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第50話 俺は過去に来ているんだ

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 ここはどこ。


 俺は……マイト。マイト・ラスター。


 俺は何しにここに。


 そうだ、俺は過去を遡って、過去に干渉するために来た。魔王とかいう奴を倒して、世界を救うために。目の前で失った命を無駄にしないためにも、俺がやるんだった。


 しかし、本当にここはどこなのか。辺りは真っ暗で何も見えない。床も見えないから不安でしょうがない。賢者の孫達に縄で縛られていたが、今は縄もなく手なら自由に動く。


 問題は足。何にも縛られていないのに、何故か一切動かない。床と足が接着されてしまったのか、いや、何も分からない。感覚は存在するが、動かそうにも動かない。


 それでいて周りは何も見えないから……本当に過去に戻ったのかどうかすら怪しい。俺は今どこにいるのか。過去なのか、どこかに閉じ込められたのか。


 そう考えていると突然、周りの景色が変わった。黒一点の世界から急にどこかの研究所の室内へと。俺の立っている位置を中心にして、円状に景色がどんどん変化していく。本棚やソファ、机までもが現れ始め、人間の理解だけでは追いつけないくらいに世界が広がっていった。


 日付らしき物が書かれた板を見てみると、そこには「XXXX年/12/9」と記されていた。今はXXXX年の12月9日、昔じゃないか。俺が居た時代から約30年前のこと。俺は生まれているが、まだまだ子供だ。


 変わったのは景色だけじゃない。研究所の室内に居る人まで描写され始めた。見える範囲だと中には3人、白いローブを羽織った老人と、若い男女2人。彼らの話し声まで聞こえる。


「……魔王の封印が解かれたら、私たちはどうすれば良いのでしょうか?」と、若い女性が老人に尋ねる。


 老人は深く被っていたフードを取り、沢山の本が積まれてある机の前に立って話し始めた。


「魔王はもう倒せん。封印できたとしてもすぐ復活する。ならば……アキラの力を借りよう。前よりも深く、手を取り合わなければ」


 アキラ……力の石を保護する賢者の名前だったか。


 と、机の前に立っていた老人が、机の中からとある箱を取り出した。茶色の箱で何重にも鍵が掛かっており、その上ホコリも溜まっている。


 老人は鍵を机の中から取りだし、ひとつひとつ丁寧にゆっくりと開けていく。これだけ鍵が何重にも掛かっているのだから、きっと大切な物が入っているんだろう。


「開いた」と言って老人が取り出したのは……あの緑色に光る小さな石だった。時の石、今俺がそれを使って過去に戻っている。となると、本当に俺は過去に戻ったのか。体は動かないが、成功したのか。


「時の石を封印する。これがあれば世界をやり直すことができてしまう。力の石が魔王に取られれば、その時はこれでやり直す」


 俺の中に入っている時の石は恐ろしい力を持っているな。世界をやり直す、これは人間が生まれる前にまで戻すことができるのか。もし力の石が魔王に奪われたとしても、時の石を使って奪われる前に戻れば、またやり直すことができる。


 なるほどな、だから時の石は結界によって保護されていたのか。しかし村長の命を犠牲にしてそれは破られた。大切な命だが、1人の命だけで結界が解かれるのは……どうも簡単過ぎる気がする。


 それなら魔王でも簡単に開けられるのでは。




「フォルス、ウール。もう時間は無い。娘に会うのだ、最後に話して来い。ワシも孫達と遊びたい。あと数日で封印は解かれる、それまでに思う存分」




 目の前にいる老人が発した言葉の中に、俺も知っている単語があった。フォルス、ウール。俺がシャリアに入った時、偽名として使っていた単語だ。名付けたのはティナ、確か事故で亡くなった両親の名前から取った……と言っていた。


 もしや目の前にいる若い男女2人は、ティナの両親か。言われてみれば、ティナに似ていなくもない。髪型は変わっているが、目や鼻は特に。


 それなら老人が言っている孫達というのも、時の石を持っていたのも……全て繋がった。


 俺の目の前にいる老人は、時の石を保護する賢者・クロース。孫達というのは白いローブを纏っていた、賢者の孫達。


 俺は過去に来ているんだ、これは本当だ。


 そう確信した瞬間、また景色が変わった。次は白い教会の中。ここは俺も来たことがある。何ならさっきまでいた場所だ。デリーシャの襲撃で怪我した俺たちを保護し、孫達に真実を知らされた場所。俺たちがいた地下室は無かったが。


「おお。アイ、ウィドウ、元気だったか」


 そう言いつつ老人が抱きかかえているのは、2人の赤ちゃん。男の子で、2人とも彼に抱えられた瞬間ドタドタと暴れ始めた。床に落とさないように必死に踏ん張る彼、見ているだけで大変さが伝わってくる。俺はランが大人しい子だったから何も大変なことは無かった……な。


「2人を見てくれてありがとう、トリガ」


 トリガ……これも聞いたことがある単語だ。確か、ティナの祖父でウェール村の村長。トリガと呼ばれた男の顔を見てみると確かに村長に似ている。白髪混じりで黒い髭を生やしており、今の白髪白髭と比べてだいぶ若く見える。過去だからそりゃそうか。


「トリガは若い時から手伝ってくれた。愛する妻を亡くしても休まずに、ウェール村を守りながらも一緒に戦ってきた」


「いいえ、俺は都市のヤツらが許せないだけで。愛する”シルク”の命を奪ったのも、ポリスタットの上級階級のヤツらですから」


 トリガと呼ばれている男は教会の椅子に座ったままそう答えた。目には涙を浮かべており、”ヤツら”に対しての怒りを表しているように見える。


 俺はティナからも村長からも、彼の妻でありティナの祖母の話を聞いたことがない。それが間接的に、今明かされた。都市のヤツら、ポリスタットの上級階級のヤツらによって命を奪われた。それがどういう経緯かは分からないが。


 男2人で真剣に話し合っているのを、何も干渉できない俺が勝手に覗いているという構図になっている。何も干渉できないのだから、会話に入ることすらできない。今なら尋ねたいことが沢山あるのに。その本人は目の前にいるのに、聞けない。


 と、ここでまた景色が変わった。


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