第19話 マーナガルム
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俺たちは音の鳴る方向へ駆けた。森を突っ切ることはできない、別のモンスターに遭遇してはいけないから。となると、グルリと遠回りしなければならないが、急いでいるなら逆に遠回りした方がいい時だってある。それが、今。
仮面を着けての全力疾走のため、疲労がすぐに全身に回ってくる。それで彼らは、周りに人が居ない時はこっそり仮面をズラしたりして対処していた。俺はできなかったが。
それで目的地に着くまでの間、走りながらもタイガの推測を聞いた。
「確証は無い、ただ1番人が集まっていたのは小道だ。モンスターからすれば人は襲う対象なんだろ? それなら集合している場所を狙うだろ」
そうだ、小道には結構人がいた。マーナガルムのことを詳しく知らないが、人の多さで襲う場所を決める、賢いモンスターも存在する。それは上級や下級関係なく、種族も関係なく。
ゴブリンやオークは基本、目の前にいた人間を襲う。しかしゴブリンやオークでも特殊な個体は、目の前にいる人間と数が多く遠くに離れている人間たちを見つけた時、その遠くにいる複数人を襲う。それはモンスターの本能なのか、未だに解明されていない。
マーナガルムは基本がそれなのか、たまたま特殊な個体だったのか。どちらにせよ、早く向かわなければ。
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「やめろ……やめてくれ」
「助けてくれよ」
マーナガルムの体は大きいため、少し離れていても姿が見える。顔は狼で、体は人間。逸話通りに体も大きく、木の何倍も高い。真っ白の毛に覆われて、人間の手には鋭い爪が付いている。
実際に到着すると、マーナガルムの近くには、傷を付けられた討伐者たちがわんさかいた。静かな小道に、大量の討伐者が集っていたのだから、マーナガルムも怒っているんだろう。
「お前ら……やめ」
「見てないで助けろよ!」
次々に討伐者が倒されていく。
仲間が倒されていない討伐パーティーの人たちは逃げ惑い、仲間が倒された討伐パーティーの人たちは果敢に立ち向かおうとするも、上級モンスターの上であるマーナガルムに敵うはずなく次々に倒されていく。
木をなぎ倒しながら、マーナガルムは進む。
方向は俺たちのいる方……ではなく、ポリスタットの方。シティストとポリスタットの中間に位置するこの場所。奴は討伐者を倒すことに快感を覚えたのか、より人の密集する都市の方へ向かった。
「そこの仮面野郎! 早く逃げろ、ポリスタットにし----」
俺たちに逃げるよう伝えた討伐者は、マーナガルムに足を掴まれ、空中に放り投げられた。少し経って、遠くからガサッと音がした。恐らくはそこに落下したんだろう。
マーナガルムは、上級モンスター中の上級。最初から敵う相手じゃなかったんだ。
でも、俺たちはまだ奴と戦っていない。
俺たちで敵わなかったら、諦めよう。俺には謎の力が湧く予感がする。
巨人を背後から斬りかかった時、脳に電流が流れたように力が湧いた。その力で飛び跳ね、巨人の頭の高さまで到達した訳だが、今もそれができそうな気がする。
「タイガ・ホーク・ジェスは、奴の右足を。ジュリー・ユーゴ・シータは左足を斬ってくれ。俺は弱点を狙う」
彼らは俺の指示通りに動いた。
タイガたちは奴の足元に忍び込み、その巨大な足に傷をつけていく。流石の上級モンスターとなると、装甲が硬い。普通の剣では足を崩すことはできなさそうだ。
まず、俺には弱点が分かる。
これは訓練所時代に習った……とかでもなく、最近知ったこと。新聞に、出没地と同じ欄に書いてあった。しかし珍しいモンスターだからか、明確には記されていなかった。
巨人なら背筋、緑の巨人・ハロークなら首元と、比較的明確に記されているが、マーナガルムは……”頭のどこかにある”としか書いてなかった。頭のどこか……目かもしれないし耳かもしれない、口の中にある牙かもしれないし、首と頭の接着部分かもしれない。
どちらにせよ巨人の頭までどうにか到達しなきゃいけない。前みたいに力が発揮できればいいが、上手く動けるか分からない。
とりあえず、6人は戦ってくれている。
6人の頑張りを無駄にはできない。ここで討伐してやりたい。
俺はデリーシャ時代から使ってきた剣を右手に持ち、盾は背中にしまったまま奴の背後から斬りかかった。弱点は頭のどこか、ならまずは頭の位置を低くしよう。
奴が6人に気を取られているうちに、背後から膝の裏側を斬る。足の装甲が硬くても、関節部分まで硬かったら奴は動けないはず。
予想通り、膝の裏側に傷が付き、奴は手をついて倒れた。
これなら行ける、奴の足を伝い首の部分に到着した。四つん這いになっている奴の首部分に立ち、弱点ぽい物を探す。
自分の真上に剣を持った人間が立っている、そいつは自分のことを殺そうとしている。それなら、弱点を隠そうとするはず。なのに奴は弱点を隠そうともせず、四つん這いのまま何かを見ている。
それなら全てやってみよう。
モンスターの弱点はバラバラ、心臓を貫いたり首を撥ねたりすれば大体は死ぬが、巨大なモンスターや上級モンスターになるにつれて、それすら通用しなくなってくる。
「タイガは目を、ジェスは鼻を、ユーゴとシータは口を頼む。ホークとジュリーは腕の関節を斬って」
四つん這いで顔の一部に剣が届かないため、メンバーに頼んで攻撃してもらった。彼らでも普通じゃ届かない位置にあるが、俺が特訓したから大丈夫だろう。ジュリーは力持ちで、ホークには優れた頭脳があった。ここは彼らに任せて、俺は首を狙おう。
それで俺は、奴の頭と胴体の接着部分に向かって、剣を突き刺した。ここの装甲は少なく、簡単に奥まで達した。装甲が少ないのなら弱点じゃないのか、でも奴は急に悶え始めた。
「グルルッ……ウォッ……ヴォーン!!!」
マーナガルムは頭を抱え、激しく悶えた。
気が狂ったかのように頭を何度も地面に打ち付け、声を上げながら苦しんでいる。
と、突如。マーナガルムの全身が光り始めた。奴は俺を振り落とすようにグルグルと起き上がったため、俺は少し遠くまで飛ばされた。受け身を取っても、衝撃の影響で体が少し痺れるくらいに。
周りは光で包まれ、メンバーどころか奴の様子も見えない。6人はどうなった? マーナガルムはどうして発光なんかしてるんだ?
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