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アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第三部「砲艦戦隊出撃せよ」

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第十五話

 宇宙暦(SE)四五一八年三月九日。


 キャメロット防衛艦隊では艦を指揮する士官による大会議が開催されることになった。

 大尉が務める戦闘艇の艇長(スキッパー)などは除外されているが、出席する艦長の数はおよそ四万人となる。


 もちろん、これだけの人数の指揮官が一度に集まることは、物理的にも難しく、また、一度に多くの指揮官が集まることは指揮命令系統的にも問題があった。


 そのため、バーチャル会議システムを用いて会議を行うのだが、惑星間通信では時間差が大きいため、居住惑星単位で行われる。


 一回目は第三惑星ランスロットの衛星軌道上にある要塞衛星アロンダイトで三月八日に行われている。


 艦長にのみ公開された議事録によると、ヤシマ解放作戦はヤシマへの直接進攻を前提に、派遣する艦隊の規模やヤシマでの戦闘方針などについて議論されていた。


 そして本日、二回目の艦長会議が第四惑星ガウェインの衛星軌道上にある要塞衛星ガラティンおよび大型兵站衛星プライウェンを繋ぐ形で開催された。


 クリフォードも艦長室にあるバーチャル会議システムに接続し、会議の様子を傍観するつもりでいた。


 艦長会議といっても、通常は艦隊参謀長もしくは分艦隊司令以上、つまり中将以上の将官が発言するだけであり、大佐以下の艦長が発言する機会はほとんどない。


 まして、艦長になって一年に満たない少佐に発言する機会はあり得なかった。そのため、クリフォードは傍聴するだけとなる。


 防衛艦隊司令長官であるグレン・サクストン大将が議長となり会議の進行を行うのだが、彼は二メートル近い巨躯と強面の顔から剣闘士(グラディエーター)とか蛮人王(バーバリアンキング)とあだ名される猛将であり、こういったことは総参謀長であるアデル・ハース中将に一任することが多かった。


 この会議でも開口一番、「議事進行は総参謀長に一任する」と言って、椅子に深々と座り、目を瞑ってしまったほどだ。


 一任されたハース中将はサクストン司令長官とは対照的に小柄な女性士官だ。

 “バーバリアンキング”に助言する姿から、古の呪術師、“賢者(ドルイダス)”と呼ばれている。


 彼女は四十六歳で総参謀長になった切れ者だが、大きな鳶色の瞳が特徴的で見た感じでは三十代後半にしか見えない。しかし、戦術のみならず、戦略、更には政略にまで精通し、艦隊内だけでなく、王室や保守系の政治家からの信頼も篤い切れ者であった。


 この二人は長年コンビを組んでおり、ハースはいつものことと全く気にせず、会議を進めていく。


「では、小官が進行を務めさせていただきます。まず、作戦案について、作戦部長から説明してもらいます……」


 統合作戦本部の作戦部長が本作戦の目的などを戦略について説明を行い、艦隊の総参謀本部の作戦班長が実際の運用方法について詳細な説明を行っていく。


 三十分ほどで説明を終えると、派遣される各艦隊の司令官が順に意見を述べていく。

 司令官らは大艦隊で進攻すれば敵を殲滅できると考えているのか、艦隊の規模とヤシマ残存艦隊の処遇など、運用面での意見に終始する。


 一時間ほどで議論は終わり、クリフォードにはそのまま会議が終了するかに思えた。


(このまま終わってしまうのか?……これでは作戦が失敗することは確定的だと思うのだが……)


 そんなことを考えていると、ハース中将が発言する。


「……では、意見は出尽くしたようですね」


 そこでハースは何か思いついたかのようにサクストンに声を掛ける。


「折角ですから、若い艦長の意見も聞いてみてはどうでしょう? 閣下、それでよろしいでしょうか?」


 サクストンは目を開けることすらせず、「総参謀長に任せる」と承認する。


「ここで一番若いのは……そう言えば、有名な“崖っぷち(クリフエッジ)”がいたはずね。コリングウッド少佐。意見があれば聞くわよ。今はまさに“崖っぷち”なんだから」


 ハースは面白がるようにそう言い、艦隊司令官たちも“またか”と苦笑いしていた。

 彼女は茶目っ気がある性格から、時々このような“サプライズ”を行うことがあった。


 以前は艦隊戦の会議であるにも関わらず、陸兵である宙兵隊の将官に意見を求めたり、艦の整備を行う工廠長に意見を言わせたりしている。


 会議に参加している者たちは今回もその“サプライズ(いたずら)”の一環だと認識し、興味半分、諦め半分という感じで見守っていた。


 指名された方はそういうわけにはいかなかった。

 クリフォードは突然の指名に驚愕した。


(なぜ、私に意見を……マイヤーズ中佐に出した作戦案が参謀長の手に渡ったのか? いずれにしても、何も言わないわけにいかないし……)


 クリフォードは腹を括り、持論を展開することにした。


「クリフォード・カスバート・コリングウッド少佐です。若輩者ですが、意見を述べさせていただきます」


 バーチャル会議システムにクリフォードの姿が大写しになる。会議に出席している士官たちは、思ったより堂々としている彼の姿を興味深げに見詰める。


「今回のヤシマ解放作戦は失敗に終わる可能性が高いと思われます……」


 その瞬間、バーチャルシステムであるにも関わらず、ざわめきが起きる。

 更に第三艦隊司令官ハワード・リンドグレーン大将がテーブルを叩き、立ち上がった。


「何を言い出すのだ! 始まる前から味方の士気を落とすような発言をする気か! 貴様はそれが……」


 更に続けようとするリンドグレーンを制するようにハースが割り込んできた。


「リンドグレーン提督。私が、いえ、司令長官閣下が意見を求めておられるのですよ。その邪魔はしないで頂けませんか?」


 その小柄な体から出た声は落ち着きがあるが、有無を言わせない貫禄があった。リンドグレーンはブツブツと謝罪の言葉をサクストンに向けて言ってから着席する。


「不規則発言は控えて下さい。では、続けてちょうだい、少佐」とハースは言い、クリフォードに続けるよう促した。


 クリフォードは小さく頷いて説明を再開する。


「……ヤシマに直接進攻したとして、ゾンファ軍がヤシマ国民を人質にとって撤退を迫れば、我々は撤退せざるを得ません。もちろん、ヤシマ艦隊を同行させていなくても状況は同じでしょう。こちらは見殺しにすれば国際的な非難を必ず受けますが、ゾンファ軍の上層部が他国からの非難など一顧だにしないでしょう……」


 クリフォードはマイヤーズに提出した作戦の骨子について、理由を含めて説明していった。


「……つまり、ヤシマに直接進攻する前に敵が退却したくなる状況を作る必要があると考えます。特に強硬派に属するホアン上将が“転進”したくなる状況が必要と考えます。私からは以上です!」


 三分ほど話し続け、最後に敬礼して着席する。

 クリフォードは目立たないようにふぅと息を吐きだした。


(言わなければならないことだが、さすがに緊張する。メディアに追い回されて度胸だけは付いたからな……こう考えると記者たちに感謝すべきなんだろうか……)


 彼の発言が衝撃的であったためか、クリフォードが着席しても誰も口を開かず、会議は沈黙に支配された。


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― 新着の感想 ―
[一言] 一気読みしまいました、気にしたら朝になった 久しぶりにこんなに出来がいいSFモノを読みました、すごく良かったです。
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