第49話 俺は待っているから
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結局、村長は最後まで秘密を隠し通した。彼に聞きたいことが沢山あったのに、俺だけでなくティナも。
彼は自らの体が消滅することを分かっていて、あんな行動を取ったのか。秘密を隠し通したいがためにやったのか、未来を守るためにやったのか。俺は後者だと信じたい。
よく分からないまま、時が過ぎていく。
ただこのまま呆然としていても、魔王とかいう奴に結界を破られてしまう。破られてしまえば、時の石も奪われるだろう。力の石が今どうなっているかは分からないが、どちらにしろ奪われるとなると痛い。
だから、行動しなくちゃいけない。
「俺、行きます。過去に」と賢者の孫達に告げた。村長の死を無駄にはできない。彼が自分の身を削ってでも開いたのだ、それを無視しておくことなんてできない。
「お前、自分の体がどうなるか分かるのか? 俺も分からねぇのに……そのまま消えたらどうすんだよ」
「1回テストしてから、命の保証を得てからにしよう」
ノーマッドのメンバーたちは俺に時を遡るのを止めるよう提案してくる。それもそうだ、体が大丈夫かなんていう保証は無い。精神的干渉が正しいのか、肉体的干渉が正しいのか、どちらが正しいのか分からないまま遡るのも危険だ、それは分かっている。
しかし行動に移さないと、もっと被害が拡大する。俺とティナみたいに、家族を失う人が増えるんだ。時間も無いと言われたし、今やってみるしか……方法は無い。
「お前……無理すんなよ」と、タイガがボソッと呟いた。
「お前は自分の追放された理由が知りたいからシャリアと村の立て直しを手伝った。それなのに村長には何も教えてもらっていない。お前はそれを受け入れて、今もだ。今も流されて無理している。お前は自分の意志を持て」
タイガは机をガンッと叩き、俺の目の前でそう言った。
それは全て否定できない。俺は自分の追放された理由が知りたかったから、シャリアとウェール村を立て直した。で、今日の今日まで……理由は教えてもらっていない。当の本人は理由を話さないまま死んでいった。
今までは村長に文句も言わずに頑張ってきた。文句を言いたい日もあったが我慢した。理由を知りたいから。「何でこの人が知っているんだ」って、村長からそれを聞いた日からずっと。
でも今はもうそれどころじゃない。
下手すれば魔王とかいう奴に世界を征服されてしまうらしい。実際に目の前でデリーシャに騙られ、多くの被害者を出した。ランも酒屋の主人も元何でも屋の主人も、今さっき村長も失った。
これも全て、魔王が居なければ起こらなかった事態だ。魔王が居なければ、生活は変わっていた。俺は今でもランとティナと一緒に暮らせている。どちらにせよ追放はされるかもしれないが、最悪の未来は訪れない。
もう俺はそれだけでいいんだ。
「だから聞いてたかよ。無理すんな、お前はお前がやりたいことをやれ。『村長が死んだから、村長の死は無駄に出来ないから』とか考えてんだろ」と、タイガは俺の胸倉を掴みつつ目の前でそう発した。
言われてみればその通り。村長の死を無駄にできない。その通りなんだよ。でも俺にしかできないとか、俺に世界を託されたんだ。言葉上のやり取りだけどな。
「過去に遡れんなら、ジェスに会ってこい。もう何でもいい。意志を持ちたいってお前が心から願った時でいい。俺は”今”で待っているから」
タイガがそう言った時、俺はふいに彼のことを抱き締めていた。心が不安定な時にジェスの名前を出されたからか、彼の心強い言葉に感動し、俺の弱かった意志が彼によって支えられた気がする。
気づけばノーマッドのメンバー全員で抱き合っていた。俺が過去に遡るから、それの船出を仲間として祝って、心配しているだけ。決して永遠の別れなどではない。過去に戻って……何をするんだ。
「トリガさんが結界を開けたお陰で、私達は生き残りました。これから貴方を”肉体的干渉”で過去に送ります。過去に干渉できたのなら、二大賢者と協力して……魔王を討伐してください」
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俺は地下室のソファに寝かせられ、彼らに手足を締め付けられた。どうやら過去への転移には痛みを伴うらしく、ソファから落ちたら一からやり直しなため、無理やり剣と縄で痛みを抑え込むみたい。
「それでは皆の生命エネルギーをお借りします。すぐに回復しますのでご安心を。帰還予定は今から1時間後。たった1時間ですが時の流れが違うため、貴方なら全ての工程を終えられるかと思います」
専用の器具と縄に押さえつけられた俺は返事もできない。何せ口元も押さえられているから。少し首を動かすくらいがやっと。既に辛いのだが、ここから痛みが伴ってくるとか。
「それでは」
2人は俺の腹に手を置いて、呪文を唱え始めた。タイガもユーゴもティナも、俺の顔を見て不安そうになっている。シータとジュリーとホークの顔は隠れて見えなかったが、不安な顔をしているに違いない。
「プラオマ、プラオマ。パルマ、パルマ。ハレルヤ、ハレルヤ……後1つです。準備はいいですね」
特に痛みも何も無いため、コクっと器具が取れないように小さく頷いた。
「それでは今度こそ。カイヤ・カイヤ。マガタ・マガタ……ローズ」
痛みも無く、何も無く言い終えたのかと思った次の瞬間、今までに経験したことの無い激痛が俺の体に走った。
緑色に光る石が、ゆっくりと俺の体に埋め込まれていく。ヌポッと生々しい音を立てながら、勝手に入っていくんだ。ああ、やめてくれ。俺の体をすり抜けて、石が入っていく。
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いしが合わさった時、奇跡が起きる。
ひろ。
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