち向かって行っている。でも歯が立たない魔王相手に全員死んでいく。


「マイト・ラスターさん。時の石についてなのですが……」


 考え事をしていると、クロースの孫である2人が深刻そうな顔で話しかけてきた。


「貴方の中にある時の石を取り出す呪文が……効きません。力の石も時の石も、貴方と同化しています」


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