第53話 生命の魂
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俺たちデリーシャは、討伐パーティーとして活動を始めてからすぐに優秀賞を頂いた。ゴブリンの王とされる存在をたった5人で討伐したから。
大人の討伐パーティーでも敵わないとされていた存在だったのに、それをたった5人で。
あの時は信じられなかった。メンバーは「運が良かった」と口々に言っていた。ゴブリンの王が沼に落ちたから、動けなくなっている隙に狙うことができた。確かに運もあったが、それ以上に体が素早く動いた。
何だってその時はまだ訓練所に通っていた頃。ゴブリンの討伐の仕方を習っていた頃で、ゴブリンの生態を勉強させられていた頃。そんな若造共がたった数分で討伐できる訳が。
それらも全て繋がった。俺たちの体の中に力の石が存在していたからだ。
力の石のお陰で力を手に入れ、それのお陰でモンスターを軽々討伐することができた。ゴブリンやオークといった下級モンスターでは飽き、もっと高みを目指すようになった。
ちょうどその時期からデリーシャに憧れて討伐パーティーを目指す人達が増えたのもあって、俺たちはより高みを目指し希望を与える存在へと変わっていった。人生の転機でもあったが、それも全て力の石のお陰だ。
もちろんそんなに有名になっては魔王に目をつけられる。しかし有名にならなくても力の石を求める魔王は、俺たちのことを特定していただろう。だからガルやサタナは討伐パーティーを結成して、どうせ特定されるのなら強くなっておこうとしたのだろう。
実際に強くなれたし、オークやリザードなら手だけで討伐できるようになった。シャリアのメンバーやティナに驚かれ「どうなってんだ?」とか聞かれるくらいに。
結局、デリーシャの正体は……力の石を持った人間の集まりだった訳だ。寄せ集めでも何でもなく、アキラの孫であるサタナが皆を集めた。討伐パーティーとして活動することによって、モンスターとの戦闘に慣れておく。結果的には慣れたが。
ここまで分かったが、俺を追放した理由はまだ分からない。そう考えていると、背景が変わっていった。4人の姿は残っていたが、服装が戦闘服になっていき鎧も着ていれば剣も持っている。
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森に囲まれた教会の中に、鎧を着て剣を持った4人が石碑を前に立っていた。石碑と言っても、文字が書かれた石の塊。それが何故か教会の真ん中に生えている。人間が置いた物じゃない、床から突き出して生えているように見える。
それにしても、この教会……見たことがある。時の石の賢者の孫達がいた教会ではないが、人生で1回くらいはここに訪れたことがあるはず。
「今日が魔王の封印解放予定日だが……まだ封印されているのか」
ガルはそう呟きつつ、石の塊を触らないように避けながら辺りをうろつく。魔王が封印から解かれる日、石の塊を避けているのを見るに……塊の中に魔王が封印されているのか? それなら何故彼らはわざわざ魔王の元に赴いている? というか俺は?
