第48話 魔王を呼び起こした
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「事の発端は今から30年以上前、都市の人間が森を開拓し始め、魔王を呼び起こしてしまいました。魔王が欲しがったのは2つの石、時の石と力の石です。魔王は時の石を持つ賢者・クロースと、力の石を持つ賢者・アキラの命を狙いましたが、2人が協力し合い何とか封印することができました」
賢者の孫2人は、ロウソクの火と魔法で影絵を作り出した。俺たちが何も知らないから、図があった方が分かりやすいのかもと気を使ってくれたのだろう。
2つの丸い影は宙に浮かび、後ろにいる悪魔みたいな角の生えた奴に奪われそうになったが、ある2人が丸い影を取り戻しつつ悪魔にバツ印を付けた。
「しかし封印も長くは続かず、10年程で解かれてしまいました。今度こそ石を奪われる……そこである提案が。それは、いしをごと----」
ガシャン!!
彼らの話と影絵を中断するように、外から何かの割れる音が聞こえた。これはもしや……教会を守っている結界をこじ開けようとしているのか。外にいる誰かが。
「すみません。早くしないと……マイトさんには時を遡ってもらいます。とにかく……私達が犠牲になって結界をこじ開けるので、マイトさんはソファで寝ていてください。私達のうち生き残った方が、貴方を過去に戻します」
彼らは勝手に作業を始めた。俺からしても他の人からしても理解が追い付いていない。魔王って奴はモンスターの王で、全ての世界の征服を目指している。それで時の石と……力の石とかいう2つの石を奪おうとしたが、却って封印された。
力の石を管理していたのは……確か、サタナの祖父とか言っていたような。サタナってあのサタナか、デリーシャのメンバーで俺たちと切磋琢磨した仲の。
それに、デリーシャのメンバーの死って何だよ。アイツらが俺に黙って静かに死んでいったってことか。もうよく分からない。知らないし、分からないことが多すぎる。
「マイトさんはそこのソファで。リラックスして待っていてください」
俺の意見も聞かずに、彼らは無理矢理寝かしつけてくる。説明もまだ済んでいないのに「早くしないと」とずっと焦っているから聞くに聞けない。
しかしここで、声を上げる者が複数人。
「あいつの体はどうなるんだ? 意味分からない物を押し付けるな、お前達が過去とか何とかを遡ればいいだろ」
「助けてくれたのは感謝する、でもイマイチ話が呑み込めないんだ。何より疑わしい」
というように、ホークとタイガが声を上げてくれた。何も言っていないシータとジュリーは賢者の孫達を睨みつけ、ユーゴに至ってはその大剣のグリップを強く握り締めている。
「そう……そうだよ。おじいちゃん、何で私たちに言わなかったの? もう子供じゃないんだから、真実を言われたって分かるのに……何で……」と彼女も声を上げ、村長と2人に訴えかけた。
そうなんだよ、もうティナは子供じゃない。村長が思っているような幼い人間じゃないんだ。村長は秘密主義が過ぎる。2人は真実を言ったんだ、村長もティナに何か話すべきだろ。例えば……両親の話とか。
……とか考えていると、村長は杖をついて立ち上がり、ティナの手を握ってこう言った。
「お前の両親は立派だった。最後まで未来とお前を気にかけていた。俺は祖父失格だ、孫に話すべき事……沢山あったのになぁ……失敗だ」
外から結界をこじ開けようとする音が聞こえてくる。ガシャン……ガシャン……と、それはもう何度も。杖をついた村長は立っているのも精一杯、今すぐに座りたいだろうが立ったまま、今度は両手でティナの手をガシッと握った。
「俺は祖父失格で、村長失格だ。過去は俺には変えられない。それでも、力を持った青年なら……変えられるのだ。世界を救うのは、力を持った彼なのだ」
村長は転倒するくらいに泣き崩れつつも、杖をついて時の石を保護する結界の前に立ち、ティナや俺たちには背を向けたまま話した。
「ティナ、今まですまなかった。ランも俺のせいだ……過去を悔やんでも悔やんでも、残されたのは死か未来か。後悔は残されていない。後はマイト・ラスター。お前が全てだ」
村長は杖を手放し、石を保護する結界を両手で抱え込むように触れ出した。バチバチ……といった電気の走る音が狭い地下室の中で響き渡る。結界は徐々に白く光り始め、周りは白い光で包まれていった。
結界をこじ開けようとしているのか、俺とティナで村長を止めようとしたが彼の体には電流が走っており、どうやっても止められなかった。シータはユーゴといった力持ちが加わっても、結果は変わらない。
「最後に……ツ--・----。--を--ための呪文だ」
白い光が収まった時、村長は居なかった。部屋の外に出た訳でもないだろう。代わりに時の石を保護する結界が消滅していた。村長は老いた自らの体を犠牲にして、石の結界を解除したのか。
そして彼は最後まで秘密を話さなかった。別れ際に、一方的に言葉を投げ付けて……そのまま消滅していった。残された人たちの気持ちなんか考えずに、何かの呪文を残して。光と電気の走る音のせいで大部分が聞こえなかったのは痛い、彼の最後の言葉なのに。
狭い地下室の中では、ティナのすすり泣く声だけが響いていた。
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