第99+1話 コンビニ強盗/トイレの事件/世界を守る
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ノーマッドというヒーローになってから、半年が経過した。少し前までは名も無きヒーローだったが、今はもう違う。黒いパーカーに白の仮面を被っているのは、ノーマッドのファンということになっているみたいだ。
街を歩く時は別の服装をしているが、スマホを持った若者たちが「ノーマッド最高!!」と叫んでいるのを何度か見た。それだけ影響力があるということだ、俺が生まれた時代より何十倍も何百倍も。
ただ、全員がノーマッドを最高だと思っている訳じゃない。もちろん「活動を休止しろ」と叫ぶ者もいる。助けられる命もあるが、助けられない命だってある。俺はその度に後悔する、何で彼や彼女を助けられなかったんだ……と。
時の石を持っているのに、時間の流れを変えることはできない。何度も試したが結果は同じ、俺が死ぬ時を除いて。自分で死のうとした時だけ、時間の流れと向きが変わる。自分勝手みたいで何か嫌だ。心の底にある悪の魂が、俺を吸い取りそうで。
もう、今はそれを超越した。
助けなきゃいけないんだ、俺が全てを。
俺には諦めている暇なんてない。
前のアパートには住めなくなったため、今はハーレムの屋根裏にひっそりと暮らしている。といっても前の空き家みたいな感じだ。荷物を置く場所だけあればいい……と伝えたら快く貸してくれた。トイレやシャワールームは共用だし寝る場所も無いが、それは何とかなる。
それで屋根の上で寝ていると、大体遠くから「助けて」という声が聞こえてくる。石の効力で聴力も視力も五感も全てが強化されたため、どこで何がどうなっているかは直接頭に入ってくる。地下鉄の中であっても、飛行機の中であっても範囲内ならどこの声も聞こえる。
現に、今もだ。
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「僕アルバイトなんで、レジ開けれません」
「だったら店長を呼べ、早く開けないと撃つぞ」
真夜中でも営業しているコンビニエンスストアにて、強盗事件が起きていた。単独犯で、強盗の手には銃、それもハンドガンとかではなくショットガン。それで撃たれたら一溜りもないだろう、既に分解して撃っても弾は出てこないようにしたのだが。
ただナイフを腰に収納している、形状を変えたりしてナイフじゃなくすることもできるが、金属を変化させるのは難しい。小物から変形するタイプのナイフなら周りのプラスチックを変化させればいいが、ただのナイフなら持ち手を変化させるくらいしかできない。
とにかく、店員の彼が傷つかないようにすればいい、俺が傷つけられる分にはいいからな。
正々堂々とレジ近くの自動ドアから入店し、強盗の近くに立った。彼はショットガンを店員の頭に押し当てていて、入ってきた俺に対して「出ていけ!」と叫んでくる。
が、これは無視。
彼の懐に入るや否や、腹を思いっきり殴る。彼が吹き飛んでいる間に腰からナイフを奪い、それを左手でグチャグチャに握り潰した。物質を変化させられなくても、思った以上に握力で何とかなった。
天井に頭を押し付けられた彼だが、まだ意識はある。普通の人だったらここら辺で意識が飛んでいるはずだが……彼は強いんだろう。その才能をもっと他に活かしてほしかったな。
筋肉質な体をしているし、所々傷跡もある。どこかで格闘家をしていたのかもしれないな、それで金を稼げなくなったのかコンビニ強盗の道に走った……と勝手に推測しておく。
起き上がってきた彼の顔面に向かって、近くの棚に置いてあった缶ジュースを思いっきりぶつける。それももちろんただの缶じゃない、少しだけ硬さを加えておいた。至近距離から鉄の塊を顔面に喰らった彼は、鼻血を出しながらも倒れた。
流石に意識はなく、遅れてやってきた警察に連行されていった。現場検証になると長時間拘束されてその間は人助けもできなくなるため、要所だけ店員に伝えてその場から去った。店員からは缶ジュースの代金を請求されつつも感謝された。
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続いて俺はニューヨークの地下鉄の駅に向かった。空は飛べないため、家の屋根やビルの屋上や壁を、人では出せないような速さで駆け抜けた。
皆スマホを見ていて上を見ていないが、もし見ている人がいたらこう言うだろう……"宇宙人か?"とね。まぁ地球を守っていた石の力だし、元はと言えば宇宙の力なんだろうから実質宇宙人みたいなものだ。
服を着替えてマスクをすれば、もうノーマッドとは分からない。さっきも言ったように皆スマホに集中していて、大きな変化がないと簡単には気付かれない。同様に、イヤホンをしているからか助けを求めている人がいても皆気付かない。
駅のホームにあるトイレで、女性が男性に襲われているのを発見した。明確に言うと見ていないのだが、声と空気の流れと匂いからそれを感じ取った。声を出せない状況なのか、荒い息遣いしか聞こえない。しかしこれは普通に"ヤってる"んじゃない、彼女は犯罪に巻き込まれているんだ。
男トイレの左から4個目の個室で事件は起きている……とまで特定できた。後は、扉を破るのみ。と思ってトイレに入ったが中は既に不良グループに占拠されていた。複数人で交代交代にヤっているみたいだ、ならばまずは女性をいち早く解放しよう。
トイレの外に出て、プラットホームを渡り歩く。トイレの個室の裏にある壁に到着した後すぐ警察に電話して……事を済ませる。たった一枚の壁の向こうで彼女は助けを求めている。耳を壁に付ければその荒い息遣いも聞こえる。早く終わらせてやろう。
右手に力を込めて、壁に放つ。するとたった一撃でレンガの壁は崩れ、ヤってる様子が丸分かりに。抵抗されない内に彼の首を掴んで外に引きずり込む。更に彼女にノーマッドの時に着ているフード付きのパーカーを着せ、一旦逃がす。
そうしてトイレを出た。個室から出てきたのは男ではなく、パーカーを着た謎の人。当然不良グループの奴らは慌てふためき出口から逃げようとするが、個室の壁が崩れているのを見て逃げるのをやめた。
逃げるとあの壁みたいに崩れるんじゃないか、と思ったのだろう。一気に大人しくなった。1人が大人しくなれば伝染して皆抵抗の意志を無くしていく。警察の到着と同時に俺は仮面を着けて、その場から去った。トイレにいた奴らに「ノーマッドだ」と騒がれたが無視。
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これからも俺は、世界を守っていく。
世界は既に救ったから。
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