第57話 今の俺たちでは勝てるはずがない
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魔王は俺たちと戦うつもりらしい。で、俺たちが勝たなければティナは戻ってこない。遠くてよく見えないが、塔のてっぺんで彼女は気絶している。強風が吹けば彼女は地面に真っ逆さま、呪文がいくつあっても助けられないだろう。
となれば、早めに決着をつける必要があるのかもしれないが、そもそも魔王には歯が立たない。魔王は強すぎる、それは過去を見ていても思った。二大賢者と呼ばれていたクロースやアキラですら、魔王に槍で貫かれて亡くなった。
呪文や結界で魔王を防いでいたはずなのに、それでも倒されたのだ。今の俺たちでは勝てるはずがない。なら、ティナだけをどうにか救いに行くしかないな。
俺はティナを助けたい。彼女のお陰で、今まで嫌な事があっても生きていけたのだから。全世界に正体がバレてしまった時も、ノーマッドのメンバーと話せなかった時も、さっきも。彼女が俺を支えてくれるから、生きていけるんだ。
これが家族なのか、よく分からないけども。
「ちくしょう、勝てる見込みが……過去はどうだったんだ?」と怪我を負い基地で待機しているタイガが俺に問いかけてきた。彼は俺が過去を遡っている間に、ハロス城前の魔王と戦闘し、奴が召喚したバジリスクによって右腕を噛まれたみたい。
そうか、6年程前にバベル城に現れたバジリスクは、元々魔王が召喚したものなのかもしれない。だから俺のことも知っていたし、不思議な力を持っていたんだ。それなら辻褄が合うな。
「壮絶な過去だった。魔王が----」と、俺はタイガや他のノーマッドメンバーに対して、見てきた過去の場面についてを話し始めた。
魔王が二大賢者を槍で殺したこと、ティナの両親が結界となって教会を守っていたこと、村長が全てに関わっていたことを。できればティナの目の前で話したかったが、彼女がここにはいない以上先に言うべきだ。
「----それで、デリーシャは俺のことを逃がすために追放して、その後魔王に殺された」
「じゃあハロス城を襲っていたのは?」とシータが尋ねてくる。彼も俺が過去に戻っている間の戦闘で、魔王が召喚したゴブリンに顔を引っ掻き回され、顔面傷だらけになっている。
「……魔王が召喚した偽物だと思う」
それしか答えられない。もちろん本物のデリーシャは既に殺されているから。サタナとソールは教会で、ガルとフィンの殺される瞬間は見ていないが……生きてはいないと思う。
「……あと、俺とその剣の中には力の石が入っている。俺の力が強いのも、オークを剣無しで討伐できたのも、全部石のお陰だった」
この言葉を発した時、皆唖然としていた。オークを剣無しでそれも一発で討伐する場面を見ていたノーマッドのメンバー達も、時の石を保護する賢者の孫として呪文を唱えている最中だった2人も、行動を止めて唖然とその場に立っていた。
「お前の中に石が? それは聞いていないぞ」
「それは何かの間違いだろ、知っていたのか?」
「それはデリーシャの4人にも入っていたりするのか?」と
メンバー達は、俺に石が入っていたという事実を目の前にして驚愕した様子を見せている。石が人の中に入っていて、それも今まで気付かずに生きてきたなんておかしいもんな。
4人にも入っていることを伝えると「だからあんなに強かったのか」と納得していた。討伐数ランキングでいえば、新聞の常連だもんな。
逆に時の石について最初から知っていた、クロースの孫である2人は「人に入れたまま生活できるのか?」とか「六分割して能力は据え置きなのか?」とか話し合っていた。
こんな時に呑気な、と思ったが今俺の中には時の石が入っている。俺が魔王に奪われれば、時の石も力の石も完全に手に入れることになる。
「俺は強くなくて、力の石が俺に力を与えてくれていたんだ。だから今までのも全部、俺のじゃなく----」
彼らに過去のことを説明していると、ある人物が突然会話に割って入ってきた。
「君は何がしたい?」と。
そう声をかけてきたのは、治安兵士の現リーダーのジャラ・ウーだった。ポリスタットでのバジリスク事件の時に上級階級である4人を逮捕した女性で、ノーマッドと同じくストーズ出身。どうして彼女がここに……と思ったが、そもそも彼女は治安兵士の人間であった。
「話は全て聞いている。急いでいるから敬語は勝手に省くが、どうやら君に世界の命運がかかっているみたいだ。だから全て君が決めろ」
突然のこと過ぎて、何を言っているか分からない。俺は今、2つの石を体の中に有している。取り出そうと賢者の孫達が準備を進めているが、いつどうやって取るのかも分からない。
それはそうと、俺に全てがかかっている上に俺が全て決めろなんて無茶だ。俺はただの人間……でもないが、俺にそんなことできる訳がない。
「と言っても君は過去に戻ったんだろう。私たちには到底理解できない物まで見たんだろう。こうしている間にも魔王はシティストを破壊している、だから君が決めろ。私たちは着いていく」
彼女は俺に全てを託そうとしてくる。責任を逃れたいのか、それとも単純に俺に向いていると思っているのか分からないが、このまま譲らないでいるとティナの命が危うい。
「……分かりました。魔王を討伐しましょう。俺とノーマッドと治安兵士で」と、俺は彼女に告げた。短い文章だが、言葉にするのは難しい。何があってももう二度としたくはない。
「了解。ホークとタイガを一時ノーマッドに戻す。治安兵士の応援も要請済みだ、私たち治安兵士は時間を稼ぐから、何かあったら連絡してくれ」
彼女は一方的に告げ、そのまま基地を飛び出して行った。彼女はどうするつもりなのだろう、指揮する立場として基地に残らなくてもいいのか。
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