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アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第二部「重巡航艦サフォーク05:孤独の戦闘指揮所(CIC)」

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第三十四話

 宇宙暦(SE)四五一四年五月十五日 標準時間〇三〇〇。


 アルビオン王国軍キャメロット第五艦隊、第二十一哨戒艦隊はゾンファ共和国国民解放軍八〇七偵察戦隊との死闘を終えた。


 四等級艦(重巡航艦)HMS-D0805005 サフォーク05の戦闘指揮所(CIC)では、副長のグリフィス・アリンガム少佐が指揮官シートで、破損箇所の応急修理の指揮を執っている。


 アリンガムは内部破壊者(インサイダー)対応訓練が終わったというアナウンスを聞き、直ちにCICに向かった。


 その途中、運悪く敵の猛攻を受け、その衝撃で通路の壁に叩きつけられた。幸い重傷を負うことなく打撲程度の怪我で済んだため、治療を受けることなく、CICにたどり着き、クリフォード・コリングウッド中尉から指揮を引き継いだ。


(結局、私は何もできなかったな。生き残れたのは、すべてコリングウッドのおかげだ。それにしても、モーガン艦長も愚かな最後だったな。敵の罠に使われて殺されたんだから。自業自得とはいえ、哀れなものだな……)


 彼はこの戦いがアルビオン王国(祖国)ゾンファ共和国()の関係にどのような影響を与えるのかを考えていた。


 戦いは終わったが、敵の本隊、大破した重巡航艦、中破した軽巡航艦、小破した駆逐艦と無傷の駆逐艦の計四隻は、未だに針路を変えず、〇・二(光速)の慣性航行を続けている。


 敵分艦隊の駆逐艦二隻もこちらの針路上から退避するように加速を開始し、本隊に合流する針路を取っていた。


 分艦隊の大破した軽巡航艦は通常空間航行用機関(NSD)か、エネルギー供給装置であるパワープラント(PP)を損傷したのか、未だどの方向にも加速せず、漂流を続けている。そして、彼我の距離は三光分となり、更に距離は開いていく。


 一方、味方の状況は駆逐艦三隻喪失、重巡一隻中破という大きな損害を受けた。

 ちなみにゾンファのフェイ大佐はサフォークの損傷を大破と評価していたが、実際には戦闘も航宙も可能であり、ゾンファ側の重巡航艦ビアンより損傷は軽微だ。


 そして、本隊である第五艦隊がいるアテナ星系に向けて、加速を続けている。

 現在、〇・一C程度だが、あと十五分ほどで星系内最高巡航速度の〇・二Cに達する予定だ。


 〇・二Cの速度を維持すれば、二十五時間後にはジャンプポイント(JP)に到達できるが、哨戒艦隊の指揮官代行イレーネ・ニコルソン中佐はJPに向かうことを命じただけで、アテナ星系にジャンプするかは明言していない。


(敵の出方を見ているのだろうな。敵が向かうハイフォン星系側JPはここから一光時程度だ。敵が針路を変えれば、十時間以内にJPに到達できる。位置の関係でこちらを攻撃するすべはないが、念のため、敵がこの星系を去るのを見届けるつもりなのだろう……)


 そして、漂流している軽巡航艦のアイコンに視線を向けた。


(……その上で漂流している軽巡航艦を拿捕し、生き残りの乗組員を捕らえるつもりなのだろうな。まあ、アテナJPに行くのに二十五時間。戻ってくるのに同じ程度の時間が掛かるから、敵もNSDやPPが完全に破壊されていない限りは脱出するんだろうが……)


 アリンガム少佐は指揮を執っているサフォークの損傷状態について考えを進めていく。


(幸運なことに、人的損害は考えられないほど少なかった。偶然とはいえ、艦中央ブロックに、ほとんどの乗組員がいたことが被害を小さくしたようだ。まあ、訓練終了のアナウンスを聞いて走り始めた直後に、直撃弾というのは結構痛かったが……)


