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第40話 無能であるマイトを追放

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 シティスト中心部にある城・ハロス城の前には既に人だかりができていた。人でごった返しており、見えるのは皆の髪の毛だけ。デリーシャのメンバーが居るのかすら分からない程だ。


 城近くにある高い建物に登って見ている人もいる。建物の屋上からの方が見えやすいか、でも下に居た方が何があっても動きやすい。下のままで。


 しかしここまで人がいるとは。デリーシャの人気が、今も薄れていない……ってことだな。そうやって呑気に受け取っておこう。それに、実際にもそうだろうな。または単なる便乗か。


 覆面もしていない俺が、普通に人混みに紛れ込んでいるのにも関わらず、誰も気が付かない。一応はデリーシャの元メンバーだ。気付かれたいという欲求があるのか、それは厄介だな。


 それでも一応は、ポリスタットを救ったパーティーのメンバーで勇----


「これはこれは、マイトさんでしょうか。子供たちがファンでね。このナプキンにサインを書いてくれないか」


 人でごった返している中、ある老いた男に話しかけられた。白髪の彼は、どこかのレストランに置いてあったナプキンに、俺のサインをしてほしいと願ってきたのだった。


 サインか……署名の時しかやったことがないな。それは正式に名前を書くものだからまた違うか。ファンにサインを求められるなんて初めてだ、彼の子供は俺のファンなのか。そうか。


 しかしサインなんて書いたことがないから……もちろん慣れていない。彼を待たせてしまっては悪いため、渡されたペンで慣れた手つきを装いながらもサラサラと書いていった。少し手が震えていたからそれも隠しつつ。


「おお、これは子供が喜ぶよ。ありがとう」


 彼は俺の手を握った後、自分自身の鼻をトントンと軽く叩き始めた。


 鼻が痒いが故の行動じゃない。


 彼の顔は徐々に変形していき、老いた男性の顔ではなくなっていった。シワは消えていき、白髪も消えていった。代わりに現れたのは黒い肌。何が起きたのか、魔法なのか。驚きを隠せないでいると、彼の顔は少しずつ見慣れた顔に変化していった。


「久しぶりだな、マイト。上手なサインだ、手が震えているのは少々気になるが」


 横にいたのは……タイガだった。


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 人混みの中で会話をしても、周りの雑音に自分の声が負けてしまうため、一旦レストランを訪れた。ハロス城の近くでここも人が集まっているが、屋外よりはいいだろう。


 レストランは建物の3階にある。タイガは席を予約していたらしく、ガラス越しにだがハロス城を眺めることができる、いわば良席だった。外は騒がしいためガラス越しでも音は聞こえる。カウンター席で、椅子の座り心地だけは悪いが。


「どうせ来ると思って探していたんだ。そこにお前は目立った荷物で突っ立っていた。お披露目も兼ねて、お前にサインを求めた。上出来だな」


 どうやらその顔を変えることのできる不思議な覆面は、治安兵士の新たな武器らしい。名前は”ミスティー”で、姿を変えることのできる青い魔女が名前の由来。で、俺を騙すために装着したとか。初めてサインをお願いされたのにな。


「落ち込むなって、お前に話したいことがある。紅茶は俺の奢りでいい」


 彼は紅茶を1杯、ゴクゴクと一気に飲み干すと急に話し始めた。


「今回のデリーシャの件、どうも怪しい。8年目撃情報の無かったデリーシャメンバーが急に復活か? 有り得るか、有り得ない」


 タイガの言う通り、有り得ない。


 ぶっちゃけ、心の奥底では「誰かが嘘をついて、それが広まってしまった説」と「話題集めに苦労した会社や団体がエサとしてデリーシャの名前を騙った説」を唱えている。あくまで俺の中での話だが。


 誰かが嘘をついてしまったのなら、それは噂の広まる速さに恐れる。実際に経験しているからな。エサとしてデリーシャの名前を騙ったのなら、ここまで人が集まってしまって主催者は後悔しているだろう。


「今回、秘密裏に治安兵士が調査を行っている。お前も対象だったがそれは後で話す。ここ20年のデータベースを覗き、デリーシャが討伐活動を行った位置とモンスターの関係性を調べたが、それは関係なし」


