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第16話 何があった?

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 地面、ではなく……空中に俺はいた。死んだのか、それは違うな。目の前にはきちんと緑の巨人がいる。なら、どうやって俺は浮いているんだ。

 

 姿勢をキープしつつ周りを見ると、俺はどうやらハロークの腕に支えられているようだった。正確に言うと……奴のウネウネと動く4本の腕に俺の上半身は支えられている。腕はその後、ゆっくりと俺を地面に下ろした。


「フォルス、一体何があった?」


 巨大なハロークの背に隠れて、何があったか状況がつかめないメンバーたちは、心配するものの困惑していた。


 逆に状況を掴める、いわば上から見下ろしていた上級階級の人間たちは、緑の巨人に支えられて下ろされた俺を睨みながら、何かを叫んでいた。


「こいつ、緑の奴に助けられたのか!」

「緑の奴のグルだったか、けしからん!」


 彼らの大きな声は、戦いの場まで聞こえてくる。助けられた……のか? それなら、今までの戦いは何だったんだ? それに、モンスターと仲間……でもない。車のように実用的でない上、ハロークは人を襲う。俺のことを襲い、俺のことを助ける。ハロークは一体何がしたいんだ?


「グガッ……グル……」


 奴は呻き声を上げた。目から赤い輝きは消え、樹木となった身体も徐々に灰色へと染まっていった。所々に付いていた葉も茶色っぽくなって、やがて灰となり消えた。木で例えるなら、枯れた状態だ。


 俺は何もできていないが、死んだのか?

 他のメンバーが俺の元に駆け寄って来た。


「フォルス、まさか……1人でやったのか?」とユーゴが俺に問う。いいや、何もやっていない。俺がやったのは、剣を弱点に突き刺そうとして登ったまで。それからは奴に落とされて、勝手に助けられた。


「それは……助けなのか?」

「たまたま腕が当たっただけとか、奇跡が起きたのかもな」


 と、メンバーが口を揃えて言う。俺も信じ難いが、実際に起きたことだ。たまたま腕が当たったにしては、きちんと4本の腕で地面に落ちないように、人間の俺に合わせての行動だった。


 助けられた……と考えてみたいが、モンスターがそんな行動を取るはずがない。調教されているなら別としても。


「中止だ! 金はやらん、ここから去れ!」


 上から様子を見ていた上級階級のうちの1人が、そう発した。金はやらない? しっかり、2体の巨人を討伐したのに?


「俺は全てを見ていたぞ、巨人が腕を伸ばしてお前のことを助けた! これは間違いない、お前と巨人は仲間だったのだ、それで討伐されたフリをして金を稼ごうとしたんだな! それはもう見破ったぞ!」


 上の人は顔を真っ赤にさせ、椅子を蹴飛ばしながら叫んでいた。実際は違う、本当に何も知らない。モンスターと仲間になる訳がないし、その上討伐されたフリとか……もう訳が分からない。


 他のメンバーも必死に俺の弁護をするが、怒った人間は言うことを聞かない。逆に彼は剣を持ち、俺たちのいる方へ来ようとしていた。その剣で人を刺すつもりだったのか、それは他の方々に止められていたが。


「違う、俺は本当に1人でた……」


 自身の弁護を始めようとした所で、後ろにあった緑の巨人の死体らしき物体から、グツグツといった音が聞こえた。周りのメンバーも上にいる人たちも皆慌て始め、それなりの構えをしていた。巨人がまた動き出すと思ったのだろう、俺もそう思った。


 しかし、意外なことが起こった。


 ハロークの首元が赤く光ったと思えば、グニュ……という生々しい音と共に、俺の剣がゆっくりと飛び出して来た。デリーシャ時代から使っていて、奴の首のくぼみに落下した剣がだ。飛び出して来た剣は、重力に逆らわずに落下した。


「どうなってるんだ?」と皆困惑していた。俺も含めて、皆。


ひとりあえず、俺が動こう。何もしていないと、行動を取るよりも疑われると思って。


「この通り俺が討伐した。剣で、ハロークを倒した」


 落ちてきた剣を拾い上げ、それを高く持ち上げた。上級階級の人間に見えるように、高く。それを見つけて、納得したのか……納得はしていないだろうが、これ以上話しても無駄だと感じたのか、彼らは討伐したことを認めた。


「あぁ分かった、これ以上モンスターは用意できていない。もう早く行け、報酬は手配する」


 彼らはそう言うと、奥へ消えた。

 俺たちの勝ちだ。モンスターにも、彼らにも。


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 彼らの言う通り、報酬はきちんと用意されていた。メンバー7人分の現金、額は言えないが……2ヶ月くらいなら何もしなくても生活できるな。


「ありがとう、フォルス。お陰で結構入った。今日は最高の日だ」


 怪我をしメンバーに支えられているタイガがそう言った。仮面越しで表情は分からないが、口調からしても喜んでいるには違いない。


「ノーマッドの皆様はあちらの通路からお帰りください。真っ直ぐ行けば、ポリスタット内の新聞屋に出ますから」


 受付の女性はそう俺たちに告げると、暗闇の中へ消えていった。黄金に囲まれた空間でも、暗闇は存在する。彼女の言う通り、前に進んだ。


 新聞屋に到着するまで、メンバーとは何も話さなかった。


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