「マイトは今頃何をしているんだろうな」とソールが俺のことを話題に出してくれた。幼馴染ってのもあり心配してくれているんだろうな。
しかし他の3人は「あいつのことは放っておけ」としか言わない。少しくらいは俺の心配をしてほしい。というか俺はどこにいるんだ、魔王の討伐に呼ばれなかったのか。確かに事情は知らせないとか言っていたが。なら今は何年だ。俺からすれば時は一瞬で過ぎるから、今が何年か分からない。
「もう解かれているぞ」
何者かの低い声と共に、ソールが何処からともなく現れた赤い槍によって、心臓を刺された。人間の身長を超えるくらいの長い長い槍を、紫色の体をした奴は軽々と持ち上げている。奴……魔王か。魔王の封印はもう解かれていたのか。
魔王は彼らの前に姿を現した。巨人よりは少し低めだが、言葉を発し2本の槍を上手く扱う魔王が、直々に彼らの目の前に。ソールの方を見たかったが、俺は足が動かないため何もできずに悔やむしかなかった。
ソールは心臓を貫かれ、息もできない様子だった。槍の重さに体は耐えきれず、地面に突き刺さった槍によって助けられているようにも見えた。実際にはもう死んでいるのだろう。
「ふざけんなよ、ソールを返せ!」
ガルはそう怒り叫びつつ、剣を持ったまま魔王に向かって突進するも謎の呪文によって吹き飛ばされた。遠くから弓で魔王のことを撃っていたフィンは、魔王の逆鱗に触れたのかその鋭い爪で顔を引っかかれ、右頬には大きな3本の切り傷が残った。
残ったサタナは剣を持って立ち向かおうとしたものの、瞬間移動した魔王に後ろから首を掴まれて……そのまま握り潰された。
「サタナ……ソール……」
俺は呟くことしかできない。実際呟いたところで魔王にも残った2人にも声は届かない。彼らの声は届くが、会話はできない。何とも不便なシステムだ。
「てめぇ……本気で殺してやる。本気で……ギッタギタに潰して……グフッ」
仲間を失ったために怒り狂っていたガルは、またもや魔王の謎の呪文によって吹き飛ばされる。弓を使っていたフィンは顔からの血が止まらずに、古びた教会に残っていた布で顔を拭う。
「あまり君たちを傷付けたくはない。私は世界を征服できればいいのだから」
魔王は2人の前に姿を現し、何故か手を差し伸べた。
「だから力の石を渡せ。そうすれば君たちは救われる」
ガルとフィンは一旦目を見合せたものの、予想通り魔王の要求を断り、魔王に向かって渾身の一撃として手に剣を突き刺した。
が、しかし攻撃はすり抜け剣は虚しく地面に突き刺さるだけだった。ガルとフィンは逃げようと試みたものの、魔王の部下であろうゴブリンに周りを囲まれてしまい逃げられなくなっていた。
「魔王を前に、人間は無力。石は貰っていくぞ」
魔王はそう言うと、槍によって心臓を貫かれたソールの元に行き、彼の顔に巨大な手をかざしてある呪文を唱えた。
「ソルラマ」と。それもたった1回だけ。魔王がそう唱えると、ソールの頭から虹色に光る小さな球体が浮き出てきた。それは力の石なのか、いや流石に違うか。虹色に光っているから、また別の物なのだろう。
また別の物だとしたら何だ?
「何だよその虹色の玉は、ソールに何をした?」とガルが、俺の代わりに質問してくれた。というか誰でも疑問に思うよな、目の前で人から虹色に光る玉が出てきたら。
「簡単だ、生命の魂。力の石ごと抜き取る」
サタナは教会の椅子のせいで見えにくい位置に居たが、俺は移動できないため見えにくいまま。彼女の首は魔王によって握り潰されたから、魔王は彼女の体を手をかざしてから、ソールと同じように魂を抜き取った。
「力が入ってゆく、力が……ぁ」
魔王は魂を飲み込んだ瞬間から悶え始めた。首を抑え、魂を吐き出そうとしているようにも見えたが奴は吐き出さずに無理やり飲み込んだ。ソールとサタナの魂を、それも力の石が入っている2人の魂を飲み込んだんだ、絶対何かが起こる。薬で言うところの、副作用ってやつとか。
思っていた通り、奴は悶えた後紫の煙となって石の塊の元に戻っていった。もう姿は見えないし、ガルたちからしても見えない様子。これは封印できたのか、それとも奴が逃げて帰っただけか。
「……クッソ。俺のせいだ、俺のせいで2人が殺された」
「一旦落ち着こう、今はこの場を離れなきゃ」
ガルが苦しく悔やむ中でも、フィンは彼を励まそうとしている。2人は教会から離れようとしたものの、魂を抜き取られた2人の死体が目に入った。彼らは魂を抜き取られて殺されたが、もちろん死体は残る。
「置いて行くしかない、または後で埋めよう。ガル、僕たちは覚悟を決めなきゃ」
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