 彼は俺の紅茶も勝手に飲み干しつつ、自身の上着から大量のメモを取り出した。そこには……不思議な言葉が書かれてあった。


『魔法使い、錬金術、デリーシャ、世界、Ju』


『賢者、フィン、サタナ、ウィール村、St』


『二大、都市伝説の範疇、悪魔の子、パワー・コンテスト、St』


 所々読めない文字があったが、それは彼にも読めないみたいだ。他の治安兵士のメンバーが書いた物を複製したと彼は言っている。


 それにしても不思議だ。


 デリーシャのメンバーであるサタナとフィンの名前だけが書かれているが何か関係あるのだろうか。それに魔法使いや錬金術。それらはあくまでも空想の話だろう。


 昔、魔法とか錬金術という技があって、錬金術師となる者もいれば、魔女と呼ばれる者もいたとか。徐々に人類に恐れられて、最期は魔女狩りとか起きて途絶えた。

 そんな逸話を聞いたことがある。もちろん空想の世界の話だと思っているし、言葉通り『都市伝説の範疇』だろう。


「あくまで……そうだ。その通り。俺だって信じていないが、モンスターの仕組みだって分からない今日。これで助かるのなら信じてみたいさ。それに----」


「----お集まり頂きありがとうございます。デリーシャの……」


 タイガの言葉に被せるようにして、外から大きな何者かの声が聞こえた。デリーシャと言っていたし、あの声質……もしや、ガルか。


 急いで立ち上がり窓の外を見てみると、ハロス城の前の広場にはあの4人が立っていた。メモに気を取られて窓の外を見ていなかったな。


「----今はあっちに集中しよう。俺の話は後でだ」


 彼の言葉通り、4人のことを凝視した。


 4人……左からフィン、サタナ、ガル、ソール。彼らの姿は、何故か全く変わっていなかった。9年弱は経っているんだ、少しくらい身長が高くなっていたり、髪型が変わっていたり……シワがあったっておかしくないはずだ。


 それなのに彼らは服装もあの時のまま。ガルに至っては、俺が追放されたあの日から何も変わっていないように見える。そのくらい……恐ろしいくらいに何の変化も見えない。


「お集まり頂きありがとうございます。我々デリーシャは活動を再開致します。モンスターを討伐し、世界を救います」


 上からで表情は見えにくいが、彼らの顔は笑っていないようだ。ガルは言葉を発するだけで動きが無い。まるで操り人形のように、言葉を発する以外の動作は許されていないように見える。


 この違和感に気付いたのは俺だけじゃなかった。横にいるタイガも呆然としていたが、すぐに行動に移した。レストランの中にいる女性の治安兵士メンバーに連絡をとっている様子。というかこんな間近に他のメンバーもいたのか。


「どうなっているか分からないが、どうするべきだ?」


「君はマイトくんを保護しよう。私はレストラン外にいるメンバーと話す。これは単純な出来事じゃない。見て分かるがな」


 彼らが話し合っている間も、外にいるガルは話を進めている。


「モンスターを討伐し、世界を救う。これだけのために頑張りました。無能であるマイトを追放し、影で努力しまし----まぁいいでしょう。真の計画を話します」


 妙に敬語を使う彼は、背中に差していた剣を取りだし、それを天を突き刺すように掲げた。


「世界を真の意味で、救います」


 彼は掲げた剣を下ろし、人混みに向かって剣を向けつつ……ある発言をした。何を発言するのかと、皆ゴクリと唾を飲み込んだ。それほど緊張している。




「世界に……宣戦布告をする」





 彼がそう発言した瞬間、彼らの後ろにそびえ立つハロス城が突然……ドカンと爆発した。衝撃波によってレストランのガラスは全て割れ、何人かがその破片によって傷付けられていた。轟音の中、人の叫び声も耳に入ってくる。


「どうなってんだよ……デリーシャって……と、とにかく逃げるぞ、俺はお前を保護する係だ。避難誘導は他の治安兵士メンバーに任せる……行くぞ!」


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