 彼を含め、士官室や兵員室がある中央ブロックから部署に走ろうとしていた乗組員たちは、通路上で艦を大きく揺さぶる衝撃に見舞われた。


 そのため、骨折や脳震盪を起こす者が多数出たが、ありがちな放射線障害もなく、艦の被害に比べれば、信じられないほどの戦死傷者数だった。

 今回の戦死者は、主兵装ブロック(MAB)とJデッキの格納庫にいた不幸な数名だけだった。


(三隻の駆逐艦に乗っていた者は運がなかったな。逃げる時間もなく、僅かな数の脱出ポッドしか射出されなかったそうだし……特にウィザードの連中には感謝しきれん。身を挺して守ってもらわなければ、死んでいたのは我々だったのだから……)


 脱出ポッドと、先に通信のため発進したサフォークの搭載艇マグパイ1(かささぎ1号)に乗る副航法長のグレタ・イングリス大尉は敵との交戦の可能性がなくなってから回収されることとなっていた。


 マグパイはともかく、脱出ポッドはアテナ星系から送り込まれる増援部隊の到着まで、放置される可能性があった。


(脱出者には悪いが、敵の出方が分からん以上、ニコルソン艦長の判断は正しい。大型艇(ランチ)を出したとしても、この速度では拾い上げるのに時間が掛かり過ぎるからな……)


 アリンガム少佐は戦術士のネヴィル・オルセン少佐の横に座るコリングウッド中尉を見た。


(それにしてもコリングウッドは噂以上だな。航宙日誌(ログ)を確認したが、あの状況で私に同じことをやれと言われてもやれる自信はない。もし、私がCICにいたとしたら、この艦隊は既に消滅していただろう。私には通信手段を思いつけないだろうし、敵を罠に掛けるなんて大胆さはない……)


 そこで僅かに苦笑する。


(ネヴィルの横で、兵装の確認をしている姿を見ると、士官候補生といった方が似合うのだがな……今はこんなことを考えている暇はないな。まだ、敵がどう動くかわからんのだから……)


 彼はそこで軽く頭を振り、艦の正常化に向けて集中していった。



■■■


 第二十一哨戒艦隊の臨時旗艦、五等級艦(軽巡航艦)HMS-F0202013ファルマス13の艦長、イレーネ・ニコルソン中佐は敵の動きを注視していた。


(距離は三光分。まだ敵はどの方向にも加速していない。あの進路をとる限り、今すぐ加速を開始したとしても、敵がアテナ側JPに着くには三十時間以上掛かるわ。とりあえず、生き残ることはできた……)


 彼女は戦略的見地から指揮下の艦をどう運用するか考え始めた。


(恐らくだけど、敵の意図はこちらが警告を無視したから、敵対勢力と判断して殲滅したという話をでっち上げること。こちらを殲滅してしまえば反論しようがないから。だから、こちらが一方的に停戦協定を破ったと主張して、このターマガント星系を実効支配する。もしかしたら開戦の口実に使うつもりかもしれないわね……)


 記録されていた敵の通信を再生し、敵がゾンファ共和国軍であることは確認された。

 ニコルソン艦長は敵艦隊に向けて通信を行うことにした。


「本星系に不法に侵入し、敵対行動を取る船団(・・)に告ぐ。私はアルビオン王国軍キャメロット第五艦隊所属、第二十一哨戒艦隊指揮官代行のイレーネ・ニコルソン中佐である。貴船団が自ら主張するとおり、ゾンファ共和国国民解放軍所属であるなら、今回の行動は先の停戦合意に違反する行為であり、アルビオン王国政府代表として容認することはできない。現在、アルビオン王国の支配宙域である本ターマガント星系内最高位士官として、速やかな降伏を勧告する。本勧告を無視あるいは曲解する行動を採るのであれば、我が艦隊は全力をもってこれを排除するものである」


 そして、ニコルソン艦長は、唯一生き残った駆逐艦ヴェルラム06を生存者の救出に向かわせることにした。


(これだけ脅しておいてヴェルラムを攻撃すれば、言い訳のしようがないはず。もちろん、さっきまでの戦闘だって言い訳はできないのだけど……厚顔無恥なゾンファだから、さっきの戦闘についてはこちらの旗艦から通信がなかったとか言い訳をするんだろうけど……)


 駆逐艦ヴェルラム06はすぐに回頭し、脱出ポッドの回収に向かった。


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