第55話 黒いローブを着た彼
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背景はまたグルリと回転しながら変わった。次はサタナとソールが魔王によって魂を抜き取られた教会に来たみたいだ。ソールやサタナの死体は無く、代わりに教会の周りにはゴブリンがわんさかと湧いている。
古びた教会なため人は誰もいない。窓は割れて床も壁も崩れかけ、そんな場所に連れてこられて今から何が起こるのだろうか。
そういえばこの教会、1回来たことがある気がする……と思っていたが、あの場所だ。俺が謎の黒いローブを着た男に出会った場所だ。ここでその人に「私の故郷のウェール村を立て直してほしい」なんて依頼されたかな。
そうだ、彼は結局誰なんだろう。フードのせいで顔が見えなかった上、近付こうとしたらナイフを取り出されて離れろと言われた。だから正体は未だに分からない。
と、足音が聞こえた。これは、俺だ。俺は確か教会の清掃と聞かされてここに向かった。何でも屋の依頼リストに入っていたのは、教会内の清掃・農村の手伝いだけ。後者はウェール村のことを指しているため、どちらにせよ俺はウェール村に行くよう仕向けられていたのだ。
若い俺は何でも屋の存在を信じて、真面目に教会を訪れた。清掃するつもりでもいたが、何故か武器を持っている。それのお陰で助かった、ゴブリンを教会の周りで討伐できたから。
「ウギャギャ……」
過去の俺はゴブリン達によって円状に囲まれていた。が、体の小さいゴブリンを蹴り飛ばして逃げ、更に追ってきた別のゴブリンの首をズバッと撥ねる。それを見たゴブリン達は逃げていったため、軽く追い払いつつ教会の方へ向かって行った。
今思うと、あのゴブリン達は自然に湧いたモンスターではなく、魔王の力で湧いたモンスターなのだろう。前に見た、デリーシャと魔王の戦いでも教会にゴブリンが湧いていた。過去の俺はもちろん魔王の存在なんて知らないから、野生で湧いたゴブリンだと思って討伐している。
で、現在の俺は今教会のど真ん中の赤いカーペットの上に立っている。過去の俺は教会の入り口にいるが、まだ周囲のゴブリンを警戒している。
「お見事」
ちょうど過去の自身を見ていた時、背後から声がした。振り返って見てみると、斜めに倒れがかった十字架の前に黒いローブを着た男が手を叩きながら立っていた。ゴブリンを討伐した俺を褒めている様子だ。
彼の顔を見てみたいが、俺はこの場から動けないために見えない。で、彼も動かない上フードを深く被っているため、どちらにしろ見えなかった。彼の正体を知るにはどうしたらいいんだろう。
「ぼ、私が君を呼んだ。君に依頼をした。本当は教会の清掃じゃない。教会の跡地だ、ここにはもう誰も住んでいない」
過去の俺は気付かなかったが、今なら分かる。
彼の本当の一人称は「僕」だな。あの時はゴブリンとの戦闘で疲れていたのもあってスルーしていたが、彼は「僕」と言いかけている。わざわざ一人称を変えてまで俺に話したかったのか。
「それより、君に依頼がある。ウェール村を立て直してほしい。私の故郷なんだが、私はもうじき遠い地へ行かなければならない----パーティーをクビになった君ならや----」
それにしても、何故彼は俺がパーティーから追放されたことを知っているんだ。俺はその時追放されたばかりで、酒屋の主人とかにしか話していない。
まだティナにも村長にも会っていないが、村長は俺の存在を昔から知っていたみたいだし、彼の正体は村長に関わる人間なのかもしれない。それなら候補は限られてくる、俺が知らないところで交流を持っていたら分からないけど。
と、ここで過去の俺は一歩だけ、黒いローブを着た彼に近づいた。パーティーから追放されたばかりなのに、それを知っているのはおかしいから。怪しんでもいるし、不思議でもあるから。距離が離れているのもあるけど。
しかし彼はたった一歩分しか距離が縮まっていないのにも関わらずナイフを取り出して「来るな!」と叫ぶ。どうしてこんなに狼狽えるのか。流石にナイフを向けられた過去の俺は怖くなり、その場で立ち尽くした。
「どうしてパーティーをクビになったことを知っている? それに、俺が代わりなんてできるのか?」
「君以外でも務まるかもしれない。でも、君しかできないことなんだ。ぼ、私が君の過去を知っているように、運命って物が世には存在する。君は運命に沿って幸せな道を----いや、私の故郷を助けてやってほしい」
過去の俺の「どうしてクビになったことを知っている?」という質問には触れずに運命についてを彼は語り出した。運命に沿って幸せな道を……? 俺は彼の言う通りに運命に沿って道を歩んだつもりだが、これは合っているのか。というか、彼は本当に何者なんだよ。
「君は変わっていないな----」
彼はそう言いつつも俺たちに背を向けて、奥の倉庫の方へ歩いて行った。そのせいで後ろの方の言葉が聞こえなかったが……歩ける!
何故だか分からないが、今の俺は歩けるようになっていた。今までは直立不動で、周りの背景が変わっていっただけなのに対して、今の俺は自由に足を動かせるようになった。仕組みは分からないけど、歩けるのなら近づいてみるしか。
「----正義感は強いし、皆が君を逃がそうとした理由、今なら分かるよ」
俺を逃がそうとした理由? 逃がしたというのは、デリーシャでの話か。追放してウェール村に預けることによって魔王から逃がすという力技の……なら、彼の正体は……もしかして。
彼はフードを取り、現在の俺の前に本当の姿を見せた。過去の俺は「来るな!」という言葉を忠実に守り、本当にあの場より先に行かずに、ゴブリンを埋めて帰っている。それに彼は今、俺が目の前にいることを知らない。
「ごめんな、マイト。顔、見せられねぇんだよ」
彼は黒いローブを脱ぎ捨て、倉庫から去っていった。彼の正体は……デリーシャのメンバーで、ガルと共に生き残った……フィンだ。魔王によって顔面に傷を付けられており、そのせいで右目が開いていない。その傷と顔を隠すために、彼はフードを被っていたのか。
彼は教会に過去の俺がいないことを確認し、外に出た。そうして草の生い茂った地面に剣を突き刺し、何かを唱えていた。何かの呪文か? モンスターを復活させるとかそういう----のじゃなかった。
「ごめん、サタナ、ソール。僕もガルもそっちに行くからね」
もしや、もしかしたら、俺とホークとジュリーが6年くらい前に見つけた人の骨は、サタナとソールだったのかもしれない。ちょうど頭蓋骨が2つあったし、何より今フィンが剣を突き刺している場所でジュリーが見つけていた。
恐ろしい、怖い、もう見てられない。
そう思っていると、突然背景が崩れた。真っ黒な空間に包まれた俺は恐怖のまま倒れそうだったが、また足が棒のように動かなくなったため、何も出来ずに真っ暗な空間に飲み込まれていった。
どうしたら、俺はどうしたらいいんだ。
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